第16話 爆炎の業火―3
「あー! クロ、どこ行ってたの? 探したんだよ!?」
ロートスが俺に駆け寄る。
「ごめんごめん、しかし数分じゃないか」
すると後ろからキークも歩いて登場。少し冗談ぽく笑いながら言う。
「宝器に連れ去られたのかと思って心配したよ、クロ」
「あれ、お連れさんたちはどうしたの?」
「ああ、奴らは他のところを探させている」
「ふーん」
「しかし、不快なことだ」
「何が?」
俺は顔をしかめながら続ける。
「お前たちのことだ。着いてきたいならコソコソと俺たちの後ろを追ってきたりせずに、言ってくれればいいのに」
少しの間沈黙が流れた。
「気づいていたか」
キークは目を細めてクロを見つめる。俺は二人に背を向け、辺りを見回しながら言う。
「お前たちは、あれだろう。俺たちを見張って動向を報告しろとでも言われてるのだろう?」
ロートスとキークは先程から若干身を低く構えている。おそらく正体と目的を知られたため、この場で俺と戦闘になる可能性を想定してのことだろう。
「そう警戒するな。今の周辺状況を知れ。お前たちは俺にかまってるほど暇じゃないはずだ」
「なんだと……?」
キュウウウン……。
すると坂道の向こう側から、なにやら黒く気持ちの悪いオーラが、怪しげな音を立てて地を這うように流れてくるのを確認した。同時に周辺が暗くなり、立っている道の両側の林は、十メートルより向こうが闇で閉ざされているように見えなくなっていた。
やがてコツンコツンとヒールの足音が聞こえだした。山の小道をヒールで歩くなんて、危ないな。
「ふふふ。そうね、そうよね。いるわよね、宝器使い」
闇の中からやがて姿を現したのは、フィッシュテールスカートの、肩の出たドレスを着た妖艶な女だった。
****
エクレールは、歯を見せた不敵な笑みを浮かべ、掠れた声で複数のスキルを発動する。
『エクレールスピード』
『イベイドモーション』
『フォーカス』
『リペレントオーラ』
四つほど発動し終えるとエクレールはエーテを見て、うーん、と小さく唸る。そしてもうひとつスキルを追加した。
『ペネトレイト』
「準備は終わったかよ?」
エクレールはそれに応えず、今にでも襲いかかってきそうな雰囲気だ。
はぁ……。
目に赤い光が映る。
「かかってこいよ」
そう言い放ったエーテの言葉が合図かのようにエクレールは飛びかかる。
閃光のような斬撃をひとつ、エーテに浴びせたかのように見えたが、残念ながらそれは空を斬っていた。
真横に立つエーテ。
「お前ェ……。どうやって避けたか知らねェけどよォ」
「離れろ。『ランダムファイアマジック』」
エーテの右の手のひらから炎が発生し、それは火炎放射のように発射された。
エクレールは間一髪で避ける。
「チッ。魔法かよ」
「魔法じゃねえ。スキルだ」
手に残った炎を、パンパンと両手を叩き合わせて払うエーテ。
「まあ、何でもいいわ。俺様には当たらないから関係ねェ話だァ」
『ランダムファイアマジック』
エクレールを無視するかのようにもう一度同じスキル名を唱える。すると次は、右手に重く熱い火の感覚を感じ始めた。エーテはそのまま右腕を横に水平に広げる。
そして手に集まってくる熱い火のエネルギーを、手を前に振り発射した。それは大きな矢のような形状になり、エクレールに襲いかかる。
「ソイツはッ……! 知ってるぜェェェ!」
その魔法は昔に見た記憶があった。記憶は曖昧だが、昔にエクレールを敗北に導いたひとつの要因が、それだったのだ。忌まわしいあの家族の顔が浮かぶ。
エクレールはギリギリでひらりと回避した。そしてそのままの勢いでエーテに斬りかかる。エクレールの身体は電撃を発し、光速でエーテに近づく。
「オラアアアアア!」
『ランダムファイアマジック』
ガキン……!
やっと刃が届いた、そう思った。だが、エーテは爪のような形の火を右手に纏わせ、斬撃を防御していた。
「……は、はァ? 待て、お前ェ一体何者だよ……」
これを目の当たりにしたエクレールは絶望するしかなかった。黒目がクルクルと泳ぐ。
今の瞬間以上の相手のスキ、そして自分の優位さは、これ以降の戦いの中で作り出せないと思えるほど上手くいったのに。
これは仮に自分の片方が残っていても、勝てる相手ではなかったとエクレールは思った。
「よし、もういいだろう」
「何……が……」
「恩人に言われただけの時間を稼いだからよ。終わらせるわ。楽しかったぜ」
寒空の下で戦っていたつもりだったが、辺りはいつの間にか少し暑さを感じるほどになっていた。
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