第4話 お見合い

そして私は、26歳になった。

 無事に大学を卒業した私は食品メーカーの会社に就職した。

 理由としてアレルギーや病気、環境などで食べたいものを食べることが出来ない人達に美味しい食事を届けたいから。

 私は、アレルギーでも病気でもましてや食べられないような環境にいる訳ではないけど、"食べられない"という気持ちは良くわかる。私の場合は解決の糸口さえわからないけど、他の人達やいつかは解決していくことが出来るはずだ。

 私は、食品の研究者ではないけどその想いを実現する為に懸命に日々働いた。

 恋愛はあれからはしていない。

 恋心を抱かない訳ではない。

 結婚に憧れがない訳でもない。

 でも、あれ以来、一歩を踏み出すことは出来なくなってしまった。

 好きな人が出来て、またアレが起きてしまったら・・・

そう思うと怖くて動けなかった。

 今は仕事さえあればいい。

 そう思って日々邁進していた。


 そんな時だった。


「ねえ、美織ちゃん。お見合いしてみない?」

 久しぶりに我が家を訪れた母の妹、つまり叔母が唐突に言ってきた。

「お見合い?」

 私は、声を上ずる。

「そうお見合いよ。お見合い」

 叔母は、楽しそうにコロコロ笑う。

 叔母は、母に似て知性的な美人顔をしているが几帳面な母に比べて何の前振りもなく直球で話してくる。

 今もリビングでお茶を出すや否やで話してきた。

「ちょっといきなり何なの⁉︎」

 母も妹の突然の言動に少し呆れ気味だ。

 しかし、叔母は気にした様子も見せずに話しを続ける。

「主人の友達のお子さんがね。こっちで小学校の先生をしてるのよ。もうすぐ30歳になるのに彼女もいないらしくてご両親が焦って、いい人がいたらお見合いさせたいって相談されたのよ」

 それは非常に大きなお世話だ。

 この時代、好きで独身でいる人もいるというのに、周りが勝手に騒いでいい迷惑だ。

 私は、あったこともないその男性に同情した。

「でも、いい人なんて言ったって中々いないでしょう?そう思った時にこんないい人が身内にいたことを思い出したのよ」

 そう言って私を見てにっこり笑う。

 この時ほど叔母が身内であったことを恨んだことはなかった。

「ごめん叔母さん。私、結婚する気なんて今のところないから」

 私は、はっきりと断った。

「今は仕事で忙しいの。そんな暇ないわ」

「ええっ・・・」

 叔母は、露骨にがっかりする。

「じゃあさ。断ってもいいからお見合いだけでも受けてくれない?主人の顔を立てると思って。ね・・費用はあちら持ちだから心配しなくていいし」

 そう言って両手を合わせて頭を下げてくる。

 私は、母と顔を見合わせる。

 母も困った顔をしていた。

「・・・お見合い場所はどこなの?」

 私が恐る恐る聞くと叔母は顔を輝かせる。

「まだ決めてないわ。美織ちゃんの好きなところでいいわよ」

「・・・和食の出ないところなら」

「じゃあ、お洒落なホテルにするわね!ありがとう美織ちゃん!」

 叔母は、私の両手をぎゅっと握りぶんぶん振った。

 私は、ほとほと困った顔で愛想笑いを浮かべる。

 まあ、叔母さん顔だけ立てて断ればいいか。

 その時はそんな風に考えていた。

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