第4話 夜の怪奇現象

 「あと、一つお願いがあるんだけど」


 二本目のカフェオレの蓋にストローを挿しながら柳楽は喋る。

 …カフェオレ好きなのか…。


 「お願いって?」


 「能力者を見つけたら、すぐに教えて。できるだけ接触しないで」


 真剣な面持ちで言う柳楽。


 「え、俺たち以外にもいるの?」


 「当たり前じゃん。だから、いたら直ぐに連絡して」


 「…なんかあるの?」


 「…なんでもいいから、絶対に一人で行動しないで」


 「お、おう…」


 今までの柳楽からは考えられないくらい、強引な話の進め方だった。

 なんだかんだ言って、俺が理解するまで細かく説明をしてきた柳楽が、今回だけは違った。

 まぁ、取り敢えず言う事聞いておくか。


 「わかった、って言ってもそんな簡単に会うわけないだろうけどな」


 「何言ってるの。これから会うんだよ?」


 「…は?」


 何を言っているんだこいつは。

 そんな風に思っていると、柳楽は呆れた顔を向けてくる。

 おいやめろ。


 「今朝見たでしょ。UFO」


 「あぁ、お前が壊したやつな」


 「壊してない、壊れたの」


 「あ、はい」


 別にどっちでもいいだろ。


 「あのUFOはやり過ぎ。あまりにも非現実的すぎる」


 「能力、とか言ってる時点で非現実的だけどな」


 「現実だよ」


 「そうでした…」


 マジでこれが現実なんだなぁ、と今までの現実から逃げていると、前の方からズズズッとカフェオレの容器が空になる音が聞こえてきた。

 え、さっき開けたばっかりだよね?


 「だからあのUFOの犯人を止めるよ」


 「えぇ〜、ほっといてもいいんじゃないの?」


 「だめ。能力者だってバレたらその人、大変な事になるよ」


 「生体実験?」


 「とかね」


 あぁなるほど。つまりこいつは能力者に注意喚起をして、生体実験みたいな残酷な被害に遭わないようにしているわけか。

 とんだお人好しじゃないか。


 「悪用したりする人もいるから、あまり公にしないようにしなきゃ…」


 「そか…まぁ頑張れよ」


 「だから麻月君も手伝うんだよ?何いい話風に締めようとしてるの」


 「マジかぁ〜…」


 俺の完璧な逃走術が無効化されてしまった。

 なるほど、これが能力を無核化する能力か…。



 〜 4、夜の怪奇現象 〜



 どこの学校も二十一時にもなれば、生徒はもういない。教師だって、さすがに帰宅している頃だろう。

 校門は閉められ、玄関の鍵を掛けられ、中には鍵を持つ関係者以外に立ち入る事のできないような状態になっている。


 そんな閉められた校門の前に、なぜか俺と柳楽は訪れていた。


 「入学早々にやらかしたくないんだけど」


 「芋蔓式に能力者が特定されて、麻月君も生体実験されるかもよ?」


 「それはそれで嫌だなぁ…」


 マジであり得そうだからやめてほしい。

 変な薬とか痛い事とか想像したくない。


 「それで、なんでこんな時間に学校なんだ?」


 「犯人は多分、自分が能力者だって事をバラす気はないんだと思う」


 ん、んん?

 俺の質問に対する答えとは関係のない答えが返ってきたぞ?

 …取り敢えず気にせず話を進めてみるか。


 「なんで?」


 「バラして自慢したいんだったら、UFOと一緒に出てくるでしょ。私が動かしてまーす、みたいに」


 「なるほど」


 確かに、能力を見せびらかすのが目的なら、正体を隠す必要はないな。

 そんな事を考えていると、隣から盛大なため息が聞こえてきた。


 「…何が楽しいんだろ…」


 「目的がわからんな」


 「普通に悪戯だと思うよ」


 「…悪戯?」


 「他人が自分が操作しているUFO見て、リアクションしてるのを見て楽しんでるんだと思うよ。まったく、何が楽しいんだろ…」


 「…愉快犯…か…」


 普通にヤバいやつじゃん。絶対関わりたくないタイプ。

 てか帰りたい。帰っていい?だめ?そうですか…。


 「んで、それがさっきの質問とどんな関係が?」


 「…麻月君って察しが悪いよね」


 「なんで急にディスられてんの?」


 はぁ、と目の前でため息を吐かれる。

 うむ、解せぬ。


 「あの壊れたのUFOを本格的に、学校側が警察に訴えたりしたら?」


 「…特定されるかも…?」


 「うん、だから犯人は壊れたUFOを回収しに来るはず」


 「なるほど」


 だからバレないように、誰もいないこの時間に来るかもしれないって事か。


 「でも、校門閉まってるじゃん。犯人どころか、俺たちも入れなくない?」


 「大丈夫。この学校、駐輪場からなら楽に入れるから」


 「いや、全然大丈夫じゃないよ」


 何を思って「大丈夫」と言ったんだろうかこいつは。


 「じゃあ、行こっか」


 淡々とした口調で、まるで行くのが当たり前、とでも言う様に俺を見てくる。

 それを見て、俺は諦めた。


 「…わかったわかった」


 「うん、よろしい」


 どうせ断っても、何かと理由を付けられて丸め込まれそうな気がする。こいつ、結構強情なところあるし…。

 そんな事を考えながら、ふと空を見上げると、月がぼんやりと光っていた。



 …



 「そういえば思ったんだけど、犯人が既にUFOを回収してるって説は考えられないのか?」


 駐輪場に着いた俺たちは、誰か来たらわかるように、入り口が見える位置で隠れていた。


 「ないよ。だってUFOはここにあるもん」


 そう言いながら、柳楽は鞄から壊れたUFOが入った袋を取り出した。

 いや、なんで持ってるんだよ。

 やっぱこいつもヤバいやつだわ。


 「いつの間に…」


 「今朝、麻月君と別れてから直ぐ取りに行ったよ」


 「いや、行動力すげーな」


 「まぁ、朝のホームルームは遅刻しちゃったけどね」


 「問題児じゃん」


 「失礼な」


 そう言って、ちょっとだけムッとした顔をする柳楽。

 いや、悪いのは完全にあなたよ?


 「まぁ、いいや。んじゃ、そのUFOは俺たちの手にあるから、俺たちはここで誰かが来るのを待っているだけでいいって事?」


 「うん。仮にもし、もう中に入っちゃってるとしても、出て来るのを待っていればいいだけだし」


 「…俺、お前と敵対したくないわ」


 「だから言う事聞いておいた方がいいよ?」


 そう言いながら、小さく笑う柳楽。

 怖っ!

 この子こんなにかわいい顔して、めちゃくちゃ怖い事言うじゃん!

 俺が目の前のかわいい恐怖に戦慄していると、柳楽は駐輪場の入り口の方を見て、姿勢を低くした。


 「…意外と早かったね」


 口元で人差し指を立て、もう片方の手で入口の方を指差した。

 俺は黙ってその方向を見る。

 するとそこには、明らかに学校の敷地内に侵入しようとしている人影が見えた。

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