五時限目 マスカレード・チャット

ネットという言葉を言い換えるとするなら「リモート三人寄れば文殊の知恵」だ。ネットには様々な専門家、マニア、オタク、インフルエンサーがいる。

某やほおお知恵袋などにわからないことを書き込めば、どんなマニアックなことだろうとそれなりの返信はくる。

しかしそんなことを言う私は某やほおお知恵袋など活用していない。

限られたコミュニティの中で交流をするチャットアプリでわからないことを聞くことが多い。

チャットアプリでなにかしらの専門のグループに属すると、面白い出会いがたくさんある。

学生なのかなと思っていたらバリバリな大人だったり、自分より圧倒的に技術があるのに年下だったり。

私はこの現象をカッコつけてマスカレード現象と呼んでいる。

マスカレード、つまり仮面舞踏会である。みんな素顔を隠して若々しく会話を楽しんでいる。

彼らネット民は愉快で楽しい奴らが大半だ。一部無神経な物乞いや荒らしがいるものの、そんなときこそネット民最強のスキル「団結力」で荒らし野郎を文字通り一蹴できる。

逆に言うと、ネット民を集めればグループ、サーバー、Webサイトの一つや二つだっていとも簡単に破壊してしまうのだ。北の独裁者もびっくりな攻撃力である。

でもこれは中身が人間そのものということを表しているようなものだ。団結すれば鬼よりも神よりも強く恐ろしい。人間はそうして生き残ってきた。

そして私は、ここでなら割と友達がいる。

典型的なネット暮らしの陰キャである。

最近はネット暮らし現実離れのいわゆる引きこもりがまた増えているらしい。しかしその気持ちは十分わかる。現実の人間は冷たく、どこに起爆ボタンがあるか分からず、話しかけづらいのだ。更に起爆ボタンによって作動する「モノ」は様々で、私のキャパシティを超えたトークのスイッチだったり、単純に怒りのスイッチだったり、面倒くさい性格のスイッチだったり。とにかく死ぬ気で話しかけなければならないのだ。

今日はグループの中で、「亀とうさぎって現代で言うと動く点Pと点Qだよな」という謎の話題で盛り上がっていた。

皆口々に「ラブコメの題材に良さそう」とか言ってるが、必ず誰かが「動くな点Pィィィィ」と叫んだりしている。あの計算は心底面倒くさいことから、点Pがじっとしていれば計算せずに済むということでよく言われる。私も同感だ。文系にあのような呪文を解けるはずがない。

パソコンの時計を見ると、午前1:07と表示されていた。寝なければ。

布団に入ってから、何故か月浦さんの「友達を作れ」という話が頭に浮かんできた。

「ああもう。分かったよ・・・」

多分、大きな決断をするときは捨て身をする気で一つの答えに走らなければならない。

私は今、ちょっと前の私を捨てて現実で友達を作る決心をした。

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