二時限目 灯台下暗し

「灯台下暗し」という言葉ほど長らく通用することわざはないと思う。

消しゴムを落としたとき、私はまず遠くに行ったと考え、目の前にある青と白と黒のあの消しゴムには気づかない。

さんざん座ったまま探して、挙げ句立って探したあと席に戻るときに発見するのだ。

あるある、ねえよんなもんという人もいるだろうが、灯台下暗しはすべての人間に当てはめることができる。

どんな自己否定の鬼でもどこか傲慢なところはある。それを自分で自分に嘘をついて、足元にある本当の自分と本当の問題に目を向けない、というか見えないのだ。自己暗示っていうこと。暗示、暗いだけに。

これは欠点とは言わない。

一種の習性みたいなものだからだ。だからといって棚に上げまくるのもけしからん事だとは思うが。

今の怠惰な行政もそんな感じがする。政府も政府で一応頑張っているとは思うが、居眠り議員を見るとやっぱり信用に値しない。

「新宮深琴ー。名前書けー」

「あ、すみませんでした。」

今日のログインボーナスのミスは昼ご飯前だ。

今日は調子がいいのかもしれない。

「あ、新宮。お前そういえば」

先生は教材とかいろいろ入っているかごから1枚の紙を出して、私の前に差し出した。

進路希望調査票だった。

「ここ。高校じゃなくて『高等学校』な。」

私はその一瞬、時間が止まって静寂が訪れたように感じた。

あれだけ苦労して集中して精神と時間削ったのに、ボールペンで書いたがゆえに1からとなってしまった。やっぱり調子はいつもどおりだ。

初歩的すぎる、というか珍しすぎるミスに気づかなかったのも、灯台下暗しなのかもしれない。

家に帰ると珍しくお父さんがいた。

「おかえり。」

「ただいま。今日仕事は?」

「すっぽ抜かした。クビだって。」

「はぅ!?」

「冗談。夜勤だよ」

お父さん、地味にシャレにならないからやめて。その本当だったら深刻すぎる冗談。

「お前あれ出したか?進路希望の紙」

「間違えてたから1から書き直し」

「うっ・・・慎重に書けよ・・・あ、そういえば俺のメシはどうなるんだ?」

「知らない。コンビニで買って食べて」

「すまなかった。あれは冗談でも言い過ぎた。だから飯を食わせてくれ」

「冗談。」

お父さんは料理ができない。

今の時代でもそれが普通だ。

だから普通は妻とかが3食もしくは2食を作ってやるのだが、お母さんはもういない。生まれてきたのが女の子で幸いだったねお父さん・・・

家事ができないお父さんのお世話を抱えているため家庭的には高性能な人になれたものの、学業と家事は別だ。

総合的に見るとロースペックとなる。

ちなみにお父さんが料理をすると炭を量産する。

あ、でもたまに私もスマホ弄ってて焦がしちゃうな。自分の悪いところが見えてなかった。灯台下暗しだ。

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