第4話 ダーラムと街兵団

(獣の狩猟に関する閲覧注意)


 ダーラムには、国設の軍隊を持っており、街兵団がいへいだんやダーラム兵団と呼ばれている。

王宮の警護はもちろん、街門がいもんの警備や国中の見回り、盗賊の遠征討伐隊えんせいとうばつたいの編成、牢獄ろうごく看守かんしゅなどなど、街兵団の役割は多岐たきにわたる。


 ダーラムの北東には鬱蒼うっそうとした森が広がっており、この森は国の生活を支える貴重な動植物の宝庫だ。

流通が発達しているダーラムと言えど、この森で採れるキノコや薬草などは、唯一と言える自給物資じきゅうぶっしである。

そのため、森の物資の採集は法的にも保護されている。

この森の資源の不法採集ふほうさいしゅうを取りまることにもダーラム街兵団がり出されている。


 街兵団が森の警備を行う際は、夜営が付き物だ。

兵士たちにとっては、ちょっとした息抜きにもなっている。

普段は街の治安を守るため、兵力強化の訓練や治安維持への認識向上のための教練きょうれんいそしみ、当番制で街を巡回している。

人々からの信頼を保つためにも、体面を取りとりつくろう苦労もある。

そんな兵士たちが森で明かす夜とは、ほとんどの場合、野生動物や昆虫などへの気配きくばりで終わる気楽きらくなものだ。

普段から訓練くんれん教練きょうれんを積む彼らなら、多少たしょう酒気しゅきびていたとしても難なく対処できてしまう。

必然的に兵士たちの間では、森の警備による夜営は宴会えんかいに等しい位置づけになる。

そして、ここで親交を深めた兵士たちの連帯感が、街の巡回警備じゅんかいけいびのチームワークに貢献することもあるため、兵団の小隊長たちも森での多少の風紀ふうきの乱れを黙認もくにんしているふしがある。


 夜の気温も穏やかになりつつある春。

毎年多くの採集者たちが森へと踏み入る解禁日かいきんびが近いこともげていた。

森での採集者の安全確保のため、ダーラム街兵団の警備隊がさきんじて森の道を見回り偵察ていさつに来ていた。

まだ日照時間が短いので、小隊長の指示で日の高いうちに野営地を確保し、周囲の偵察ていさつに当っていた。

今回、小隊長の元には、森の警備と兼ねて、特定の動物の頭減あたまべらしも含まれていた。

森の中で、特にダーラムの街に必要な物資は、特定の動物たちの食糧しょくりょうにもなっていることもあり、動物の繁殖状況によっては頭数を制限していく必要がある。

森の生態系の調査は毎年夏から秋頃にかけて学院の研究員たちと協力して行っている。

しかし、昨年の調査では頭数の顕著けんちょな増加は報告されていなかったはずだ。

今回は森猪を5頭減らす任務が出ていた。

頭減あたまべらしの対象は、体長が一二〇センチメートルを超える個体に限られるとのこと。

これは例年と同じ条件だ。


 しかし「なぜ5頭も?」という疑問が頭をぎったが、目の前数メートル先に森猪の姿を見止みとめた瞬間、もたげた疑問は鳴りをひそめた。

他の隊員に手旗合図てばたしんごうを送りながら隊剣たいけん抜刀ばっとうけつけざまに切りせる。

森猪は突進されるとその巨体を真っ向から止める手段がない。

加速されると非常に仕留しとめるのは難しい。

動き出す前が勝負どころだ。

見事みごと隊員の連携れんけい絶命ぜつめいした森猪を二人でかつげる。

森猪の鍋は美味い。

自然と顔がほころんでしまうのもしまうのも無理からぬことだ。

自分で仕留しとめたのならなおのこと格別かくべつだ。

頭をぎった疑問は、夕飯への期待に呆気あっけなく打ち消されていた。

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