第4話 新たな恋模様の話。
ベッドの上には俺と雪菜。そしてソファーの上には菊沢と羽村が座っている。入居したての頃はあんなにも広く感じていた部屋が気付けば窮屈になったものだ。
「花っちが小林の家に行くとか言うから付いてきたけど…。なんで神代が居るの?」
「あの二人は仲良しだからね〜。ここに来る時はいつも一緒だよ」
「それヤバくない?小林取られちゃうよ?」(小声)
「マジでそう言うのじゃないから。確かに良い人だとは思うけどさ」
「ん〜。でもな〜」
腕を組みながら何かを考え込む水樹。これは良からぬ事を企んでいる顔だ。
(先に謝っておこう。ごめんね小林くん…)
「小林。羽村さんタイツ履いてないから追い出そう」
「うちに勝手なドレスコードを作るな。羽村のこと嫌いなのか?」
「別に〜。普通だよ普通」
そう言うと雪菜はどこか不満げに携帯をいじりだす。追い出せと言うのは半ば本気だったのかもしれない。自分のセーフポイントに『ただのクラスメイトが居る』という状況が嫌なのだろう。
「ねぇねぇ!小林っ!」
「な、なんだ…?」
雪菜とは打って変わって元気な声で俺の名前を呼ぶ羽村。あの自信に満ちた顔。何故だろう…とても嫌な予感がする。
「せっかくだし皆でお菓子パーティーしよ!しんこう?を深める意味も込めてさ!」
「お菓子パーティー?」
可笑しな事でも言い出すんじゃないかと身構えていたけれど"おかし"違いだったようだ。
「別にいいけど、家には雪菜の隠しポテチぐらいしかないぞ?」
「私の隠しポテチなんでバレてるの!?」
「それだけじゃ足りないしスーパーで適当に買ってくるよ。………え!!?アタシが代わりに行くって?花っちは優しいなー」
「ちょっ…そんなこと言ってな…」
「でもな〜!ジュースとかもあるし男手は欲しいよね。あ、そうだ!小林と花っちで買い出しに行けばいいんだ!私たちはお留守番してるからさ!」
「「「え…?」」」
「はい!じゃあこれお金!よろしく〜!」
バタンッ…!!!
気が付けばエコバッグとお金を渡され玄関に放り出されていた。菊沢はソファーに置いたカーディガンを羽織る時間さえ貰えず、大きめのTシャツに短パンという軽装備で立ち尽くしている。
(買い出しは構わないけど、あの二人でお留守番か…。不安要素しかないな。)
「なんか色々とごめんね。水樹は後で叱っておくから」
「別にいいよ。とりあえず買い出し終わらせよう」
「だね。あの二人だけだと心配だし早く済ませちゃお」
何故こんな事に…。
特に仲良くもないクラスメイトと二人で小林の部屋に取り残されるなんて。気まず過ぎる。
とりあえずベッドの隅っこに布団を集めバリケードを作ろう。流石にこんな堂々と距離を取られたら、気を遣って話しかけたりもして来ないはずだ。無理に仲良くする必要もないしこれで一安心。
「ねぇ、それって…」
羽村さんは何かを言いかけたまま静かに俯いてしまう。顔は見えないけれど少し震えているのが分かった。もしかしたら変な距離の取り方をされて傷ついたのかもしれない。
(流石にこれは良くなかったかな…)
「羽村さん。ごめっ…」「陣取りゲームだよね!!懐かし〜!私も小学生ぐらいの頃にやってたよ!」
「え…?」
「水樹は一言で言うと本物のお馬鹿さんだよ。現代では珍しい絶滅危惧種って感じ」
「そんな気はしてたけど、本物だったか」
俺はお菓子をカゴに入れながら羽村水樹という生命体について話を聞いていた。
「まあ、ざっとこんなところかな」
「つまり…羽村は菊沢の真似をしてるだけでギャルではない。そんでもって怒るとほっぺを風船みたいに膨らますと」
「うんうん。それだけ分かってれば十分だよ」
「そ、そうか。ところで菊沢と羽村っていつから仲良いんだ?馴れ初め的な」
「それは恥ずかしいからナイショ。どうしても知りたいならお友達ポイントを貯めて下さい」
「あ、ポイント足りない感じか。致し方なし」
小林くんには悪いけれど、アタシと水樹の出会いについてはまたいずれ。『桜が紫色に染まった春の話』をするのはもう少し先だ。
(にしても、水樹と雪菜は大丈夫かな?仲良くしてると良いけど。)
何故こんな事に…。
「やったー!布団いただきっ!」
「そ、そんなー。もう枕しか残ってないよー」(棒)
【陣取りゲーム】
名前の通り相手が持っている陣地をジャンケンなどで奪い取るゲームだ。小学生が考えるようなゲームなのでルールはそれぞれ。各自治体によって変わるぞ!(説明係 羽村水樹より)
私達の場合。
・三つの陣地を用意する。
雪菜 ベッド 布団 枕
羽村 ソファー クッション ぬいぐるみ
・ジャンケンで二連勝したら相手の陣地を一つ奪える。全て奪われたら負け。
以上!!シンプル・イズ・ベスト!!
「へへっ。ソイツもすぐに奪ってやるぜ」
「うぅ…。あ、待って。この枕は取られたくないので降参します」
「じゃあ私の勝ちね!世界征服完了〜!」
両手を広げ喜んでいる羽村さんを遠い目で見つめる私。なんで小林の部屋で陣取り合戦なんかしているんだろう。流れ流され気付けばこんな事に。
「いや〜。こういう遊び久しぶりにしたよ。神代って意外と子供っぽいとこあるね」
「付き合ってあげた感出すのやめて」
「で、次はなにする?」
「え…?まだ続くの?」
まずい。このままだと謎の遊びにダラダラと付き合う事になってしまう。こんな姿を花ちゃんや小林に見られたら、私の『スーパーパーフェクトレディー』としての威厳が…。どうにか話題を変えよう。
「こ、小林たち遅いね!花ちゃんが途中で襲われてないか心配だよ」
「花っちは可愛いからあり得る…。まあ、責任さえ取ってくれるならハッピーエンドじゃない?」
「え…?」
「だってあの二人めっちゃお似合いじゃん。お互いに自然体って感じだし、私と違って小林は男の子だしね…(ボソッ)」
最後の方は上手く聞き取れなかったけど、羽村さんは確かに小林と花ちゃんがお似合いだと言っていた。蜂に刺されたみたく心臓がチクリとした後、不安という名の毒が身体中を巡りだす。
「あ、あり得ないよ。花ちゃんが小林を好きになるなんて」
「そんなの分かんないじゃん。恋は事故みたいな物で、誰を好きになるかなんて選べないんだよ」
『ごめんね雪菜。アタシ小林くんが好きみたい』
『雪菜。俺やっぱり生脚よりタイツが好きだ』
もしも…小林が私じゃなく花ちゃんを選んだなら、私達の関係はどうなるんだろう。
「そうだ!神代も花っちと小林がくっつくように応援してくれない?大事な友達なんでしょ?」
「それは…」
もちろん花ちゃんが誰かを好きになった時は全力で応援するし相談だって聞く。その気持ちに嘘はない。それでも。
『小林だけはダメ…。』
そんな言葉が脳裏をよぎる。
「私は…」
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