第10話 友達に疑われる話。
「うわっ!ごめんね。二回も死んじゃったよ…」
「大丈夫。うちには小林が居るからね!」
「他力本願かよ…って。コイツ弱ってるし捕獲するか」
「おー!いけいけー!」
ぱっぱらぱーん!
部屋には依頼達成の音楽が響き渡る。どうにかこうにかモンスターを捕獲することに成功した。このゲームは一回のクエストにつき三回までしか死ぬことが出来ないのでギリギリの戦いだった。
「小林君強いね。ほとんど一人でやっつけちゃったよ」
「いやいや。二人のサポートあってこそだよ。まあ、雪菜に関しては素材集めばっかりで全然サポートしてくれなかったけどな」
「うげっ…。こっそりドララ鉱石採取してたのがバレてる…」
「そりゃ同じエリアに居ないんだからバレるだろ」
ゲームの中でも雪菜の自由奔放な性格は変わらない。正直協力プレイには向いていないが、決して死ぬことはなく拾った素材は山分けにしてくれるので悪い事ばかりではない。
(考え方によってはこれもサポートの一種なのか…?素材集めのサポート的な。)
ぐぅ~…。
そんなことを考えていると隣で可愛らしい音が鳴る。雪菜がお腹でも鳴らしたのだろう。
「うわっ…はっず。ごめんね~。お腹空いてきちゃって」
どうやらお腹を鳴らしたのは雪菜ではなく菊沢だったらしい。顔を赤くしながらえへへ…と笑っている。
「私もお腹空いてきたしご飯にしよ?小林なんか作って~」
「なんかって言われてもな…。カルボナーラとかでいいか?」
「え!小林君料理出来るの!?」
「小林の料理はおいしいよ。プロレベル」
「おいそこ。勝手にハードル上げんな」
上げられたハードルを飛べるほど俺の料理スキルは高くはない。あくまで一人暮らしの高校生レベルだ。
「まあ、今から作るから三十分ぐらい待っててくれ」
「りょ!楽しみにしてるね!」
「頑張れ小林〜」
俺は謎の声援を受けながらキッチンへと向かう。あの二人も何やかんや楽しんでいるみたいだな。
「ねーねー。雪菜と小林君ってほんとに付き合ってないの?同じ部屋で一緒に遊ぶぐらいには仲良いんでしょ?」
小林が居なくなったのを確認してから花ちゃんはそう問いかけてくる。どうやら私と小林が恋人同士だと思っているようだ。
「付き合ってないよ。私そういうの良く分かんないし」
「じゃあただの友達?あ…もしかしてセフレ的な…?」
「なっ…!?ち、違うよ!花ちゃん妄想しすぎ!」
「え~。だって若い男女が同じ部屋で二人きりって…何もない方がおかしくない?」
「小林は私が寝てても何もしてこないぐらい真面目なんだよ」
花ちゃんはその言葉を聞くと何か引っかかった様子でこちらを見てくる。
「それってさ。小林君が我慢してるだけじゃないの?」
「我慢?」
「そうそう。二人の関係は良く分かんないけどさ、雪菜が持ってるイメージを壊さないように小林君がそういう気持ちを抑えてくれてるだけじゃない?彼優しいしさ」
「それは…」
私はふとジェンガで遊んでいた時の事を思い出した。罰ゲームの時。小林はお風呂掃除をお願いしてきたけど、それは私が怖がっているのに気付いたからで…。あの時本当にして欲しかったことは別にあったはず。
「どうしよ花ちゃん…。私小林にずっと我慢させてたのかな…」
「まあ、あくまで可能性の話だからさ。ワンチャン小林君にはお〇ん〇んが付いてないっていう可能性もあるし」
「確かに…。言われてみれば見たことないかも」
まあ…でも。どっちかって言うと小林がそういう気持ちを我慢してくれている可能性の方が高い。
とりあえず小林が無理していないか、どこかのタイミングでちゃんと確かめよう。もし本当に我慢しているんだとしたら可哀想だし……それに。
(小林が相手なら私は……)
「おーい。昼飯出来たぞ…って。どした?」
部屋の扉を開けると驚いた様子で布団に隠れる雪菜とビシッと硬直する菊沢の二人が見えた。
「ごめんね~。いきなり入ってくるからビックリしちゃって」
「ノックぐらいしてよ!小林のえっち!」
「ここ俺の家だよな…?」
家主の威厳が失われつつあるが間違いなくここは俺の家だ。とはいえ、確かに女子がいる部屋にノックもなしで入ったのはマズかった気もする。次からは気を付けよう。
「まあ、悪かったよ。とりあえず飯出来たから食べようぜ」
そう言うと出来上がった料理を机に並べる。カルボナーラと付け合せに玉ねぎとトマトのマリネも置いておく。
「わ~!すごっ!お店みたいじゃん!」
「今日はオシャレだね。普段はこんなんじゃないのに。花ちゃんが居るから気合い入れたの?」
「言うな」
雪菜に図星を突かれて恥ずかしくなる。カルボナーラは盛り付けどころか彩りにも気を使って普段使わないほうれん草までいれてしまった。
「見た目はいいけど大事なのは味だからね。私は厳しく行くよ?」
「じゃあ、あたしも厳しく行くよ〜?」
「お、おう…」
「「いたたきまーす」」
二人はレストランのシェフみたいな事を言いながらカルボナーラを口に運ぶ。個人的には上手く出来たと思うけど彼女たちの口に合うだろうか…。
まあ、結論から言うとそんな心配は必要なかったようで。
「ん〜おいひい!もぐもぐ…」
「んっま…。これお店開けるレベルだよ。それかあたしのお嫁さんになろっか?」
料理は大絶賛。途中で菊沢にプロポーズまでされてしまった。丁重にお断りしたけど。
(ここまで美味しそうに食べてもらえると作ったかいがあるな。)
「「ごちそうさまでした!」」
二人はご飯を食べ終わるとお皿をシンクへと持っていく。この後は少しゲームをして解散かな。
「よし!ご飯も食べたしゲームに戻ろ〜!」
「うん!」「りょーかい」
こうして俺たちのゲーム大会は夕方の六時まで続いた。流石に外は暗いので菊沢を家まで送ろう。
「悪いね~お二人さん。ついてきてもらって」
「大丈夫。花ちゃんは私が守る」
「夜道に女の子一人は危ないからな。気にすんな」
「えへへ…。ありがとね」
菊沢は照れくさそうに笑いながら空を見上げる。二月の終わり。吐き出す息はまだ白い。あと一ヶ月もすれば桜が咲き出すと言うのに。
「あ、うちここだよ」
菊沢が指さしているのは庭付きの大きな一軒家。周りの家と比べて比較的綺麗なのでおそらく最近建てたものだろう。
「二人とも送ってくれてありがとね。次は雪菜を送るんでしょ?小林君も大変だね」
「ううん。私はもうちょい小林の家に居るよ?」
「え…。もうだいぶ遅いけど大丈夫なの?その…色々と」
「ん?大丈夫だよ。小林は優しいからね」
「ねえ小林君?こんなこと聞くのってあれだけどさ…。ちゃんとお〇ん○ん付いてるよね…?」
「なっ…!?そりゃ男だから付いてるけど…何だよいきなり?」
俺は一体何を疑われてるんだ。小林女子疑惑でも浮上していたのだろうか。
「それなら本当にただ優しいだけなんだ…」(ボソッ)
何となく雪菜が小林君に懐いた理由が分かった気がした。雪菜の言う通り他の男子とは少し違う。不思議な人だ。
「変な質問してごめんね!それじゃまた遊び行くからよろしく~!そんじゃばいば~い!」
「ああ。またな」「ばいばーい」
菊沢を家に送ったあと雪菜と来た道を戻る。なんだかんだ騒がしい一日だったけど。
「楽しかったな」
「うん!また花ちゃん呼んでゲームしようね!」
(気付けば俺の部屋が溜まり場に変わりつつあるが…)
「次はいつにしよっかな~♪」
(雪菜が楽しそうなので…まあ、良しとするか。)
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