第9話 友達を招待する話。
暖かな布団の中。私はゆっくりと目を覚ます。
「ふぁ〜…確か昨日は小林と…」
昨日のことを思い出した途端、顔が熱くなるのが分かった。我ながら何とも大胆なことをしてしまったものだ。私は太ももに手を伸ばし一応の確認をする。
(服も着崩れてないし…。んっ…こっちも大丈夫そう。変なことはされてないみたいだね。相変わらず優しいな…小林は)
昨日の夜はホラー映画を観たせいで怖かった…というのもあるが、一人で寝るとあの時間が終わってしまうような気がして、一緒に寝ようなんてわがままを言ってしまった。少なからず小林を困らせたに違いない。
「とりあえず昨日のお詫びも兼ねて朝ごはんでも作ってあげよ」
私は気合を入れて台所に向かう。料理は得意じゃないけどスマホを見れば何とかなるはずだ。とりあえず頑張ろう。
心地よい布団の温もり。俺はカーテン越しに差し込む朝日で目を覚ます。
「まだ八時半か…」
昨日は朝の五時まで起きていたのでシンプルに眠い。二度寝でもしようかと思ったが、キッチンからいい匂いがするので眠い身体を起こし布団を出る。
「あ、小林。おはよ」
「おはよう。朝飯作ってくれたのか?」
「うん。簡単なのだけど…」
「寝起きで腹減ってるから助かる。ありがとな」
「うん♪いっぱい食べて」
テーブルに用意されているのは、野沢菜の漬物。味噌汁。それに卵焼き。まさか雪菜がこんなにしっかりとした朝ごはんを作ってくれるとは。確かな成長を感じる。
「それじゃいただきます」
まずは手前に置いてある味噌汁に口を付ける。出汁には煮干しが効いており具材の生わかめと非常にマッチしている。味付けも濃すぎず薄すぎず…ちょうどいい塩梅だ。
「ど、どう?」
「美味しいよ。味の濃さも丁度いいし」
「そっかそっか!良かった♪」
俺は雪菜に見つめられながら食事を続ける。卵焼きも俺の好きな甘いタイプで野沢菜の漬物も箸休めとして丁度いい。人の手料理なんて久しぶりに食べたので軽く感動している。
「ごちそうさま。まじで美味しかった。ありがとな」
「うん!また気が向いたら作るね」
「ああ。楽しみにしてるよ」
雪菜の作った朝食はお世辞抜きで毎日食べたいぐらいには美味しかった。
「あ、そうだ!最近花ちゃんがモンスターハンティング買ったんだって。この後三人でやろ?」
「別にいいけど俺お邪魔じゃないか?」
「小林も誘おうって言ってたの花ちゃんだから大丈夫だよ〜」
「そ、そうか…」
何故自分が誘われたかのかは分からないが、断る理由もないので参加することにした。
『もしもし~。聞こえてる?』
「うん。聞こえてるよ~」
『良かった良かった。小林君はまだ通話に入ってきてないね』
「ん?小林ならいるよ?」
「どうもっす…」
『あれ…?なんで雪菜の携帯から小林君の声が…?』
一瞬状況を掴めず混乱したが、すぐに二人が一緒に居るからだと理解する。
『そっかそっか!二人は今一緒に居るのね』
「うん。小林の家で遊んでる」
『なんか私だけ通話ってのも寂しいな~。お菓子持ってくから仲間に入れて欲しいな~』
「だって小林。花ちゃんも混ぜてあげよ?」
「別にいいけど…」
『やった!それじゃ準備してすぐ行くね!住所送っといて』
「分かった〜」
ピコンッ…。
俺たち三人のグループメッセージに我が家の住所が貼り付けられる。さよなら俺の個人情報。
(ん?待てよ。特に気にせず流してたけど今から女子が遊びに来るのか…。多少は掃除ぐらいしとかないとな。)
「雪菜?片付けするから手伝ってくれ」
「え〜。別に掃除なんていいよ」
「おいおい。今から女子が遊びに来るんだぞ?汚いと思われたら最悪だろ」
「うわっ!私の時は掃除なんてしないのに花ちゃんのときはするんだ!やらし〜!小林やらし〜!」
何故か頬を膨らませながら文句を言ってくる雪菜。コイツは遊びに来てんじゃなくて住み着いてるの間違いだろ。
「いいから早く手伝ってくれ…」
「ふん…。知らない。一人でやれば」
「何拗ねてんだよ…。いいのか?俺たちの部屋が汚いと思われても?」
「ん?俺たちの…?」
「そりゃ雪菜も一緒に過ごしてるんだから雪菜の部屋でもあるだろ?」
「た、たしかに…!」
(そっかそっか!ここはもう私の部屋でもあるんだ…!な~んだ。そういうことか~。それならそうと早く言ってくれればいいのに~。)
「しょうがないな〜。早く片付けるよ。私達のお部屋が汚いと思われちゃう」
「お、おう」
さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいにテキパキ掃除を始める雪菜。相変わらず喜怒哀楽が激しい奴だ。
(女子ってのは難しい生き物だな…。)
俺はそんな事を考えながら散らかった漫画を本棚に戻していく。このペースなら菊沢が来るまでには綺麗になるだろう。
ピンポーン!
「あ、花ちゃんだ!私行ってくるね」
「おう」
雪菜はモニターを確認すると急いで玄関に向かう。何気に雪菜以外の友達を家に上げるのは初めてなので緊張する。
(一応掃除はしたし大丈夫だよな…。)
「お邪魔しまーす!」
「おう。適当にくつろいでくれ」
「りょ!ていうか小林君って一人暮らしだったんだね」
「そういえば言ってなかったな。両親が仕事の都合で海外にいてさ」
「へ~。なんかすごいね!あたしも一人暮らししてみたいな~」
「家事とか料理とか面倒だぞ?」
「あー…。あたしそう言うの苦手だからやっぱり実家でいいや」
そう言うとソファーの上に寝っ転がる菊沢。短パンに黒タイツ姿なのでパンツが見える心配はないが…なんかこう。
(エロい…)
「小林。花ちゃんの足見すぎ…」
「ちょっ…!誤解…ではないけど」
「ふーん。小林君のえっち~」
「すみませんでした…」
俺は菊沢の方を向き素直に謝罪する。この家での立ち位置が危うくなりそうなので言動には気を付けよう。
「しょうがないな~。小林君も反省してるみたいだし。そろそろゲームしよっか!」
「そだね!」「うっす…」
こうして俺たちのゲーム大会が幕を開けた。
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