第3話 気づいた感情
桜が舞う、四月は上旬。私たちは高校二年生へと進級した。進級した自覚すらないものの、新しいクラスはとても新鮮に思える。
結果的に楽しかった高一はあっという間に過ぎた。夏休みは夏祭りや旅行。秋になると文化祭や体育祭。冬はクリスマスとお正月。薄くも濃くもなかった一年だったな思う。
今日から新学期。不安はない。日常は変わらないのだから。
そして、朝の8時10分。生徒玄関前でクラスの発表があった。周りから歓喜の声や悲しみの声など、様々な感情が読み取れる声が聞こえてくる。
(あ、私は四組かー)
確認を終えたので自分のクラスへと向かう。
「奈々海ー!」
「おはようですぞ〜」
「
この二人は私の親友、
「去年は見事にバラバラだったからね」
「でも、それはそれで珍しかったわよね」
「それで今年はみんな一緒かぁ〜。去年とはすごい差だね」
「だねー」
五クラスある中で同じクラスになるのは結構確率が低いけど、こうして一緒になれたことは喜ばしい。私たちは五分の一の当たりを引き当てたのだ。
「あ、このクラスあたしの仲いい人奈々海以外いないかも」
「あら」
「私がいるなら大丈夫!」
「何の自信? それ」
冷静にツッコまれてしまった。ボケたつもりはなかったんだけどなー。
「夏菜、他のクラス見に行ってみない?」
「いいよ〜。ちょっと行ってくるわー。奈々海来る?」
「いやー、いいや」
「おっけー」
夏菜と御玖は他クラス探訪で出かけていった。そのため、私は暇になりました。
「隣の席は……
あいにく、瀬尾なんて名前は私の記憶にはない。たぶん初めましての人だと思う。
と、噂をすれば。瀬尾君が登校してきた。荷物を片付け、静かに席に座った。
「やぁ。君とは初めましてだね。私は君を全く知らないよ」
何事も第一印象が超大事。私は、隣の席の人が知らない人だったときに使う会話を投げかけた。
すると、案外優しく応えてくれた。他の人には冷たく返されるのに。しかも、“神崎さん”と名字まで呼んでくれた。
(なにこの子かわいい)
変な感情が出てきた。姉みたいな感情出てきちゃったよ。
「それじゃっ! これから一年間よろしくね。瀬尾君!」
「ああ、よろしく」
瀬尾君とは仲良くやっていけそうの気がする。
そして、学活の授業が始まった。少し温かい春風と、このクラスの静けさで睡魔が襲ってきた。最初の数十分は頑張って起きてたんだけど……まぁ、案の定寝落ちするよねって。私としたことが、授業中に寝てしまった。でも、授業は授業でも学活だから別にいいよね。委員会決めの時に起きれば。
『……委員やってくれる人いないかー』
はッ!
「はい!」
「お、神崎やってくれるのか。他にやるやついないか?」
(あ、あれ?)
黒板に貼ってある委員会表にまだ一人も名前が書かれていないことに気がついた。
私はてっきり、もう委員会決めが中盤ぐらいまで進んでしまったと思ったのに……。
「え、推薦でも出ないの……?」
男子の学代が出ないため、先生が策として推薦もオッケーとしたのだが、それでも誰かを推すわけでも手が上がるわけでもなく、めっちゃ静かだ。先生もどうしようかと困り始めていた。このまま出てくれないと先に進めないんだけどな。
いや、待てよ。これはチャンス? 仲のいい男子を私が推薦すれば、私が気まずくなることもないし、ワンチャン仕事任せられる?
「先生、私が推薦してもいいですか?」
「ああ。別にいいぞ」
えーと……。このクラスで仲いい男子は……。あ、このクラスは――。
「じゃあー、瀬尾君!」
知ってる男子。というか喋ったことある男子が瀬尾君しかいないことに今気づいた。前に立つと全員の顔を見舞わせるからわかった。これだから授業寝てるとすぐバレるんだね。
「瀬尾か。いいじゃないか。やってくれるか?」
「え、あ……はい……」
ごめんねー。断りにくい雰囲気作っちゃって。
軽く瀬尾君にごめんねのジェスチャーを送っといたが気づいたかな?
「よろしくね!」
「あ、うん……。よろしく」
「じゃあ次に環境委員会を決めていきまーす。やる人挙手してください――」
やっと、先に進める。とりあえず私が進行を務めた。瀬尾君には委員会表に名前を書いてもらった。
私達は相性がいいのかさくさくと委員会決めが進んでいった。ほんの数十分で学代を合わせた五つの委員会の委員を決めることができた。そのためまぁまぁ時間が余った。
「結構時間余ったな。よし。後は自習するなり読書するなりしといていいぞ」
つまり自由時間だね。私はもう一回寝ようかな。
“キーンコーンカーンコーン”
授業が終わり、十分間の業間休みに入った。
「なー、神崎さん?」
「ん? どしたの?」
「何で俺を学代に推薦したんだよ」
瀬尾君が何故自分を推薦したかと訪ねてきた。
「んっとねぇー。このクラスで喋ったことのある男子が君しかいなかったから」
「推薦理由結構雑かった……」
さすがに寝ててたまたま手を挙げた委員会が学代だったなんて口が滑っても言えない。今は雑に説明するほうがいいでしょう。
「あのまま誰かが推薦してくれるを待っても良かったんだけどね。早く決めたかったからさ。私が推薦しようと思ってー」
ちょっと言い訳もプラス。これで寝てたことがバレることはない。
「でもね、よくよく考えたら推薦できるような男子、瀬尾君しかいなかったからー。瀬尾君を推薦したの」
「まぁ、委員会決めってそういうもんか」
なんか納得してくれた。よかったー。
〜数日後〜
始業式が終わり、新学期が始まると待っている次なる行事。それは入学式だ。ここの学校に受かった新一年生が入学してくる重要な式だ。そして、入学式の準備を行うのは在校生である。
入学式前日の朝。朝礼で先生から入学式準備を行う各委員会の仕事が発表された。そして記念すべき学代の初仕事も発表された。それは、入学式の準備をするということだ。つまり、入学式会場のセッティングということ。初仕事にしては結構な重労働をやらせてくるよね。しかも責任重大だ。
学代の集合場所は体育館。当然。体育館で入学式を行うのだから。私はそこに行くまでの途中。学代の仕事って何するのかという疑問を瀬尾君にぶつけてみた。
この委員会の立候補は任意。強制ではない。そのため仕事内容などは把握して立候補しているはず。だが、寝ていた私はそんなこと一ミリも知らない。
瀬尾君も予想外の質問が飛んできてさぞかしびっくりしている様子だった。そりゃ、そうなるかー。知ってなきゃいけないことなんだし。
だけど、しっかり説明してくれた。やっぱり瀬尾君は優しい。私が寝ていたことは上手いこと誤魔化したかったけど、さすがにバレた。
いやー、しかし、仕事内容すら知らない委員会でここまでやってこれた私ってすごいと思うんだよね。私が無意識にやってたことと学代の仕事内容ほとんど一緒だったし。才能かな?
「はい。皆さんはじめまして。学代委員会、委員長兼生徒会長の
体育館に到着してから三分程で委員会が始まった。学代の委員長は生徒会長でもあるらしい。仕事が多そう……。
それから、私達に任された仕事は倉庫から入学式に使うものを取ってこいとのことだった。
この学代委員には瀬尾君のお友達がいるみたいで、さっき仲良く喋っていた。
瀬尾君が倉庫の鍵穴に鍵を差し込み時計回りに鍵を回すと“ガチャ”と言う音がして鍵が開く。
「うわぁー。結構色んな物があるね……」
「俺、もうちょいわかりやすいものかと思ってたわ……」
壁一面に茶色のダンボールが見える。そのせいで窓からの光が遮られ、蛍光灯だけの明るさだ。そのため少し薄暗い。
さっそく、私たちはこのたくさんのダンボールの中から入学式用品を探し始める。
しかし、もう何分探しているだろうか。全く見つかる気配がない。
なんで? 入学式に使うものぐらいは見つけやすいところに普通置くでしょ?
「うーん。どこにあるんだ? あ……」
何かをひらめいたような言葉が聞こえてくる。
「神崎さん。見つけたぞ」
瀬尾君がとうとう見つけたらしい。
「え、どこ?」
「あそこ」
と、棚の一番上を指差す。
「あ、ホントだ。気づかなかったや」
丁度私の真上のダンボールに“入学式飾り”と張り紙がしてあるダンボールがあった。
「もうちょっと早く気づけばよかったねー」
「あ、ちょ。危ないから俺が取るよ」
「大丈夫だよー」
私はダンボールを取ろうと手を伸ばすが微妙に身長が足りなかった。だから、棚の1段目に登って取ろうと試みる。するとダンボールに手が届いた。
「よーし。取れた〜。うわッ!」
ダンボールを掴み、降りようとしたときにバランス崩してしまった。
“ガシャン!”
「ほら、言っただろ。危ないって……。怪我ないか?」
「あ、うん。大丈夫。ありがとう……」
瀬尾君が私を上手いこと受け止めてくれた。
ヤバい……! し、心臓がバックバクなんだけど!? 落ちかけたからかな……? 相当びっくりしたからね……。でも、ただのびっくりじゃない気がする。なんだろう。恐怖……?
いや、このドキドキは瀬尾君に受け止められたからだ……。
倉庫の鍵を閉め、体育館に戻る。
結構時間をかけてしまったから体育館の作業は七割程終わっていた。委員長にも遅かったねと言われた。
そして、みんなで手分けして最後の飾り付けを行い、体育館の準備は終了となった。最後に集合し、次の委員会でやる予定だった自己紹介を終わらして解散となった。私はこのあと妹とショッピングの予定があったため、すぐにカバンを持って生徒玄関へと向かった。途中から妹も合流し、一緒に下校した。
予定通りにショッピングへ向かうことができた。だけど、予想外の事もあった。
それは、ショッピングに向かっている途中、ストバを通りかかったので飲み物を購入しようと入店し、注文した。商品を受け取り、妹とおいしーって言いながらジュースを啜っていると、座席の方から知ってる声が聞こえてきた。ふと目をやるとそこにいたのは女子と楽しそうに喋っている瀬尾君の姿があった。
しかも、その女子はさっきの準備の時、仲良さそうに見えた女子だった。男女が放課後カフェでお話……。私には彼らがカノカレの関係にしか見えなかった。
その夜、まだあのことが脳裏から離れなかった。どうしてもあの光景が衝撃的過ぎて……。彼女はいないものだと思ってたけど、まさかいたのね。
あれ、なんで私は他人に彼女がいたぐらいでこんなにも嫉妬してるんだろ……。
色んな事があった週の休日。私は瀬尾君とセキスポシティーにやってきた。何故瀬尾君がいるのか。それは、元々私はDoftに用があり、友達を誘って来ようと思っていたのだが、皆予定が合わなかった。誰か誘える友達いないかなとルインの友達欄を眺めていたら、ふと瀬尾君のアカウントが目に入った。瀬尾君とは学代が一緒ということもあり、ルインを交換していたのだ。
瀬尾君と行きたいと言う気持ちはあったがちょっと誘いづらかった。でも、探りを入れるというのいいかなと思い、誘ってみた。そして、返信には「いいよ」のひとごと。私は自室で静かにガッツポーズをした。
そういう経緯があり、今ここにいる。瀬尾君はトレンドとか全くわからない系男子だった。まぁ、それはしょうがないかなと思う。
そんなことは置いといて。私は自分の用を終わらせ、瀬尾君も用があるというのでそっちに付き合うことにした。
瀬尾君の用とは服が欲しいということだった。折角だし選び合いっこでもしようと提案すると了承してくれた。
まず、最初は私が瀬尾君に服を選ぶことになった。
真面目に選ぶかふざけるか迷った。結果、ふざけた。
まぁ、最終的にはしっかり選んだからいいでしょ?
その次は、瀬尾君が私に服を選ぶ番。瀬尾君は結構センスがいいのか、めちゃいい感じのコーデを選んできた。こういうことするのはなんかカップルみたいと思いながらも買う服を決めた。
そして、そのコーデに合う帽子が欲しいなと思ったので、店員さんに聞いてみる。店員さんはいい感じのを探してくれた。
「彼氏さんもそう思いますよね。お客様とてもお似合いですよ!」
店員さんの言葉に私は驚いた。店員さんから見れば私達はカップルの様に見えるみたい……。
その言葉はちょっとの間、私の脳を混乱させた。
その後は何もすることがなかったので帰宅することにした。
今日のお出かけで私はいくつかの探りを入れたつもりだ。反応的には彼女はいなさそうだった。でも、決定的なことではないから今度しっかり聞いてみようと思う。
てか、なんで私はこんなに瀬尾君に彼女がいるかいないかを気にしてるんだろう?
そういえば、今みたいに最近ずっと瀬尾君のことばかり考えてるな……。
ずっと頭から瀬尾君が離れていない……。
あ、そうか――。私は気づいてなかっただけで、瀬尾君のことを好きになってたんだ。
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