第2話 休日のお出かけ
入学式も終わり、桜もすっかり緑の葉っぱを咲かせ始め、数週間前のピンクの姿は失われていた。そんな今日は気温が高くポカポカとした、如何にも春らしい日和だ。
「おまたせ〜。今日はわざわざ来てくれてありがとね!」
「まぁ、いいよ。結局のところ暇だったし」
そして、そんな陽気の日に俺はセキスポシティ来ている。しかも神崎さんとだ。
まだ出会って数週間程の付き合いなのに展開が相当早い。もう休日は遊ぶ程の仲まで来たのか? 学代は一緒だしクラスも一緒って事でルインを交換してたが、まさか初会話が「セキスポいかない?」になるとは思ってもいなかった。
「ちょっとDoftに用があってねー」
「そのぐらい一人で行けばいいんじゃないか?」
「もぉー、冷たいこと言わないの」
別にここに来るぐらいはいいんだが、何故俺となのかという疑問が湧いてくる。こんな出会って数週間のヤツと遊ぶぐらいのコミュ力を持った神崎さんのことだ。友達はたくさんいるのだろう。そう考えるとなおさら何故俺と思うばかり。
「友達とかと行けばよかったんじゃないか?」
「うーん。それはそうなんだけどー……。みんなの予定が合わなくてさ。それに、君も私の友達だよー」
う、うわ……。無駄にドキッとさせてくるな。この言い方のあざとさ。さっぱコミュ力はバケモンかも知れない。
「それはうれしい。女友達増えたわ」
「というのは嘘でー」
「は?」
「元々一人で来る予定だったんだよね。あ! でも瀬尾君が友達って言うのは本当だよ」
「そうだったのか。じゃあなんで俺を呼んだんだ? 矛盾してるぞ?」
「ま、まぁね。色々あってさ」
「?」
ちょっと神崎さんの思考は読み取れないが何か気持ちの変化があったことはなんとなくわかった。
「実はさー、文房具とか欲しいなって思ってさ」
「普通に本屋とかじゃだめなの?」
「チッチッチッ。その考え甘いよ」
なにがチッチッチッだよ。わざわざこんなとこまで来て文房具を買うことはないだろう。ある程度の物は本屋で揃うんだから。考えが甘いって、逆にどんな考え方すればいいのか教えてほしいわ。
「Doftにはね、かわいい文房具がたくさんあるんだよ。例えばこれ、今女子高生の中でトレンドの可愛いマーカーペン」
そう言ってスマホで写真を見せてきた。そこに映っていたのは赤や緑、黄色といったパステルカラーのマーカーだった。しかもあまり見ないノック式。
その可愛いさは男子の俺からしたら何が可愛いのかイマイチわからなかった。女子高生のかわいい基準って難しいな。でも、機能的にはとても使いやすそうでいいとは思うが。
「さっきのマーカーペンは可愛いかわからないけど、こっちは本当に可愛いと思うんだよ」
いや、わからなかったのかいな。 自分で可愛いって言ってたのに。可愛いトレンドじゃなくて使い勝手のトレンドだったんじゃないか?
「これこれ、レトロなメモ! なんかエモいよね〜。この色とかがさ、レトロ感あってさー。今、女子高生の中でトレンドらしいよ」
「へぇー。そうなのか」
神崎さんの説明だと、可愛いくてエモいって事しかわからなかった。でも、レトロ感があるのはいいと思う。こういうのが映えるんじゃないか?
「けどな、俺には女子高生のトレンドとかよくわからないわ」
「いずれわかるよ。彼女とかできたらさ」
そんな彼女とか関係あるのか。トレンドの知識に。そういうのはオシャレ陽キャにならない限り一生わからない気がするな。
それに、俺は今までに告白されたこともしたこともない。
「私が彼女になってあげようか?」
「え?」
え、何故? どのような思考を回せばその答えに辿り着くのさ。
「あっははは。冗談だよ! 冗談」
「のわりには満更でもなさそうな顔してるけどな」
「そ、そんなことないよ! もー、瀬尾君ってば、からかわないでよ」
「わりぃーわりぃー」
俺がからかわれてばっかでもバツが悪い。ここらへんで仕返しするのがいい頃合いだろう。
「それで? 欲しい物はあったのかよ」
「うん」
「じゃあ、後で俺の用事にも付き合ってくれよ」
「いいよ〜。そうだ! 折角だし、お揃いの何か買っていこうよ」
「ん? 面白そうだな」
「やったー。瀬尾君ノリいいねー! それじゃあ何にする?」
「シャーペンでよくない? 一番よく使うし」
「だね。シャーペンならこれがいいと思うよ」
と言ってた神崎さんが選んだシャーペンは、ワンノックだけで書けちゃうと言う、最近話題のワンノックシャーペンだ。カラーも三色ぐらいあった。
「じゃあ私、マルーンカラーにする」
「俺は紺色にしようかな」
「よし! 会計行くよー。最近、私のスマホにqayqay入れたのー、便利だよ。チャージするだけでいいから。お財布いらないの。」
「へぇー、ポイントカードとかのカード類はどうしてるんだ?」
「カード専用のお財布みたいなのがあるからそこに入れてる。ちなみにDoftで買ったよ」
へぇー、世の中便利になったものだなー。俺、電子決済サービスとか利用したことないからな。というか、利用しようとも思わないな。スマホが乗っ取られた時大変じゃんか。
「瀬尾君はそういうの使わないの?」
「予定はないかな」
「えぇー、便利だよ」
「まぁ、いずれは使うだろうけどな」
「なら今から使っとこうよ」
一応言っておこう。この会話しているこの時間はレジ待ちの時間。結構レジが混んでいた。休日ということもあり、多くの学生で賑わいを見せている。特に女子高生が多いイメージだろうか。
「次の方どうぞー」
やっと、俺らの番だ。と言っても先行は神崎さんなのだがな。
「はーい」
「合計で二六五八円になります」
「qayqayでお願いします」
「はい。ではこちらをスキャンしてくだい」
神崎さんはしっかりとqayqayを使って支払いをしていた。
「次の方ー、こちらへどうぞ」
俺の番だ。ここのDoftはレジが5台あるのにこの混み方だ。
「合計で 一五〇〇円になります」
「二〇〇〇円からでお願いします」
「はい。二〇〇〇円お預かりします。五〇〇円のお返しです。ありがとうございました」
このシャーペン地味に高いな……。まぁ、自動芯出し機能付いてるからしょうがないか。
「わぁ! やったー! qayqayのキャンペーン当たったー!」
「え!」
「さっき使った額が全額返ってくる〜」
「めっちゃ運いいな」
「最近貯めてたからね。運を」
運って貯められるものなのだろうか……。貯められるものたな貯めておきたいものだ。神崎さんいいなー。俺、そういうキャンペーンとかくじ引きとか全部当たったことないからな。
「それでさ、私の用事は済んだけど、瀬尾君の用事って何?」
「俺の用事は、夏でも着れる春物の服が欲しくてさ。今日、りりぽーとまで来たし、ついでに見ていこうと思ってさ」
「そうだったの。じゃあ私も服買おっかなー。そうだ! 私に服! 選んでよ!!」
「え!?」
「私も瀬尾君の服を選んであげるからさ。」
「お、おう」
ホントに出会って数週間しか経ってないのにこんなカップルみたいなイベントしていいのか!? い、いやいや、自意識過剰だぞ! 俺……。別に服選びがカップルのするのこととは限らないが、それでも、出会って数週間の男に服を選んでもらうか? 普通!!
「じゃあ、瀬尾君の服選びからいこう! どこの店がいいの? ここ、たくさん服屋あるけど」
神崎さんは全然そういうの気にしてないっぽいな。ならいいか……。いや、良くないか?
なんだか気にしたくなくても、俺が気になってしまう。でも、もう神崎さんはノリ気だし、何も起こらないことを信じて行くか!
「やっぱ、安くて安定のユイクロでしょ?」
「あー、やっぱり〜。安くてオシャレなのも多いしね。学生の味方ってやつ?」
「ハハハハ、そうかもな」
本当にここは便利だな。色んな店が幅広いジャンルで入ってるから。水族館と映画館もあるし、近場で最強だわ。
「じゃあ早速、これとこれー! 試着してきてー!」
「わかったから押すな」
……。絶対神崎さんふざけてるよな。これでふざけてないとか言われたらびっくりどころの感情じゃ済まないぞ。
「神崎さん、一応着たけど……。絶対ふざけてるよな?」
神崎さんが渡してきた服はトップスにスカートだった。
「ぷっははははは!!! せ、瀬尾君、女装似合ってるよ! あはははは!!」
「舐めてんのか!!!」
本当に、もしこれで俺が女装に目覚めちゃったらどうしてくれるんだよ。あ、もうそもそも変な性癖持ってる俺が言うことでもないか。その俺の変な性癖と言うのが――自己規制――。
「ちゃんと来てくれる辺り芸人魂を感じるよ」
「俺、芸人じゃないんだが?」
「はぁ〜、面白かった。今度はしっかりしたの選んだから」
今度は大丈夫そうだな。水色のTシャツにベージュ色のカラージーンズだった。ふぅ、変な性癖に目覚めなくて済みそうだ。
「着たけど、どう?」
「あっはははは!」
「え? なになに? 神崎さんまた変なの選んだ?」
自分で鏡を見て見ると、前面に大きく魂というプリントがされていた。
「ちょっ! また変なの選んだな!」
「ごめんごめん、まさかこんな文字が書いてあったとは。あははは」
地味にツボってるじゃんか。そんなに面白かったか。とりあえず、カラージーンズだけ買うか。
「はい、最後にこれこれ」
最後はちゃんとしたのを持ってきたぽいな。半袖のポロシャツと薄めのアウターを持ってきた。一体、会話しているそんなにない間にどこから持ってきているやら。予め持ってきていたのだろうか。
「おー、似合う似合う」
「じゃあ、これ買おっと。合計は大体五〇〇〇円ぐらいだろ」
「ユイクロだからね。次は私ね〜。瀬尾君、選んできて〜」
「了解」
神崎さんに似合いそうなやつかー。スタイルいいからなー神崎さんは。一回目、緑のワイドパンツと白いトップス。
「はい、どうだ」
「おぉー、ありがとー。なかなかいいね」
「だろ。じゃあ次な」
次は、普通の白いTシャツと緑のフレアワンピースを合わせたコーデ。
「え! すごくいい! これめっちゃ好きなんだけど!!」
試着室の中から歓喜の声が聞こえる。さっきのコーデは俺的に結構自信ありだったからな。
「これだと、三〇〇〇円ぐらいで収まるしいいじゃん」
「気に入ってもらえたようで何よりだ。」
「すいませんー。このコーデに合う帽子とかってありますか?」
「はい、ありますよ。こちらなんてどうですか?」
店員さんが持ってきたのは大きめの麦わら帽子。それを神崎さんがかぶると一気に夏って感じになった。まだ夏まで三ヶ月程あるのに。
「いいと思うぞ」
「彼氏さんもそう思いますよね。お客様とてもお似合いですよ!」
「えへへ〜、そうですか〜。……」
「……」
「「え?」」
今、この店員さん、俺の事、彼氏さんって呼んだよな?
「どうかされました?」
「い、いや……」
「その……、俺達の付き合ってないんですよ」
「そ、そうでしたか。それは失礼しました!」
「あ、いえいえ」
やっぱりこの状況、傍から見るとカップルに見えるのか。店員さんは気付いていないようだが、神崎さんはちょっと顔を赤らめていた。
「じゃ、じゃあ、会計……行こっか」
「あ……、うん」
「ありがとうございました」
会計を終え、俺らは店を後にした。
「わ、私達さ……、傍から見るとカップルに見えるのかな?」
「そうなのかもな」
二十分前の神崎さんとは裏腹にさっきの店員さんに言われたことに動揺を隠せないようだった。
「じゃあ、帰るとするか」
「そ、そうだね」
そして、俺らは蛍池駅までモノレールに乗り、蛍池駅から阪榮電車に乗り、自分たちの最寄り駅まで帰った。
「今日はありがとね。おかげでいい服が買えたよ」
「こちらこそ、服選んでくれてありがとな」
電車に乗っているうちに、落ち着いたようだった。夕暮れ時で、夕日が神崎さんを照らしていた。
「じゃあ、また月曜日に。またね〜」
「はーい。じゃあなー」
気のせいだろうか。やっぱりまだ動揺していたのか、顔が赤かった気がしたが、夕日のせいではっきり見えなかった。
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