高校2年生 1学期

第1話 初仕事は入学式準備

 委員会の委員を決めてから二日経った今日。二年生になっての初仕事がやってきた。

 今回学代に課せられた仕事は入学式の準備だ。主にすることは体育館のセッティング。席を並べたり、演台を出したりだ。

 あと小物を出したり、体育館の飾り付けらしい。他に中庭の剪定せんていや掃除もあるらしいんだが、それは他の委員会の仕事と聞いた。 

 初仕事にしては重労働だが、頑張ろうと思う。


「そういえばさー、瀬尾君」

「どうしたの? 神崎さん」

「学代って何の仕事するんだろ?」

「え……」


 学代の集合場所まで歩いて行く途中、神崎さんが知ってて当然なことを疑問形で聞いてくる。


「待て待て。知らずに立候補したのか!? 先生説明してたぞ!?」

「いや〜、丁度先生が説明してる時ねー、目蓋が十トンでさー。閉じちゃってたのよね〜」

「つまり寝ていたと?」

「ま、まぁ……そゆことっ!」


 バレたら隠さず、言い訳もせずに認めるとこは褒めてあげるとするか。

 それにしても肝心なところで寝落ちしてるな。というか、学級代表って名前から想像つくんじゃないか?


「でー、どんな仕事するの?」

「名前の通りだ。学級代表。すなわちクラスのまとめ役。リーダーってことだよ。ちょっと司会したり、意見まとめたりするんだ」

「へぇ〜」


 この前はそんなことも知らずに前に出て司会をしてたのか。しかも結構スムーズに進んでたし……。色々びっくりだよ。よく今日の今まで不自由なく学代の仕事をこなせたものだ。


「なんでどんな仕事なのかも知らない委員会に立候補したんだよ」

「それがさー、委員会には入るつもりでいたんだけどさ。目が覚めた時にはもう決め始めて、ヤバイーって思ってとりあえず手を挙げたら、まだ委員会決めの序盤でね。結果、学代になっちゃったってわけ」


 序盤中の序盤。まだ始まったばかりの時じゃないか。気づけよ……。


「じゃあ何で俺を推薦したんだ?」

「え? それ、前言ったじゃん。たまたま手を挙げた委員会が学代で、相手が知らない人だったら心細いじゃん? だから知ってる男子を推薦しようと思ったけど、よくよく考えると知ってる男子、喋ったことある男子が瀬尾君しかいなかったから」

「確かにこの前、今喋った二割ぐらいのことは聞いたが、残りの八割は初耳だな」

「え!? そ、そうだった……?」

「そうだよ!」


 なんでこの前の説明より今日の説明の方が詳しいんだよ。寝落ちしてたことがバレちゃったからか? 隠す必要なくなったから急に具体的な理由になったのか……?


「まぁ、なっちゃったものは仕方ないわ」

「うんうん。そうだよー」


 ちょっとムカッときた。推薦したのコイツなのに。


 そして、学代の集合場所である体育館に到着した。


「はい。皆さんはじめまして。学代委員会、委員長兼生徒会長の吉田よしだ秀弥しゅうやです」


 うわー。なんかこの人モテてそう。生徒会長とかラブコメでいくとモテててるイメージしかない。この人、顔も悪くないし……。


「今日は進級して初めての集会ではありますが、入学式の準備という重大任務がこざいますので、力合わせて頑張りましょう」


 そして、各クラスの学代が指示を出されていく中、俺と神崎さんに指示されたことは、倉庫から入学式に必要な看板や小物を取ってくることだった。


「よう! 暁斗」

「やっほー。暁斗くん」

「おー。悠希ゆうき梓紗あずさ。二人も学代だったのか」

「そうそう。悠希に誘われてさー」


 そこには、俺の中学からの友達、坂木さかき悠希ゆうきがいた。そして、その隣には同じく中学からの友達、富明とめい梓紗あずさもいた。


「暁斗くんは、立候補じゃなさそうだねー」

「よくわかったな。推薦で当てられたんだ」

「やっぱりー」

「暁斗、こういうのやりたがらないからな」


 さすが、三年間を共に過ごした仲間。よくわかってるじゃないか。


「そろそろ、仕事しようぜ」

「そうだな」

「またあとでー」

「おう」


 早く終わらせたいから思い出話はまた後でだ。


「神崎さん、倉庫行くぞー」

「はいはいー」


 神崎さんを連れ、看板や小物がしまってある倉庫へ向かう。


 “ガチャ”


 委員長から預かった鍵で倉庫の扉を開け、壁にあるスイッチで電気をつける。


「うわぁー。結構色んな物があるね……」

「俺、もうちょいわかりやすいものかと思ってたわ……」


 辞書によると倉庫とは、“貨物などをたくわえ、また保管するくら。また、他から委託された物を保管するくら”らしい。

 ここの倉庫はとても理にかなった使い方をしている。棚には所狭しと教材やダンボールなどが詰めてある。

 俺たちはこの中から入学式に必要な物を探し出さなくちゃならない。


「うちの学校、倉庫いくつかあるはずなのになんでこんなぎゅうぎゅうになるんだよ」

「さぁ?」

「もうちょい倉庫増やしてもいいんじゃないか」


 二人で手分けして十畳程の広さをした倉庫から入学式用品を探す。


「わぉ。懐かしいー。これあれでしょ? 確か去年のー……」


 神崎さんは人差し指をピンと立て、くるくると手首を回しながら考える。


「なんだっけ?」

「忘れてるんかーい」


 結局答えは見つからなかったよう。謎に手首を回しただけになった。


「えへへ。これ、瀬尾君は覚えてる?」

「覚えてるよ。去年の講演会で使った小道具だろ?」

「あー! それだ!」


 「というか、なんでそんなものがまだ倉庫にあるんのよ?」と言いながら元の場所に小道具をしまう。


「うーん。なかなか見つからないものだな」

「ねー。そこまで広くない倉庫なのに」

「ここの学校の倉庫にしたら広い方じゃないか?」

「そうかな?」


 たぶん、ここの倉庫がこの学校で一番広いんだと思う。なぜなら、入学式の看板やさっきみたいな小道具的な物まであるからだ。狭い倉庫なら入れないだろ。


 それから数分経った。


「待って、ホントに見つからないよ?」

「一年に一回使うものはわかりやすいところに置いといてほしい」


 実は入学式の看板は大きいため結構すぐに見つかった。今探しているのは飾りだ。小さい小物類だから余計見つけにくい。


「うーん。どこにあるんだ? あ……」


 探し疲れて、天を仰ぐように上を向いてみると、棚の一番上に“入学式飾り”と書かれたダンボールがあった。


「神崎さん。見つけたぞ」

「え、どこ?」

「あそこ」

「あ、ホントだ。気づかなかったや」


 あんな目の届かないとこに置くかね普通。そういうとこに置くのは今後一切使う予定がないものとかだろ。


「もうちょっと早く気づけばよかったねー」

「あ、ちょ。危ないから俺が取るよ」

「大丈夫だよー」


 身長が届いてないのに無理矢理取ろうとする神崎さん。一段目の棚に足をかけてダンボールを取ろうと試みる。


「よーし。取れた〜。うわっ!」


 ダンボールを掴んだ時にバランス崩してしまった。


 “ガシャン!”


「ほら、言っただろ。危ないって……。怪我ないか?」

「あ、うん。大丈夫。ありがとう」


 俺は上手いこと神崎さんを受け止めることに成功した。俺が受け止めていなかったらたぶん神崎さんは頭を打っていた。


「ならよかった。よし、これで入学式の用品全部取れたな。戻るか」

「う、うん」


 さっきのでまだびっくりしてるのかちょっとオドオドしてる。そして、倉庫内は薄暗くて、はっきりは見えなかったがちょっと顔が赤かった気がする。


「委員長、持ってきました」

「おー。ありがとう。随分遅かったね」

「なかなか見つからなくて」

「そうだったのか。じゃあ、二人共飾りつけ頼むよ」

「「はい」」


 言われた通り、体育館の飾り付けを二人で手分けしてやっていった。手の空いていた人も手伝ってくれたので予想より早く終わった。

 その後は全員で席を並べた。他の委員会も自分の仕事が片付き、手伝ってくれたおかげで効率よく進めることができた。


「学代委員会の人ー。集合!」


 全ての準備が終わった時に集合がかかった。


「はい。皆さんお疲れ様でした。素早く動いてくれたお陰で予定より早く終わることができました。なので、自己紹介だけ終わらせちゃおうと思います」


 そう言われ、二年一組から順に自己紹介をしていく。

 

「二年一組、坂木さかき悠希ゆうきです。約に立てるように頑張ります!」


「二年三組の富明とめい梓紗あずさです。一学期間よろしくお願いしますー」


 「二年四組の神崎かんざき奈々海ななみです。学代委員は初めてなので、不慣れな部分もありますが精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」


 俺の番が回ってきた。なんのイメトレもしてないからマジでアドリブなんだが……。


「えぇー……、同じく二年四組の瀬尾せお暁斗あきとです。頑張りますのでよろしくお願いします」


 アドリブで言ったが案外いけるものだな。


「はじめましてー! 二年五組の神崎かんざき千佳ちかです! 学代は初めてですので、わからないことだらけですが、よろしくお願いしまーす!」


 すっげー、元気で明るそうな人だなー。神崎……。同じ名字の人が同じ委員会にいることなんてあるんだなー。神崎って、そこまでたくさんいなさそうな名字なのに。


「続いて三年生お願いします」

「はい。三年一組の――」


「ありがとうございました。今日はこれで解散となります。気を付けて帰ってください」


 ありがとうございましたと号令を委員長がかけて、生徒はそれぞれがカバンを持って生徒玄関へ向かっていく。


「また明日ね! 瀬尾君」

「また明日〜」


 神崎さんは俺に挨拶をして帰っていった。


「俺も帰るかー」


 帰っても暇なのに変わりないのでどっか寄り道でもして帰ろうかな。


「あ、今寄り道でもして帰ろうかなって顔してたでしょ」

「うわっ。びっくりした……。なんだ梓紗か……」


 急に右から声が聞こえてびっくりした。全く気配に気づかなかった。


「それでー? どこ寄り道するのかなぁ?」

「お前……、俺の思考読めすぎだろ」

「私、テレパシー保持者なので」

「嘘つけ」

「あ痛っ」


 頭に軽く一発チョップを入れてやった。決していじめではない。じゃれ合いだ。


「私も寄り道について行ってもいい?」

「別にいいが、悠希は?」

「用事あるって言って先帰った」

「そうなのか」


 なら、仕方ない。二人で遊びに行くか。なかなか久しぶりなことだがな。


「寄り道って言っても梓紗が思ってる寄り道じゃなくても文句言うなよ」

「うーん。それは約束できかねるね」

「じゃあ、一人で帰れ」

「あー、うそうそ! そんな冷たいこと言わないでー!」


 こんな調子だから付き合ってると勘違いされることもあるが、決して俺と梓紗は付き合ってるわけではない。ただ、三年間の仲がこじれて傍から見ると付き合ってるように見えるようになってしまっただけだ。


「よし、行くぞ〜」

「おー。じゃあ、今からストバ行こうか」

「結局梓紗の寄り道じゃねーか」

「あははは。そうだね」

「そうだね。じゃねぇーよ……」


 結局その後、二人でストバに行き、小一時間雑談をしてました。



 入学式の準備が終わり帰宅した後、私は妹と一緒にショッピングに行った。春服とか夏服とが欲しかったからね。

 そして、ショッピングモールに向かう途中のストバでジュースを買った。そこで瀬尾君を見かけた。テーブル席に座っており、その前には女子がいた。


(あ、瀬尾君。あれ? 瀬尾君の前にいる人……確か学代一緒の人だ。なんで二人一緒なんだろ。仲は良さそうだったけど……。もしかして彼女!?)


「ゲホゲホ」


 飲んでいたジュースが変なとこに入った。


「な、奈々海大丈夫?」

「大丈夫大丈夫」


 (ど、どういうことなんだろう……)

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