第13話 ダブルデート
悠希が告白をした翌日、無事に梓紗と付き合うことができたと悠希から直接報告を受けた。
何かがスッキリしたような……この前よりも軽快なステップで悠希は歩いていた。
でも、実は悠希から直接報告を受ける前から、すでに二人が付き合えたことを知っていた。
なぜなら、その日のうちに、梓紗から電話で知らせてくれていたからなのだ。
電話では、悠希を導いてくれた感謝も合わせて――。
『うん。無事に付き合えたよ。ありがとね、暁斗くん』
「いやいや。そんな大したことはしてないよ」
『そんなことないよ? 君は大仕事をやってのけたのさ』
「そうかー。まぁ、誇らしく思っとくよ」
『うん。そんでさー、悠希はきっと、暁斗くんを頼ると思ってたんだよねー。ほら? 正解だったでしょ?』
「そうだな。ホントに悠希が相談に来た時は梓紗の予言が当たったーってちょっと驚いたもん」
『ふふん! 伊達に十数年幼馴染みやってるわけじゃないもん!』
自慢気に言う梓紗の言葉からは、悠希とどれだけ深く、長く付き合ってきたのかがよく伝わってきた。
「ははは。幼馴染みって単語は強いな」
『でしょ〜?』
ふと、時計を見れば、すでに時刻は十一時を回っていた。あと一時間で日付が変わってしまう。
『あ、もう十一時かー。時間が過ぎるのは早いね』
同じタイミングで梓紗も時計を見たようだ。
「だね」
『んじゃー今日はこの辺にしておこう。ホントにいろいろありがとね。また明日』
「うん。また明日」
そう言って、俺たちは電話を切った。
それから俺はさっさと布団に入り、寝ることにした。
というのが、告白後の裏話だ。
そして、今日、新たな相談を悠希から受けた。
付き合った後にすることと言ったら? そう、デートだ。今回はそのデートについての相談だった。
悠希いわく、全くデートの仕方がわからない。とのことだった。場所や服装、会話など様々なことが気になるようだ。
幼馴染みなんだからそこまで気を使う必要性はないだろうって言うと、そういう考えは甘いぞ、と言われた。何が甘いのか……。
そして、悠希からされた提案が……。
「お待たせ」
「やっほ〜奈々海!」
「梓紗ちゃん〜!」
そう、ダブルデートだった。
オレ一人だとめっちゃ不安だからさ、暁斗も一緒に来てくれよ! と言ってきた。まさか初デートにダブルデートを選ぶとは思ってもいなかった。
「私、ダブルデートとか初めてだよー」
「当然私もなんだけどもー。まぁ? 今度は二人で行きたいよねー?」
「そ、そうだなぁー……」
そぉーと悠希が梓紗から視線を外らす。
やっぱり、初デートがダブルデートってのには不満があるらしい。
事情を知っている奈々海は静かに頷く。
「まぁー、とりあえず行こうか」
「そうだな」
このままでは一向に話が進む気がしなかったので、ここで話を切り、駅へと向かう。
今日の行き先は梓紗の希望で、大阪にある水族館。
デートと言えば水族館! みたいな習わしがあるけど、梓紗は単に水族館に行きたかっただけらしい。
「水族館とか何年ぶりだろねー」
ホームで電車を待ってる時に奈々海が呟く。
「確かにー」
「オレ、小学校以来行ってないわ」
「もしかして、私と行ったのが最後?」
「そうそう!」
なんと、悠希が最後に行ったのは梓紗とが最後らしい。そして、久しぶりに行く水族館も梓紗と一緒。
やっぱり、幼馴染みなんだなと思うな。
「暁斗は最近行ったか?」
「いや、俺も久しぶりだ。というか初めてに近い感覚なんだ」
「暁斗君ってあまり水族館とか行ったことない系?」
「そうだな」
思い返してみると、俺って水族館に行ったことあったっけ? ってなる。
行ったことあるけど、覚えてないだけかも知れないし、ホントに行ったことない可能性も……。
「まー、あまり友達と行くようなとこでもないかも知れないけど」
「だねー。水族館とかって家族で行ったり、彼女行ったりだもんね」
「男友達と水族館に行ってもなんも楽しくないだろうな」
「魚が好きなやつ同士なら楽しんじゃね?」
「それはそうだな」
水族館って、とりあえず行けば楽しめないわけではない。
色々な演出があったり、キレイな魚におっきい魚、珍しい魚から身近な魚まで、様々な魚介類がいる。それに加えて、イルカやシャチなどの海に住む哺乳類もいたりする。
水族館は、魚に興味がなくても十分楽しめる場所だ。
そんなことを行ったことがないかも知れない奴に言われても説得力はゼロかも知れないが、少なくとも俺はそのように考えている。
電車が定刻通りに到着し、それに乗り込み大阪の方まで出る。
車内では必然的に会話が減る。全くしないわけではないが、車内で静かにするのは一般常識だと俺は認識している。
そもそも、俺は車窓を眺めるのが好きだから、暇なら外を見てる。
奈々海も梓紗も悠希もカバンからスマホを取り出して眺めている。
それにしても、大阪まで一時間ぐらいかかるが、さすがにそれは暇すぎるな……。ずっと車窓を見るのも、多分途中から飽きてくるだろうしな。
まぁ、そうなったら会話すればいい話だ。大声で喋らなければ迷惑にはならない。
結局のところ、みんなスマホを触る意味がなくなったら自然に会話が始まった。
梓紗が水族館か動物園どっち派? という質問が来て、俺も含め全員が水族館と答えていた。
動物園って臭いじゃん? って意見があり、それは同感だった。
しかし、動物園には動物園の良さがある。動物園でしか会えない動物達がいるし、水族館とはまた違った楽しみ方ができる。
でも、なんとなく俺は水族館派だった。
電車が大阪駅に到着した。降りて、次の乗り場に向かう途中、悠希が腕時計で時間を確認して、気付いたように言う。
「そういや、今十一時過ぎだけど、昼飯ってどうすんだ?」
「水族館行く前にどっかで腹ごしらえして行く?」
「いい店知ってる人ー」
梓紗がそう呼びかけるが、反応はゼロ。誰も答えない。というか、答えれない感じだろう。
「全員知らないじゃん」
「そりゃ、あまりこっちの方来ないし」
「そっかー」
みんな、そこまで大阪の方に行かないし、そりゃ知らないわけだ。
「じゃあ、ネットでおすすめのレストランでも探そうかな」
「文明の利器は素晴らしいね」
「だねぇー。こういう時に超便利! もし、今の私達にスマホがなかったらどうなってるんだろうね」
「案外不自由なく過ごせるかもな」
「そこまで電子機器を使わないって人も多いしな」
実際、昭和の時代とか、こういう電子機器がなくても生きてこれたわけだ。そう考えると電子機器がなくなっても大丈夫なのではないかと思う。
けど、すでにたくさんの電子機器は普及している中で、突如としてすべての電子機器が使えなくなったら世界は崩壊するのではないか?
今ではコンピュータ制御のものも多く存在している。
それが止まってしまうとコンピュータで管理してたものが暴走したり、壊れたり、最悪の場合、災害をもたらしかねないわけだ。
時代の変化に連れて、文明はどんどんと便利になっていくもの。
それは素晴らしい発展だと捉えるべきなのだろう。
「お、なんか評価の高いカフェあるよー」
梓紗がいい店を見つけたようだ。
「ほー、良さげじゃん」
「ここからも近いね」
「そこでいいんじゃないか?」
「皆、ここでいい?」
「いいぞー」
「うん。いいよー」
「いいよ」
「全会一致ということで、この店に行こー!」
ということで、カフェ目指して駅を出る。
大阪の街は人が多い&入り組んでるからすぐに迷子になりそう……。
ちょっとでも横道に逸れれば裏道があったりしてもうわけわからんことになってしまう。
でも、今回は駅近のカフェだし、スマホあるし、迷うことはないね。
梓紗はこういう事はすごく頼りになるし。
駅を出て歩くことほんの数分。お目当てのカフェが見えてきた。
けれども、やっぱり評価が高かっただけある。店の前に結構な人だかりが。多分、順番を待っている人達だろう。
「現在、約三十分待ちでーす」
そんな店員さんの声が聞こえる。
「この時間で三十分待ちなら、お昼時ピッタリに来てたら、もっと凄いことになりそうだな……」
「ちょっと早めでよかったね」
相当人気なカフェなんだろう。俺たちが並び始めてからも、俺達の後ろに続々と客がやってくる。
その客のほとんどがイケメン男子やおしゃれ女子。そして、カップル。
この店はそういう客層向けの何かを展開しているのかも知れない。それか、単に若者が多いだけなのかも。実際、俺達もデート途中で立ち寄ってるわけだし。
それから三十分。長いような短いような待ち時間を経てようやく店内へと入ることができた。
観葉植物が置いてあり、ダークな木目を貴重とした落ち着きのある店内には、香ばしいコーヒーの香りが漂う。
俺達が案内されたのはテーブル席。テーブル席の他にカウンター席と、一つ一つ区切られているデスクのような席があった。
「メニューは……これだな」
テーブルの端に立ててあったメニュー表を悠希が二つ取り、二人で一つを見る。
さすがカフェ。料理名がおしゃれだ。おしゃれだけどしっかり何の料理かもわかる。
「さて、何にしようかなー」
「ついこないだもカフェ来たからねー。ちょっと違うものがいいな」
「前のカフェとはまた感じが違うだろうけどな」
「なんだ? デートの定番はカフェなのか?」
「そういうわけじゃないけども……」
まぁ、確かにドラマやアニメを見てるとデートの昼食で行く店は大体がカフェ的なところだけども。
決してカフェに行かないとだめなわけじゃないし、彼女がここ行きたいってとこに入ったらいいのかなとも思う。
「デートにおすすめの店って言ったらパスタの店とかでもいいんじゃない?」
「あー、確かにデートっぽいかも」
「でも、私はそれなしだね」
「そうなのか? 何故?」
「いやー、私、そこまでパスタ好きじゃなくてさ。ラーメン、うどん、そばなら全然いいよ」
「そ、そうか……」
梓紗ってパスタ好きじゃなかったんだな。勝手な偏見でパスタ食べてそうなイメージあったのから、なんか驚き。
「みんな決まった?」
奈々海がみんなに声をかける。
「うん。決まった」
「俺も決まった」
「オレも大丈夫だ」
「よーし。すいませーん。注文お願い致しますー!」
「はーい」
奈々海が店員さんを呼ぶとカウンターから歩いてきて、すぐに対応してくれた。
この繁盛具合でよく手が回っているものだ。
それぞれ、食べたいものを店員さんに伝え、料理が到着するのを待つ間にこの後の予定を合わせた。
この後何時にどこで何時の電車に……とかそこまで詳しくは話してないけど、今から何時ぐらいまでここにいるかとか、帰宅は何時にするとかを軽く話し合った。
「お待たせしましたー」
料理が運ばれて来て、各自の料理を受け取る。
「うわぁ〜、うまそー!」
「いっただきま~す!」
「奈々海、食べ始めるの早いな」
「私達も食べよ食べよー」
ちょっと食いしん坊なところがある奈々海はさっさと食べ進めている。
そして、ちゃっかり食べ終わったらデザートまで注文していた。しっかりデザートまで食べる完璧主義。
みんなが食後はゆっくりしている中、一人デザートを食べていた。
悠希はコーヒーを注文していた。しかもブラックで。
悠希がコーヒー飲めるなんてちょっと驚いた。大人だなーってね。
「みんなもう満足したか?」
「うん」
「そろそろ今日の本命に行こうか」
「行こ行こー」
カフェを後にして、さっきいた駅まで戻り電車に乗る。
大阪から環状線に乗り込み、弁天町駅前まで行き、そこから大阪メトロ中央線に乗り換え、大阪港駅まで行く。そこからは徒歩で数分だ。
なかなか行きにくいところに立地しているなと思いつつも、決めたことだし、迷わないように行こうと思う。
あ、そういえば。この前水族館までのアクセス調べた時にバスもあったな。
今回バスは一切つかわなかったが、案外交通の便はいいのかも知れないな。
「やっと、着いたな」
「やっとっていう時間経ってもないけどな」
「うわぁ〜! 海だー!」
「海はさっきも車窓から見たでしょ?」
チラっと見える海に大興奮の奈々海。梓紗の言う通り、車窓からも海は十分に見えた。
海を見て興奮する気持ちはわからんこともないが、でもなー、大阪湾の海とか汚いじゃん。それだったら沖縄とかの海の方が絶対キレイだろうよ。
いつか行きたいなー、沖縄に。
「あ、そういえば……チケット買ってないぞ?」
「別に当日券あるでしょ?」
「ちょっとあれ、見てみろよ」
「当日券、入場時間まであと225分待ち!?」
「これ、普通にヤバくね?」
「ってことは225分待たないだめなの?」
焦る二人と冷静に状況を理解する奈々海。
そんな三人を横目に俺はめっちゃ落ち着いている。
だって、こういうのはチケットを予約するのがベターでしょ?
「みんな。そうあせらないで」
「逆に何でお前はそんなに落ち着いてる?」
「ふっふん! 何を隠そう、俺はチケットを予約してきたからなのだぁー!」
「おぉー! でかした暁斗!」
「さすが暁斗くん。頼りになるねぇー」
「暁斗君さーすがっ!」
ここの水族館は入場時間が区切られていて、それを過ぎるとちょっとヤバめだけど、今日、俺達が水族館に到着するであろう時刻を逆算して予約してみたのだ。そして、なんと時間ピッタリ。
これには当の本人も逆にびっくり。
「まぁ、とりあえず列に並ぼうよ」
ウェブでチケットを取ったから、スタッフさんにチケットを交換してもらわなければならない。
本日二回目の列に並ぶが、思ってたよりスルスルと列は進む。
「いや、わかってたけど暑いな」
「もう七月だしな」
「気づけば夏の季節になっちゃってー」
「アイスが美味しい季節だよー!」
今日、アイス食べて帰ろうよ、と提案する奈々海にみんな賛成する。
さすがにこんなに暑いとアイスが食べたくなるのも無理はない。
実際、さっきアイスを食べる歩きしている親子とすれ違った。みんな、暑い日に考えることは一緒ということだ。
「チケット拝見しますー」
「ウェブで予約したんですけど……」
俺はスマホ画面を見せ、QRコードを読み取ってもらう。
すると、スタッフさんが四枚分のチケットを発行してくれた。
「ほれ、三人の分だ」
「サンキュー」
「ありがとねー、暁斗くん」
「ありがとー!」
チケットを渡した後、俺達は順路を追って水族館内を回っていく。
まずはアクアゲート。左右と天井が水槽になっていて、たくさんの魚が泳いでいる。
ちっちゃなエイがとてもかわいかった。
「ねぇねぇ、暁斗君! 写真撮ってー」
「ああ。いいぞー」
そう言って、奈々海からスマホを受け取る。
「映えるようによろしく!」
「俺はカメラマンかっ!」
映えるように……とは言われても、この人の量ではなかなか写真も撮りにくい。最低限、映えてる感じに撮れるように努力はした。
「お、なかなかいい感じに撮れてるじゃん! 暁斗君やるぅー!」
満足してもらえたようで何よりだよ。
次は日本の森と言うエリアだ。
ここにはコツメカワウソがおり、周りは木々が生い茂って、滝の音が心地よい空間になっている。
「待ってぇー! カワウソめっちゃかわいいんだけど!」
「愛くるしいなぁー」
「飼いたい……」
「飼うのは大変じゃないか?」
こういう小動物が大好きな梓紗はコツメカワウソに大興奮。
道を進んで行くと川魚の水槽もあったが、あまり聞いたことのない魚達だった。
日本の森を抜けるとアリューシャン列島の展示だ。
ここでは、エトピリカなどの生き物が暮らしている。
「あれ、カモじゃないの?」
「違うらしいな。エトピリカって言うらしいぞ?」
「いや、あれはどっからどう見てもカモでしよ」
違うと言ってるんだから……。しかもちゃんと書いてあるし。
「ねぇ、あれって巣穴じゃない?」
「そうだな。ヒナを育てる巣穴なんだってよ」
悠希がパンフレットを見ながら答える。
そういえば、悠希が全員分のパンフレットを取ってきてくれていた。
まぁ、ボケられて俺だけ中国語のやつを渡されたが……。
(後でしっかり日本語版も受け取りました。)
「おー! あれはアシカじゃないか〜」
モンタレー湾の展示には活発にみずのなかを泳ぎ回るアシカ達を見られる。
「は、早っ!」
「写真に収められたもんじゃないね」
「こういう時こそ連写だよ!」
「あ、でも丁度良いところに寝ているアシカが……」
連写をしていた奈々海がパシャッと、今度は寝ているアシカの写真を撮り、しばらく眺めていると、寝ているアシカに水から上がってきたアシカが近づき、陣地取りが始まった。
「わっ! 喧嘩してるー」
「水族館でもそんなことあるんだな」
「結構珍しいんじゃないか?」
結局、寝ていたアシカくんは陣地取りに敗れてしまった。
少し可哀想だな……。
アシカエリアを抜けると次に見えてくるのはパナマ湾のエリア。
ここではアカハナグマやイグアナがいたり、ハリセンボンがいたりする。
水中ではハリセンボン。陸ではアカハナグマがいる。
「ねぇ、あれってイグアナじゃない?」
「うわ! ホントだでけぇー」
「暁斗君見て見てー! ハリセンボン!」
「思ったより可愛い見た目してるな」
「フグとどう違うんだろうね」
ハリセンボンとフグの違いって、食べるか食べれないかって思ったが、後で調べてみるとどっちも食べれるそうだ。
しかもハリセンボンってフグ目ハリセンボン科って種類に分類されるらしい。
逆にフグは、フグ目フグ科らしい。
つまり、ハリセンボンはフグの仲間ということ。
ちなみにハリセンボンという名をしているけど、針は千本もないらしい。
「あ、エンゼルフィッシュもいる。かわいい〜」
「案外ちっちゃいんだな」
パナマ湾の先にはまた緑が茂ったエリアが見える。
「え、あの魚おっきすぎない!?」
「ピラルクって魚なんだってよ」
「へぇー」
「何か水槽の中が窮屈そうだね」
ここ、エクアドル熱帯雨林では、ピラニアや巨大魚のピラルクなどの熱帯地方の魚が展示されている。
「ピラニアめっちゃいるな」
「見てー背びれ光ってるぅー!」
「以外にも可愛い見た目ー」
見ている分にはいいが、襲われてしまうと大変なことになるからな。
「ピラニアは殺人魚と言われていますが、実は意外にも臆病で神経質な性格なんですよ〜」
スタッフさんによる解説で意外な一面を知れた。
まさかの臆病だなんて。
次に見えてきたエリアは、南極大陸。
南極大陸と言えば、そう! ペンギン! ガラスの向こう側にはたくさんのペンギン達が生き生きと暮らしている。
「きゃわいいー! ペンギンきゃわいい!」
「興奮し過ぎだろ……」
「だってペンギンだよ!? ペンギンはかわいいじゃん!」
奈々海は相当のペンギン好きらしい。ペンギンのぬいぐるみとかをプレゼントであげたら喜びそう。
「はは。あいつらどこ向いてんだよ」
「ぼーと突っ立ってるね」
「それに比べ、水の中を泳ぎ回ってるペンギン達とは大違いだな」
悠希達と会話している間にも、横からパシャパシャとシャッターを切る音が鳴り止まない。それに、時たま連写音も聞こえてくる。
「奈々海、撮りすぎじゃないか?」
「全然そんなことない!」
「あっそう……」
その後、イルカがいるタスマン海エリア、サンゴ礁が綺麗なグレートバリアリーフエリアへと見て回った。
タスマン海エリアで悠希が、イルカいるかー? おるで!ってダジャレを言ってたけど、だだスベりしてた。
「お、ここが目玉じゃね?」
「太平洋エリアだね」
「わー! ジンベイザメが二匹もいる〜」
ここの水族館の大目玉、大水槽の太平洋エリアへ一時間半程かけてようやく到着した。
「すげーなー」
「そっちもすごいけど、後ろの縦にどっか切り取れば美術作品になりそうな水槽も気になる」
ここの太平洋エリア。果たして何階なのだろうか。でも、太平洋エリアのうち一番上なのはわかる。
そんな俺らの後ろには瀬戸内海エリアがある。
展示が如何にも美術作品って感じ。どっか切り取って額縁に入れても違和感ないだろ。
「こっちもスゲーけど確かにこの後ろも気になるな」
「あ! 私これスマホの壁紙にしよっかな〜」
「それ良いね〜。私はスマホのロック画面にしようかなー」
女子二人が瀬戸内海エリアの写真を撮りに行く中、男子二人は太平洋エリアに釘付け。
いやー、それにしてもデカイ水槽だ。さすがこの水族館の目玉なだけある。
上から下まで、大中小様々な魚達が同じ空間で生き生きと優雅に泳いでいる。光の差し方もエモくていい。
「ジンベイザメ生で見るの何気に初かもっ!」
写真を撮り終えた梓紗が俺らの方にやってきた。
「水族館でも見れるとこ限られてるからな」
「他にジンベイザメいるとこって、ここと沖縄の水族館ぐらいじゃない?」
「多分そうだろうなー」
「いや、他にも鹿児島と石川、横浜の水族館にもジンベイザメはいるぞ」
「へぇー」
「暁斗って、物知りだな」
「雑学博士とかなれそう」
多分、世界一稼げない博士になるだろうな。
「ねぇねぇ、暁斗君」
ちょいちょいと奈々海が手招きして俺を呼ぶ。
「折角だし写真撮ろうよ」
「いいぞ」
「やったぁ!」
そうすると、カバンから見覚えのある自撮り棒を取り出してきた。
「それ、また千佳のやつをパクってきたのか?」
「うんん。今回はしっかり借りてきた」
しっかり学習してる。この前、京都行ったときは無断で持ってきてたからな。
「撮るよー。はいチーズ」
「撮れたかな〜。……あっはは! 顔が全く見えないじゃん!」
「ホントだな。ここ暗いから水の中の逆光で上手いこと映らなかったんだなー」
「まぁ、編集でなんとかしてみるよ」
編集でどうにかできるんだろうか。どうにもならなそうな雰囲気あるけど……。
「二人共ー。下の方行ってみよー!」
「わかったー。行こう〜、暁斗君」
「ああ」
順路を辿っていくって言っても、あとは大体大水槽の周りを回って行く形になる。
その大水槽を回りつつ、一回見たエリアの下の側が見れたりする。
「お、マンボウ」
「イカもいるな」
「光の当たり方が如何にも幻想的……」
「なんか、ガラスにネット張ってない?」
「これはあれだ。マンボウがガラスにぶつかって死んじゃうのを防ぐために張ってるんだろ。マンボウって衝撃に弱いから。結構マンボウってざんねんな生き物らしいよ」
「なるほどー」
「さすがに雑学博士!」
「勉強になるぅ〜」
そこまで言われるとちょっと照れるなぁ〜……。
雑学とか披露する場がないから、こういうことは貴重だな。
そして、またぐるぐると大水槽を回って降りていく。
その間にチリの岩礁地帯やクック海峡、日本海溝などの展示エリアがあった。
チリの岩礁地帯はイワシなどの小魚が群れを作り、生き生きと泳いでる姿が観察でき、クック海峡では大小様々な魚と亀がいた。
日本海溝には手足の長いカニが数匹おり、中ぐらいの魚も泳いでいた。
丁度、日本海溝エリアに降りてきたところで、大水槽の底に到達した。
水槽の角にはイヌザメやネコザメと呼ばれるサメが固まっている。
実にかわいい姿をしており、おれも思わず写真をパシャリと撮ってしまった。
「スゲー、何か下の方が迫力あるかも」
「座れるスペースもある〜」
「ふぅー……ちょっと座ってこうぜ」
「だな。足も疲れたし」
「さすがにこんなけ歩くと足も疲れるよね……」
四人並んで水槽の前に座る。後ろを振り向くと角いるサメ達がたくさんいる。
時折、エイが下の方まで降りてきている。
軽く数分休んだら出口目指してまた歩く。
展示もそろそろ終盤。
何とここでエスカレーターに乗る。
下に向かっていくエスカレーターの先には綺麗なクラゲ達がふわふわと軽快に泳いでいる。
「クラゲかわいいっ!」
「滅多にクラゲなんて見ないからな。何か新鮮だ」
クラゲを見ていると何だか癒やし効果がある気がする。一定のリズムでふわり、ふわり、と泳ぐ姿は一生見てられそうだ。
「あれ、映像みたいに見えるけど、本物なんだよね」
「そりゃ、こんなところで映像は流さないでしょ」
「だよねー」
一瞬映像かなって思える程のクラゲの水槽があった。
遠目から見ると完全に映像。近くで見ると本物。どっちが本当かわからなくなりそうだ。
薄暗いクラゲエリアを進み、綺麗なトンネルを抜けると、次は北極圏だ。
ここでは小さくてかわいいクリオネを見ることができた。
手の爪よりも小さく、ひらひらしたその姿はまさに天使。
客の皆さんもかわいいと言いながら近寄ってきていた。
天井には丸い穴があり、上にいるアザラシが下から見えた。
北極圏から抜け出すには、またエスカレーターに乗り、上に上がる必要があった。
その先には、さっき下から見たアザラシが数頭いた。
アシカと似ているけど、模様がちがったり、住んでる環境が違う。
「アザラシもかわよぉー!」
「この顔好きぃ〜」
女子二人はアザラシに夢中だった。
次のエリアでは、近くでペンギンを見れた。丁度、ペンギンの餌やりタイムで、飼育員さんからもらった魚とをパクっと食べる姿は実に愛くるしかった。
「いやー。楽しかったね」
「滅多に見られない魚達も見れて大満足だよー」
「推しはやっぱジンベイザメだな」
「私はカワウソだね」
「私はペンギンだ!」
「俺はあの大水槽の角にいたサメ達」
「あれかぁー! あれもあれでよかったよな」
「なぁー!」
感想を言い合いつつ、歩いていくと、グッズショップ的なのがあった。
ぬいぐるみやキーホルダー、日常で使えような文房具やハンカチ、クリアファイルが売っていた。
「ぬいぐるみかわいいじゃん!」
「ペンギンぬいあるかなー?」
「折角だし何か買ってやろうか?」
「わぁーい! さすが暁斗君! 太っ腹ー」
「いやーそんなことはな――」
「じゃあ、あの一番大きなジンベイザメのぬいぐるみ!」
「却下」
「えぇぇー!!!」
当たり前だろ。どう考えても高いし、どうやって持って買えるんだよ。俺ら電車だぞ?
しかも、奢っておらえるとわかった瞬間欲が丸出しだ。少しは遠慮というものを学んだほうがいい。
「梓紗は何か欲しいものあるか?」
「このキーホルダー。ペアルックにしようよ」
「お、いいじゃん」
「ほら、奈々海もああいうのにしなよ」
「むぅー……わかった……。じゃあ、この中ぐらいのジンベイザメぬいで」
「却下」
「なぁんでぇー!?」
中ぐらいのって付く時点でアウト。……というか、奈々海が抱きかかえている中ぐらいと思われるぬいぐるみは絶対に大の大きさだ。
多分、一番初めに奈々海が指差していたジンベイザメは特大とかだろ。
今奈々海が持ってるジンベイザメだけで奈々海の胸辺りから足首ぐらいまでの大きさだぞ。
「もぉー。買ってくれるといいながら却下ばっか……」
「買ってあげるにも限度があるだろ! 俺は金持ちじゃないつーの!」
「ちぇぇ。じゃあこのペンギンぬいならいい?」
奈々海が見せてきたぬいぐるみは胸に収まる程の小さなサイズ。
まぁ、これぐらいなら別にいいだろ。折角の大好きなペンギンのぬいぐるみだし。
「いいぞ」
「やったー!」
「二人も決まったか」
「うん。って……君らはもう会計してきたのかよ……」
「だって、暁斗くん達がつまらないネタやってるから」
「ネタじゃねぇーよ!」
誰がショートコントお土産売り場だよ。あ、そんなこと誰も言ってないか。
「まぁー、とりあえず会計してくるわ」
幸いにも空いていたのですぐに会計してもらえた。
そして、地味にペンギンぬいは高かった……。
会計を終えた俺達は出口に向かい、出口から階段を降りる。
「ここってお土産にしてはちっちゃかったね」
「お菓子とかもなかったし」
「ホントだな」
「珍しいお土産売り場もあるもんだなぁー」
階段を半分程降りて、右を向くと。
「いや、あるじゃんか! デカイお土産売り場あるじゃんか!」
何と、上のお土産売り場はフェイントだった。
「あー、二つあったのね」
「あ、お菓子も売ってる」
「でも、ぬいぐるみはあまりない印象だな」
「ホントだ」
上の階のお土産売り場はぬいぐるみ専門で下が極一般的なお土産売り場ってことなのかも知れない。
「私、友達と千佳のお土産買ってくる」
「私も家族にお土産買ってこー」
「わかった。オレらも行くか」
「だな。お土産買ってかなかったら母さんに怒られるわ」
「オレもだ」
「「あははははは!」」
それから、みんなそれぞれのお土産を購入し、今度こそ外をに出ようとした時に横目に入ったのが、ジンベイソフト。
そういえば、アイス食べて帰ろうって言っていたのを思い出した。
「みんな。こんなアイスあるぞ」
「わー、おいしそう!」
「そういえば、食べて帰ろうって言ってたね」
「折角見つけたし食べて行こうぜ」
「うん」
「地味に高いの腹立つけど、おいしそうだからよし!」
注文するにあたって、代表が1人並び注文しに行くスタイルを取った。そして、もちろん代表は悠希。実質今日の主催者みたいなものなんだから。
まぁでも、さすがにソフトクリームを取りに行く時は手伝った。一人で四つは無理がある。
「ありがとー」
「ん〜。これは、ラムネとバニラだね」
「冷静にまず味から分析していく奈々海氏」
「こういうアイスのハーフ系、オレ好きなんだよなー」
「へぇー。二つの味を楽しめるから?」
「そうだ!」
ただの欲張りなのでは? と疑問に思ったが、言葉が喉まで上がってきたところで押し返した。
「じゃあー、食べつつ帰りますか」
「うん」
「そうだね」
「帰るかぁー」
外に出るとムッとした空気が身体にまとわりつく。
俺達は行きの道を逆に行き、大阪駅目指して帰る。
その帰りの電車にて。
奈々海と梓紗は二人共疲れた用で各彼氏の肩を借りて寝ていた。
そんな時、悠希が喋りかけてきた。
「今日はホントにありがとな。おかげでこれから梓紗とやっていけそうだ」
「それはよかった。今度は二人でデートに行きなよ?」
「ああ。そうするつもりだ」
「いや、今思えばお前には救けてもらってばかりだな」
「そんなことないだろ」
「いや、この前の恋愛相談も乗ってもらったし、今回も付き合ってもらったし。ホントに感謝しか無いわ」
「あはは。その感謝の気持ちを胸に、これからも梓紗を幸せにしてあげてくれよ?」
「あぁ、もちろんだ。それが約束だからな」
約束。それは一体何のことかわからなかったけど、二人には末永く幸せに過ごして欲しいと思う。
これ程までにお似合いな二人は早々にいないと思うからさ。
……それから数日後、俺と奈々海は別れることになった――。
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