第12話 恋愛相談
最近は曇り空が多く、雨すら降らないものの、梅雨も本格的になってきた気がしないこともない。
でも、今日は雲が少なく青空が顔を覗かせている。
これを梅雨の季語で“五月晴れ”と言っただろうか。
そんな日の放課後、普通に帰るつもりでいた俺は帰る支度をし、奈々海と教室を出る。
「暁斗、ちょっといいか?」
教室を出たところで悠希に出待ちされていた。
俺っていつの間に出待ちされるほど人気になったんだろ。
「いいけど? 奈々海、ちょっとごめん」
「うん。待ってるよー」
奈々海が待ってると言ったのを確認してから俺は悠希と話す。
「ちょっと、この後オレと付き合ってくれないか?」
周りをキョロキョロと気にしながら小声でそんなふうに言ってきた。あまり公に言えないことなのか。
ちょっとおもしろかったからからかってみよう。
付き合うっていうのが恋愛的な意味ではないのとはわかっているけど、あえてそれをわかってないフリでボケてみよう。
「え、俺には奈々海っていう彼女が……」
「アホかお前! そんなわけあるか!」
キレのいい、気持ちいいツッコミが帰ってきた。さすが悠希。
「で? なにに付き合うんだよ」
「お前に相談があってな。オレの家まで来てくれないか?」
「ああ。わかった」
悠希が相談事なんて珍しい。相談する程の悩みがあるのか? 一体なんだろうか。
「お待たせ、じゃあ帰ろうか。今日は悠希も一緒に帰っていいか?」
「うん。いいよー」
奈々海の許可が降りたところで、なかなか珍しいメンツでの下校がスタートした。
いつもと違うメンツだからと言って何かが変わるわけではない。
普通に楽しい会話をしながら帰宅した。
そして、最寄り駅まで帰ってきたところで、俺達は奈々海と別れた。そのまま俺と悠希は悠希んちへ直行する。
悠希の家は俺んちからさほど遠くない距離にあり、最寄り駅も一緒。まぁ、中学が一緒なくらいだし、当たり前か。
駅から十五分程歩けば、悠希んちが見えてきた。
あれ? と、ふと疑問が出てきた。悠希んちの外壁ってこんな色だっけ? って思った。
前はクリーム色みたいな、完全な白ではない外壁だったけど、今の外壁は真っ白だ。汚れ一つないキレイな白。
「悠希んち、外壁の色変えた?」
「ん? よくわかったな。最近塗り替えたんだよ。変化薄すぎて誰も気づかないのに。お前すごいな」
カバンから鍵を取り出し、玄関の鍵を開けながら言う。
確かにクリーム色から白だとあまり変化がわからないか。光の当たり具合もあるだろうし。
「ほら、入れ」
「扱いがまるで犬だな……。お邪魔します」
思ったことを口に出しつつ、しっかり、お邪魔します、と挨拶する。まぁ、それは礼儀としての一貫だ。
「じゃあー、オレの部屋で話そうか」
てくてくと階段を登っていく悠希の後に俺もついて行く。
今日は誰も家にいないらしい。だから家だったのかと納得した。
中学の頃は、よく悠希んちに遊びに来ていた。なので、結構ここのことは知り尽くしてる。部屋の場所、洗面所の場所、トイレの場所。そして、何故かこの家には地下室がある。
そういえば、いつも遊びに行くたびにあや姉がお菓子を作ってくれたな。懐かしい。特にあや姉のホットケーキは美味しかったなー。市販の粉を使ってるとは思わない程だった。
ちなみにあや姉とは悠希の姉のこと。
そして、なんで人の姉を“あや姉”って呼んでるかと言うと、ご本人からそう呼んでほしいと言われたから。
理由は、悠希がそう呼んでくれないから、らしい。悠希はいつもあや姉のことを“姉ちゃん”と呼ぶ。そして、あや姉は“あや姉”と呼んでもらうのに憧れがあったのだと言う。
何度悠希にあや姉って呼んでって言っても姉ちゃん呼びから変わらなかったらしい。
だから、俺にあや姉と呼んでほしかったというわけだ。
そんなあや姉も今日はいないらしい。多分、大学かショッピングだろうな。
「よし、早速本題に入ろうと思うのだが……」
部屋の扉を閉めて、椅子に座る。俺はベットの上に腰を下ろす。
悠希は相当緊張しているのか、大きく深呼吸をする。
そこまで緊張する相談話ってホントに一体なんなのだろうか。
「単刀直入に言う。恋愛相談に乗ってほしいんだ」
「え……?」
恋愛相談。確かに悠希はそう言った。聞き間違いではない。
全然そんな恋に悩んでるような雰囲気はなかったのに。
そもそも論、俺に相談相手が務まるのだろうか。
そう聞いたら悠希は、彼女がいるじゃん。って返してきそう。確かに彼女はいるけど、俺が告った訳では無い。告られた側なのだ。
悠希がどんなことに悩んでるかにもよるけど、告るためにはどうすれば? みたいな相談には向いてない気がする。
「悠希、好きな人いたのか」
「ああ。言わなかったけどな」
「ほうほう……。で、どんな恋愛相談なんだ?」
「告る方法を教えてほしい」
はい出たー俺の専門外。いや、そもそも恋愛の専門家じゃないけども。
デートの誘い方とかデートで気をつけることとかなら答えれる自信はあるけど……。
「言っとくけど、俺から告ってないからな?」
「それでもいい! 一人じゃわからないから他の人の意見もほしいだけなんだ」
「それなら、まぁ……? 大丈夫か……な?」
なるべく期待に答えられるように努力はしよう。
「まず、誰に告りたいんだよ?」
「えっと……言いにくいんだが、梓紗……」
相手の名前の部分だけ異様に声が小さくなったが、部屋の中だったし、近かったからはっきり聞えた。
「梓紗?」
「ああ」
「それなら、多分告ったら確定で付き合えるぞ」
「おい、確定なのか多分なのかはっきりしろよ。保険をかけまくるな」
なぜ付き合えるのか、と疑問を言う前にしっかりツッコんでくれる辺りやっぱ悠希だなと思う。
「ごめんごめん、自分の中では付き合えるだろうなって思ってるけど、万が一振られた時に責められたら困るからさ」
「タチ悪いな……おい」
暁斗がいけるって言ったら告ったら振られたんだが! って後に責められるのは嫌だったんだもん。タチは悪くないだろ。
でも、さっきはなんかノリ的に多分と付けてしまっただけで、俺は確定で付き合えるということを知っている。
「んで、何でなんでそう思ったんだよ」
「この前、悠希の誕生日だっだろ?」
「そうだな」
「何をもらった?」
「カップケーキもらったぞ?」
「そのカップケーキには秘密があるんだよな」
実は、悠希の誕生日一週間前に梓紗からもある相談を受けていた。
相談内容は、悠希にどんな誕プレをあげればいいのか、だった。
そこで同時に恋愛相談も受けた。
「私さ、悠希の誕生日に手作りのお菓子送ろうと思うんだけどさ。何作ればいいと思う?」
「手作りのお菓子?」
「うん」
「王道で行けばクッキーとかカップケーキとか?」
「やっぱりー? んでね、その中に言葉を隠したくてさ」
「え、言葉?」
「そう言葉。私、悠希に伝えたいことがあってさ……。好きって伝えたい」
それを聞いた時は驚いた。けど、すぐに納得できる点は幾つもあった。
この二人は幼馴染みであり、その二人の輪に俺が入ったような構図だ。
何故か、二人には仲良し幼馴染みだけではない何かを感じてた。だから納得できた。
「それなら、言葉で伝えた方がいいんじゃない?」
「そうなんだけど……こ、これは完全に私の私利私欲なんだけどさ……私、告られたい。悠希に」
受けたい側だということか。
だから、もし悠希も私のことが好きなら、私も悠希のことが好きだよって伝えて、悠希の告白の負担を減らしたい。
そう言っていた。
「おい! そんな大事なことを何で早く伝えなかったんだよ!」
「梓紗が、この話は悠希が暁斗くんに恋愛相談してきた時に話してよ。って言われたから」
「なんだそれ!」
さすがは幼馴染みと言うべきか、梓紗は悠希が俺に恋愛相談を持ちかけるだろうとすでにこの時には踏んでいたのだ。
「ちなみになんだけどな、カップケーキに隠された言葉は気づいたか?」
「いや、全く?」
それもまぁ、当然だろう。結構わかりにくい隠し方をしたのだから。
「じゃあ、解説しよう」
ことの経緯は、結局のところカップケーキを作ることにした梓紗。それからそのカップケーキにどうやって言葉を隠すかということを考えていた。
そこで俺が提案したのが、カップケーキの味に言葉隠す。
でも、そうすると謎解きマニアぐらいしか気づかない程の難易度になってしまう。
「カップケーキの味なんだった?」
「いちごとキャラメルだった」
「いちごを英語にすると?」
「ストロベリー?」
「ストロベリーとキャラメルの頭文字を取って下さい」
「スとキ」
「繋げると?」
「スキ? 好き!? そういうことか!!」
「そういうことだ」
カップケーキに文字を書くって提案も出したのだけど、それだと隠せてないじゃんって事でボツになったのだ。
それで、結局、見つけられないかもだけど俺の提案になったのだ。
まぁ、それでも梓紗は満足していた。
「なんだそれぇぇー……。誰がわかるんだよその隠語……」
「それは俺も思ったんだけどな。梓紗いわく、バレるかバレないか程度の隠語がいいんだよ、らしい」
「はぁ……。昔からそんな謎解き好きだったもんな。梓紗は」
そうなんだ。初耳だ。
「よし! わかった。ありがとな暁斗」
「お役に立てたならよかったよ」
「オレ、今週の木曜日ぐらいに告ろうと思う」
「うん。頑張ってこい。俺も陰ながら応援してる」
そう言ってハイタッチをした時。ふふふと誰が笑うような声が聞えた。
ふと後ろを向くとドアを少し開けて話を盗み聞きしてる者が。
「ね、姉ちゃん! 帰ってたのか!」
「さっきね。帰ってきたよ〜」
「いつから聞いてたんだよ!?」
「うーん、暁斗くんが悠希の誕プレの話をしてたぐらいからかなー?」
「随分前から盗み聞きしてたんだな!」
盗み聞きしていたのはあや姉だった。
まさかの悠希が予想していた帰宅時間より早く帰ってきたみたいだ。
「悠希以外の靴があったから、友達来てるんだろうなと思ってねー。お菓子でも持っててあげようと二階に行ったら二人が面白い話をしてるからさ。ついつい聞いちゃった」
「聞いちゃったじゃねぇーよ!」
俺らもよく気づかなかったものだな。
「梓紗ちゃんもかわいいね。告ってもらいたいからカップケーキに言葉を隠すなんて。私でもやったことないよぉ〜」
「あや姉もそう思うかー。俺もそう思ったんだよ」
「気が合うねぇー」
「はぁぁぁ! もう……めっちゃ恥ずかしい」
顔を真っ赤にして顔を両手で覆っている。
「こんなことで恥ずかしいがってたら告白なんてできないぞー」
ちょっとからかうような口調で言い、悠希の肩をポンポンと叩くあや姉。
「うっせぇーよ!」
「あはは。そろそろ夕飯作るよ。暁斗くんも食べてきな。梓紗ちゃんと悠希の話聞かせてよ」
「え、マジでいいの?」
「うん! 材料多めに買ってきたからさ」
「じゃあ、お言葉に甘えていただきます!」
「飯は食って帰ってもいいけど、余計な話はせんでいいぞ?」
「よし! 暁斗くん、下に行こうか!」
「そだねぇー」
「おい! 話を聞け!」
この後、あや姉達と夕飯を食べている時、あや姉から恋愛の話を振られたら全て悠希に話を遮られた。
そして、一日、また一日と過ぎていき、告白予定日になった。
昼休み、悠希と色々と喋っていた。
「今日の放課後に屋上で告ろうと思う。すでに梓紗にも伝えてあるんだ」
「そっかー。屋上ね。俺も屋上で告られたな。まぁ、王道な告白スポットだよな」
「そうだな。それで、なんて言えばいいんだろ」
「別に自分の想うままに伝えたらいいと思うぞ。告白に台本なんていらないんだから」
「だな。オレなりに最大限の表現で伝えるわ」
「ああ。がんばれ!」
丁度、昼休み終わり十五分前を知らせる予鈴がなる。
「教室に帰るか」
「ああ」
その帰り道、図書室から帰ってきた梓紗と出会った。
「あ、悠希! 放課後屋上に来いってあのルインはなに?」
「行ってからのお楽しみだ」
「えぇー! 気になるじゃん! ヒントだけでもー!」
「だめだ」
梓紗もどうせ、何をするのか気づいてるくせに。
でも、なんか、青春してるって感じがする。
二人の後ろ姿はホントにいい。幼馴染みって感じがするし、この二人が付き合ったらどうなるんだろうと何故ワクワクしてしまう。
当然のことだけど、悠希には悠希の物語があって、梓紗にも梓紗だけの物語がある。そして、それは俺にも。
それぞれの物語は俺の知らないところで進んでいく。
この世で全世界の人の物語を知っている人なんていない。いたとしても神だけだ。
その物語の結末を決めるのは、他でもない今を生きてる自分。
自分の物語をハッピーエンドで終わらせるのか、バットエンドで終わらせるのか。それを決めるのも自分だ。
人の人生に他人が口出しして良いものではない。そして、その人の人生を自分が語るものでもない。
どんな結末になろうとも俺は応援する。ただ、それだけだ。
放課後、悠希が屋上に向かっていく姿が見えた。それを追うように小走りで梓紗が駆けていく。
俺の姿を見ると梓紗は、ありがと、と口パクで伝えてきた。
ほら、やっぱりこれから何が起こるのか気づいてるじゃないか。
よかったな、梓紗――。
俺は心の中でそう呟いた。
きっと二人は幸せな人生を送ることだろう。
そして、これから二人の物語がどう動くのか、それを他人の俺は知る由もない。だけど、一つ言えることがある。
これが、俺たちの『青春ラブコメ』なんだってことが。
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