第11話 私が決める選択は……
「ただいまー」
午後六時半を回った頃、私はうちに帰宅した。
駅で暁斗君と別れてからバスと徒歩で家まで約20分。
「おかえりー」
すると、エプロン姿の千佳が玄関の方まで出迎えに来てくれた。
「千佳、料理中だった?」
「うん。夕飯の準備してた」
「ありがとねー」
今日、暁斗君とのデートで、帰りが遅くなってしまうと思ったから、夕飯の準備は千佳に任せておいた。
基本的に料理をしない千佳だけど、しないだけであってできないわけではない。ちゃんと食べられる料理は作れる。
「夕飯の献立なににしたの?」
「えっとねー。たまご料理」
「たまご料理?」
「そう。冷蔵庫見てたら卵の消費期限が今日までだったから、これはマズイと思ってさ」
「え、マジで……。卵、今日までだったか。気づかなかった」
私は手を洗い、荷物を自分の部屋へと持って上がり、また下へ降りて、千佳を手伝う。
「うーんと? たまごスープとオムライスね」
「結構卵が余ってたからスープも作ってみたの。味の保証はないよ?」
「最後の言葉さえなければすごいと思ったのになぁ……。まぁ、いいや。味見していい?」
「いいよ」
私は戸棚からスプーンを取り出し、それてたまごスープをすくって一口味見する。
「ん〜、おいしっ。千佳腕上げた?」
「ホントに!? 嬉しいー!」
今までの千佳が作った料理の味付けとは違った。より一層私の味付けに似てきている。
やっぱり毎日私の料理を食べているとわかるものなのだろうか。
「でも、まだ奈々海程ではないけどね」
「ここまでできたら十分だと思うよー。お嫁にいけるレベルにはね」
「やった! 将来の家庭の心配はないねー」
「まぁ、他の家事もこなせないとだめだけどね」
「あ……そうだね」
将来、千佳はどんなお嫁さんになるんだろ? 良い結婚相手見つけてくれたらいいな。
ふふ。もしかしたら、私から暁斗君を奪って結婚するかもしれないね。まー、それはないか。
「ただいま」
ガチャと玄関の開く音とお父さんの声が。
「「おかえりー」」
「二人共おそろいで。お母さんはまだ帰ってないのかい?」
「うん。まだ」
「わかった」
お父さんが二階へ上がっていたとき、またガチャと音がして「ただいま」という声が聞えた。今度はお母さんだ。
「「おかえり」」
「ただいま。あら、千佳がエプロンつけてるなんて珍しいわね」
「今日、私はお出かけしてたから千佳に夕飯の準備頼んでおいたの」
「へぇー、そうだったの」
お母さんはスーツのジャケットを椅子にかけながら言う。
ちょうど、お父さんも降りてきた。
「お母さん、おかえり」
「ただいま」
二人が帰ってきたことで、神崎家が全員集合した。
千佳はキッチンに行き、夕飯の最終準備をしている。
それを私も手伝う。
私の親は共働きで、二人共同じ大手音楽企業に勤めている。
二人の所属する部署は同じで、出会いは会社の新人起案会議だったらしい。立場的に、お父さんが先輩でお母さんは後輩らしく、起案会議の準備に困っていたところを助けてくれたのがお父さん。
お母さんはそんなお父さんのことを快く思って良く頼っていたそう。気づけばよくご飯に行くようになってたり、よく話すようになっていたそう。
それで、お母さんはこの人とずっと一緒にいたいと思って告白し、結婚まで来たのだ。
今でも二人は仲がよく、喧嘩も少ない。
「今日は卵がメイン?」
「そう。消費期限が今日まででねー」
お母さんの質問に千佳が答える。
「さっき、味見したんだけどさ、千佳ったら料理の上がってるんだよ」
「まぁ〜。いいことじゃないのー」
「たまにこうやって変わったことすると自分の成長が見られていいじゃないか」
ありがとう、と言って千佳からオムライスとたまごスープを受け取る。
何気に千佳はちょっとしたサラダまで用意していた。
食卓の彩りはバッチリだ。さすがに黄色一色だとあまりにも偏りすぎてしまう。そこら辺にも配慮できるようになったのはすごい成長を感じる。
「それじゃあ」
「「「「いただきます」」」」
全員分の夕食が食卓に並んだことで、私達はいただきますをして食べ始める。
オムライスもたまごスープもおいしい。何度も言うけど、ホントに腕を上げたものだよ。
「うまっ。千佳、すごいうまいぞ」
「ええ。ホントに……。前の千佳が作った料理とは大違い」
「えへへ。そんなに褒められると照れるよ」
照れくさそうに、ポリポリと右頬をかく千佳。
千佳の成長ぶりに関してはお父さんもお母さんも驚いているようだ。
「なんか、奈々海の味付けに似てきたな」
「人をまねてうまくなるのも一種の上達方法かしらね」
「私、千佳に味付けの仕方教えてないのにねー。とうとう料理まで双子になる時が近づいてきたね」
奈々海の味付けに寄せたつもりはまったくないんだけどな、と不思議そうに言う。
お父さんとお母さんも味付けの変化には気づいたみたいだ。
私の味付けと千佳の味付けで違う点で言えば、私の味付けよりちょっと薄味をしてるところかな。
私は味付けをする時に濃ゆさを結構意識している。飽きるない味、しつこくないあっさりめの味など、様々なことに気を使って味付けをしている。まぁ、結局は自分の舌で決めるんだけども……。
「いつか、奈々海と料理対決でもしたいねぇー」
「ふふ。それはまだまだ早いと思うなぁー?」
「その時はお父さんも呼んどくれよ?」
お父さんがサラダをパクパクと食べながら言う。その姿はヤギみたいだった。
「試食係かな?」
「そうそう。審査してあげるぞー」
「うわっ、厳しそうだね……」
「お父さん、料理にはうるさいからなぁー」
「ねぇー、自分は料理できないくせにね」
「グルメだって言ってほしいな」
私達の作った料理にあれこれ言ってくるぐらいに味には厳しい。自分ではグルメだって言っているが、認めていいものなのか……。
***
朝、アラームがなり、起きると外からザァーと雨の音が。窓の外を見てみると、結構雨がが降っていた。
今日の予報は怪しかったから覚悟はしていたけど……雨かぁ……。今日は洗濯物を外に干せない。乾燥機回すしかないね。
そんな、低気圧でダルい身体を無理矢理起こして、一階に降りる。
いつも通り、起きるのは私が一番早い。いつからこれがルーティン化したんだろな。毎朝、早起きして、朝ごはんを作る。確か、高校に進級してからだったな。
高校には給食がない。だから自分で昼ご飯を用意しなければならない。
購買や学食でもよかったんだけど、そうすると出費が激しい。なら一番簡単な解決法。“お弁当を作ろう”そう考えて毎日お弁当を作るようになったのが始まりだ。
早起きしてお弁当を作るならついでに朝食も用意しておこうなんてことも考えた。けど、当時の私は料理が得意じゃなかった。
いつも料理はお母さんに任せっきりだった。
そんなお母さんはとっても料理が上手い。だけど、習っていたとかではなく、独学だそうだ。それがまたびっくりするところ。
私は、高校に入学するまでの春休みにお母さんから料理を教えてもらった。一から十まで手取り足取り教えてくれた。そのおかげで今の私がある。
私がお母さんに教えてもらってるのを横から見ていたのが千佳。初めは全く料理に興味がなかった千佳だけど、毎日私が料理を教えてもらってる姿を見ているとちょっと興味が湧いたみたいで、よく向かいから見ているようになった。
「今ではあんなに成長して」
ぽろっとそんな言葉がこぼれる。
双子で歳が一緒でも、私にとったら千佳はかわいい妹。
私があの子を守るんだー、なんて言葉を言ったことがあっただろうか。覚えていない。けど、守ってあげたい。姉として。あの笑顔を。
雨の音がいい環境音になって料理が捗る。
うちの朝食は基本的に和食。たまに例外もあるけど。和食の場合、味噌汁は外せない。毎日味噌汁は作っている。
味噌汁は、私の得意料理の一つだ。
その味噌汁のレシピは私だけしか知らない秘密のレシピ。
自分でオリジナルな味付けをするようになってから自分のレシピを家族にすら提供したことはない。
そのため、お母さんはお母さんの味、私は私の味、千佳は千佳の味と、それぞれの作る人で違ってくるのだ。
午前六時半。千佳が眠そうな顔をしていた降りてきた。
「ふぁ〜……おはよう奈々海」
「おはよー、千佳」
部屋から持ってきた制服を持って洗面所に行く。
次に出てきた時の姿は制服。千佳はザ・JKって感じで制服がすごい似合う。
うちの学校のスカートはオシャレなデザイン。そこまで明るくない紺色の生地に白いラインが入っている。
そもそも、制服は誰にでも似合うようにデザインされてるだろう。
「おはよう。二人共」
「「おはよう」」
千佳より少し遅れてお父さんとお母さんが降りてくる。
うちの家族は大体七時までには全員食卓に揃うのだ。
「いつもしっかりした朝食を作ってくれるから助かるわ」
「今まで雑な朝食で済ましてたもんな。この朝食のおかげで一日がんばれる」
「もー、お父さん大袈裟だよ」
そんなことを言われるとちょっと照れくさい。
でも、喜んでもらえてるようで何よりだ。そんなふうに言ってもらえると、作ってる側も嬉しい。
明日はちょっと洋にしてみようかな。いつも和だけど。たまにはいいでしょう。
「あ、千佳。またリボン曲がってる……」
「あら、ほんと」
「曲がってるな」
「え、うそ! ホントに?」
「ちゃんと鏡見てやってるの?」
私も席に着いて、朝食を食べる。
チラッと横を見ると千佳のリボンが曲がっていた。
千佳はホントにリボンを付けるのが下手くそ。リボンが真っ直ぐ付いてる確率は一週間に一日〜二日ぐらいだろうか。
曲がっていたらその都度私が修正してあげてる。
「ほんと、千佳はリボンつけるの下手だね」
「う、うるさいなぁ……。いつか付けれるようになるから!」
「それ、前も聞いたよ?」
「うっ……」
返す言葉もないようだね。
いつかできる。いつかやる。って、なんでも先延ばしにしてたら結局できないままだよ。きっと。
できないことは早めに解決しておかないと。
「ちゃんと付けれるようになっといてよ?」
「わかった……練習しとくよ」
「うん」
これから、リボン曲がってるよ、と注意することがないといいけど。
「千佳ー、そろそろ行こうか」
「あ、うん! あと一分だけ待ってー」
「はーい」
一分後。
「お待たせ」
「ん。じゃあ、行こうか」
朝は姉妹揃って仲良く登校。
学校まで片道三十分ぐらいかかかるから時間をしっかり逆算しなくてはならない。
「お? あの後ろ姿は……」
見に覚えのある後ろ姿を見つけた千佳がその人ところへ駆け寄って行く。
「おっはよーございまーす!」
「おふっ……」
駆け寄って行くと突っ込んで行くとでは表現が違ったか。
正しくは“突っ込んで行った”だったね。
「ち、千佳……。朝っぱらからなんだよ……」
「挨拶です!」
「新手すぎるだろ……」
丁度、脇腹ら辺に千佳の攻撃が当たってしまったらしく。痛そうに腹を抱えていた。
「おはよー。暁斗君。君とここで会うのは珍しいね」
「なんだ、奈々海もいたのか」
「うん」
「瀬尾君、遅刻ですかぁー?」
「んなわけあるか。俺が遅刻だったら二人共遅刻だわ!」
千佳のボケにもしっかりとした対応を見せる。さすが暁斗君。私ならスルーするかな。
あ、今のはダジャレじゃないよ?
「暁斗君の場合、ちょっと早いんじゃない?」
「その通りだ。今日は準備が早く終わってな。早めに出てきた」
たまたまだったらしい。
「そうだ! 瀬尾君も毎日わたし達と一緒に登校しません? ここで待っときますからー」
「え、別にいいけど?」
一応、私の彼氏なんだけど?とツッコもうかなと思ったけど、千佳の発言自体がナイス発言だったから何も言わなかった。
「じゃー、決まりだね」
「今日はそのまま一緒に行きましょうよ!」
「折角会ったしな」
彼と出会って約半年程。初めて一緒に登校することができた。
何気にまだ暁斗君の家を知らない。中学の校区は違ったってことぐらいしか知らない。
今度、暁斗君んちに行ってみたいなー。そうだ! 夏休みに聞いてみよーと。
学校に到着し、一時間目の授業。
今日の一時間目は道徳だった。内容は、人生の選択の話。
人生にはいろんな選択がある。その選んだ選択が全て正しい訳では無い。誤った選択をするかもしれない。
そんな時、君たちならどうするの? 自分で選んだ選択を見て見ぬふりして逃げるのか。ちゃんと受け入れて対応、対処するのか。そこの選択だけでまた、人生が一つ変わる。
どれだけ小さな選択でも、人生は変わってしまう。捨てて良い選択なんてものない。と、そんな話だった。
私は、確かに、と思った。無意識のうちに私達は様々な選択をしている。
私のした人生を大きく変える選択と言えば……そう、告白。この告るという選択をしなかったら私は今後、後悔していたかもしれない。
でも、今はとても幸せ。好きな人と一緒に過ごせる。それだけで。
でも、それは長く続くのだろうか。この幸せを続けさせるにはどんな選択をすればいいのか。
さすがに未来のことは分からない。けれども、間違えないことはできる。
慎重に、慎重に。これからの物事は進めていきたい。
これは私だけの――神崎奈々海だけの物語なんだから。
だからこれも、私が、私自身が自分で選ぶ、一つの選択なのだ。
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