2-5  『劣等上等』

 ジン。

 そう名付けられた少年に思い出せる一番古い記憶は、土砂降りの雨の中でたった一人路地裏に寝転がっている物だった。


 その日は途轍もない降水量だったらしく、後から聞いた話ではその雨量に学園都市では一部交通麻痺が発生したのだとかなんとか。その影響はスラムにも出て常に何かしらの騒ぎがあったスラムは、その日だけはほとんどの音が雨音に掻き消されていた。


 至る所から流れてくる雨水が排水溝に流れ込む。近くではあまりの雨量にマンホールが内側から溢れそうになる水を抑えてバシャバシャと音を立てていた。


 そんな中、振り続ける雨を全身に受けて力なく寝転がる。視界の先には同じようにして排水溝の近くで横たわるネズミの死体があった。それこそまるで今の自分を真似しているかのように。……いや、もしかしたら自分がネズミの死体の真似をしているのかもしれない。


 雨が降りいつでも喉は潤せた。それでもその時だけは何かが乾いて仕方なかった。水だけでは潤せない何かが。

 当時は何を思っていたのか分からない。だから何故あの時に立ちあがったのかも、理由は何も分からなかった。



 ――――――――――


 ―――――


 ―――



 人の形をした人ならざる生き物……。その噂が広がるのは存外早かった。

 スラムにはいくつかの集落があり、それらは独自の情報網を持って一部の集落と連携を組んでいる。浮浪児として蔑まれながら盗み奪い、傷ついて血を流しながら生活している内にその体質や移動してきた方角から出自は集落の中で特定されつつあったのだそう。


 そしてジンがそれを知ったのは集落総出で襲い掛かって来たのを返り討ちにした時だった。


「くそっ……! 異形種の化け物め……!」


「イギョウシュ? なんだそれ」


 初めて聞いた言葉だったというのもあって同じ言葉で聞き返すと積み重ねられた人山の上で未だ意識を保っていた男が叫ぶように言う。


「お前みたいな化け物の事だ……! お前らみたいな異形種は邪魔なんだ! 存在するべきじゃねぇんだ!!」


「ふ~ん……」


 化け物。

 化け物、か。


 今まで考えもしなかった。確かにスラムに住んでいる人間の大半がジンみたいに体の一部を変形させたり出来る訳ではない。だが、他人と違うだけでそれが当たり前だったジンからしてみれば、自分は化け物なのだと認識する事なんてついぞなかった。


 硬質化したゴツゴツの掌を見る。

 そうか。他人からはそう見えていたのか。通りで腕を変形させるたびに対面した人達が酷く怯えていた訳だ。


「この集落から出ていけ! 化け物!! ここはお前みたいなのがいていい場所じゃねぇんだ!!」


「そうは言うけどさぁ、お前らが勝手に襲って来たから俺は反撃しただけだぜ」


「――黙れ!! 化け物!!」


 正当な言葉で返したつもりだったが……男は唾を吐き散らしながらそう叫び返した。どうやら人間から見れば化け物には発言の権利すらも与えられないらしい。




 それから孤独でいる時間が長く続いた。

 食料にありつけるのはごくまれでゴミ捨て場にあった弁当の残飯を食らい、冬の夜は冷たい路上の傍で蹲りながら凍えそうな寒さに耐え、夏はどこを探しても見つからない水に乾いた喉を鳴らしながら彷徨い、殺す気で襲い掛かって来る集落の人々や異形種、そして怪異を追い返す。


 そんな風にして三年半も生きていれば疲れ果てて何もできなくなるのは当然の事だった。


 殺しに来た複数人の人間が大量の血を流して路地裏に倒れている。そんな中、ついに飢えと渇きで動かなくなった体を横たわらせて意識を朦朧とさせる。

 力が入らない。生きる活力を全て消費し切ってしまったかのようだ。


「……腹、減ったな……」


 このまま死んでしまうのだろうか。今さっき殺した目の前の人達のように誰にも知られる事なく路地裏で。


 死……。死ぬ。

 何故この世界に生まれて来たのだろうか。どうして今まで生きて来た? 生きる意味だなんてロクに見いだせなかった。誰が何故生んだ? 結局どうすればよかった? どうやってこの世界で生きればよかった?

 分からない。何も分からない。


 生きたい理由もないのにただ生きる事に執着して、他人の命を奪ってでも保ち続けた無意味な時間を続かせようとして、そこに何の意味がある? 一体どんな意味が?

 ……分からない。

 意味は、ない?

 意味がないなら何もする意味はない。

 なら、ここで――――。


 …………。

 …………。


「死にたくねぇ……っ」


 人として生きて来た。人の形をしていたから。けれど人の形をした、内側にある何かが本当に化け物なのだとしたら……そしたら本当は何も感じないのではないか? 例えそれが人の肉を食らう事になったとしても。


 後戻りが出来ない気がして今まで手を付けていなかった。でも死にたくない。死にたくないのなら今ここで人肉を食らってでも――――。


 優しい手つきで地面に置かれたのは不格好な形のおにぎりだった。


「腹減ってんだろ? 食いな」


「――――」


 誰かの声が響く。けれどそれよりも今は目の前に置かれたおにぎりという今まで生きてきた中で最も豪華な食べ物に手を伸ばして口の中に頬張った。

 腐った食べ物でなければ誰かが吐いた跡のついた物でも、弁当の端っこに残った食べる価値のない葉っぱや固まった穀物でもない。


 柔らかくて、僅かに甘くて、嚙む度にモチモチの触感が伝わって来て、とても暖かい“ご飯”だった。


「んぐっ! げほっ、コホッ!!」


「慌てんな。ほれ、水も飲め」


「んっ――――ごくっ、ごくんっ!」


 喉に詰まったご飯を流す為に渡された水筒の中身を口いっぱいに掻き込む。これも濁った水じゃないし小水でもなければ毒が混じった水でもない。ごくごく普通の、それもスラムでは手に入らないくらい上質な水だった。


 おにぎりと水。

 あまりにも普通過ぎて普通の人間ならば渡されても文句を言うだろう。けれどあまりの飢餓状態と今までゲテモノを口に入れ続けたジンにとっては天に昇るほどの豪華な食事だった。


 全ての米と水を飲み込んでようやく目の前に立っていた人間を見上げる。そうして視界の中に入ったのはボサボサになった灰色の髪を伸ばし、赤いメガネにタバコを咥え、汚れのついたコートを羽織った大人の女性だった。


「ちゃんと全部食えたな」


「あ、えと……」


 助けられた事なんて一度もなかったからなんて言えばいいのか分からなかった。だから言葉を探し続けるが……彼女の口にした言葉が一瞬にして意識をスラムで生き抜いた化け物へと変貌させる。


「君が最近ここいらで噂になってる異形種の子供だな?」


「ッ――――!!」


 殺される。

 そう思って臨戦態勢を取ると腕を伸び縮みする刃へと変形させて振りかぶる。今までそう言って近づいてきた大人は全員そうだったのだ。どうせこの女だって殺しに来たに決まっている。そう思って刃を振るった。

 だが……。


「い゛っ……!!」


「――――っ!?」


 防ぐ事をしなければ避ける事もしない。ただ振られた刃を食らって腕と足から血を吹き出すのをグッと堪えた。


 いや、余計な事は考えるな。体格は圧倒的にこっちの方が勝っている。細身の彼女なんて巨大化した腕で殴れば一撃で意識を奪える。一瞬でそんな思考を固めて通常より何十倍も大きくさせた拳を振りかぶる。さすがにここまですれば彼女だって反撃するに決まっている。


 そう、普通ならそうするべきだ。だって今彼女は死ぬかもしれない攻撃を浴びようとしている。誰しも死にたくないのだから死にそうな攻撃ならどうにかしようと足掻くのが当然だ。

 それなのに彼女は両手を広げるとまるでその攻撃を受け入れるかのようにそこで立ち尽くす。


「っ――――」


 拳はあと数cmで彼女に直撃するかしないかの距離で勝手に停止する。勝手に。

 振るった右腕を抑えるかのように左腕がしっかりと掴んで余波も届かないようにしていた。頭ではそんなつもりなんて微塵もなかったのに、だ。


「まぁ落ち着けよ。少年」


「…………」


「君の言わんとする事は分かるさ。君にまつわる話は全て血みどろに満ちた物だったからな。いきなり現れた私を不審に思うのも無理はない。だが――――仮にもたった今君を飢餓から救った相手だ。話くらい聞いたって損はないんじゃないかな?」


「…………」


 情を利用したやり方なんて何度も経験してきた。食べ物を渡してくれたかと思いきや毒が盛られていたり、襲われていた所を助けられたかと思いきや不意を突いてきたり……。既に慣れた手法だ。今更引っかかる訳がない。


 ……だが目の前にいる女は違う。自分の中の何かがそう囁いていた。

 それが何の情なのかはわからない。それでも今までの中の何かが違う気がした。


「……なんだよ、話って」


「その気があって助かったよ」


 巨大化させた拳を元通りにして伸ばした刃も引っこめると、彼女は対話の意思があると察して指を鳴らしながらも血を流す体を振った。


「簡潔に行こう。私は君に取引を持ち掛けたい」


「取引? そんなの信じられるかよ」


「まぁ待てって。結論を急ぐのはまだ早い」


 今までにも取引だの約束だのと言って騙してきた輩が何十人もいた。そいつらはいずれもこの手で殺すか追い返した。

 そもそもこのスラムでは取引だなんだと言ったってそれを確約してくれるものなど一切ない。法律が存在しないも同然なのだからそれを守る意味だってない。それがスラムという場所だ。

 三年半でそれを理解した今、彼女の取引に応じるつもりなんて一切ない。だって彼女もまだ騙そうとしているかもしれないのだから。


「私はとある研究をしてるんだ。んでもってその成果を利用して医者の真似事もやってるんだが……どうも嫌われちまってな。安くて強い用心棒を探してる」


「はぁ?」


「君に持ち掛けたい取引はただ一つ。私を暗部の奴らから守ってほしい。応じてくれるなら衣食住は当然、君の要望に出来る限り答えよう」


「そんなの誰が信用するか――――」


 だが、彼女の行動がその思考を一切合切ねじ伏せた。


「――言葉で信用できないのなら、行動で信用してほしい」


「…………!!」


 彼女が懐から取り出したのは手のひらサイズに収まる丸い機械だった。けれどそれは起動した瞬間に薄青い四角形の光を浮かび上がらせた。それらが飲み込んだと思いきや彼女の体から流れ出ていた血がピタリと止まる。それどころか傷は完全に塞がっていた。


 今までに見た事もない現象だった。治癒魔術で傷口を塞ぐ事もできるがそれなんかよりもずっと早い。知らない未知の――――別種の力だった。


「私のしている研究はしん……いや、無限のエネルギーを用いてどんな傷や病気でも治せる機械を作ること」


「無限の……エネルギー……?」


「難しい話だから省いただけ。要するに人を助ける機械を作りたいんだ。だけどそれをよく思わない奴らは結構いる。だから、私の研究を止めようと襲ってくる奴らを返り討ちにしてほしい」


「…………!」


 今まで騙してきた輩は全員もれなく食糧だの寝床だのといつでも準備できる物を引き合いに出していた。けれどこの女だけは違う。その場しのぎの裏切るための取引ではない。どうなるかもわからない未来を見据え、その為に全力で努力をする為の取引だった。


 目覚めてから三年半。多くの人を殺してきたが、彼女のように真っ直ぐと射る様な強い瞳を持つ人は初めてだ。これが拾ったボロボロの童話に描かれていた「覚悟を秘めた瞳」なのだろうか……?


「……人を助けて何になんだよ。人は裏切る。仮にその時は信用してくれても、いつかはその事も忘れてきっと裏切る。……そんな奴らを助けて何になんだ」


 多くの裏切りを経験してきた。いや、比率で言うのなら裏切り自体は少ないか。ただ初っ端から敵意を持って攻撃されることが多かっただけ。だがそれを考慮しなくたって人間の本質はいつだって同じだ。それは何度も目にしている。


 目の前の女だってそうだ。取引と言ったっていつかは裏切るに決まっている。研究が成功したり完成したりした瞬間から用済みだからと襲ってくる。

 知っている。

 何度も思い知らされたのだから。


「俺は化け物だからよく知ってる。人の本質を。本性を。お前だっていつかは俺を裏切るんだろ。それなのに相手を信用して……なんの意味がある」


「……それが人と人を繋ぐ最初の懸け橋になるからだ」


「それは人の話だろ。化け物は別だ。――俺は化け物だ」


 だめだ。信用するな。そうしてしまうときっとまた後悔する。

 頭の中で合理的な判断を求めるたびにこれまでの経験がそう説教を垂れ流す。


 生きるので精一杯の日々だ。そこに誰かが入り込む余地はないし、入り込ませるつもりもない。だって目の前の女は人間で、人間は信用できない。化け物はただ化け物らしく独りで生き続けたほうがずっと楽で――――。


「お前が人として劣っているのなら、これから見つければいい」


 ぽんっ。

 膝をついて目線の高さを合わせた彼女は頭を撫でた。


「……は。なに、言ってんだ。俺は化け物で、お前みたいに人間じゃ……。独りでいるのが当たり前の、怪物で……」


「じゃあ何で君は人の形をしてる」


「っ――――」


「想いは形を成す。君がその形であるのなら、それは君がそう願ってるからじゃないのか。仮にそうでなかったとしても、君の親がその形を願って――――人である事を望んで生んだ以上、君は人の形からは逃げられない」


 まっすぐな瞳だった。

 雲一つない。決して快晴とは呼べないけれど、それでも太陽の様に強い光を宿した灰色の瞳だった。

 それこそ、留まっていた日陰を全て照らし尽くす“日輪”の様に。


「だって君はこんなにも私達と同じ形をしてる。体が変形出来るからなんだ。それはただ人が勝手にそう呼んでるだけだ」


「でも、俺は……」


「それならどうして君は自分の形を呼び続ける? 化け物だと認識したいというのなら、それは本当は人として認識している証明になるんじゃないのか」


「…………!」


 心臓の鼓動が高まった気がする。今までに経験したことのない感覚に思わず胸の前で拳を握った。

 この感覚が何かわからない。まるで自分の腹の底から胸を伝って何かが沸き上がっているかのようだ。言葉に出来ない熱い何かが体中を駆け巡って熱を灯している。


 ……あぁ。

 自分にも体温はあったんだ。


 優しく頭に触れた手がそれを教えてくれた。


「いいか、少年。君が人として劣っているのなら君を人にする物を見つければいい。見つけられないのなら探せばいい。……偶然、探求するのは研究者の性でね――――君の形は必ず見つかる。私がそう約束する」


 彼女の伸ばした小指が自分の小指に絡んだ。


「だからこれは、君にとって……人として初めての約束だ」


 その日輪は瞳の中に強く瞬いた。

 その日からずっと燃え続けてしまうほどに。


「少年、君は――――」



 ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ 



 歯を食いしばる。全身に力を入れて仰け反り倒れそうになる体をこれでもかと前へ押し出し、今もなお打ち付けられ続ける熱線の雨を食らいながら一歩を踏み込んだ。



 ――負けねェ!!!



 熱線は受ける度に体を貫くような灼熱を内側に振動させて激痛を発生させる。それが四肢だけでなく胴体や頭蓋にも響く。当然耐えられる痛みではない。頭は依然真っ白で前も見えない。

 それでも一歩を踏み出す。

 それが出来ればもう一歩。

 そして、またもう一歩。


 ――ここで引く訳にはいかねェ!! 何が何でも押し通す!!!


 腕を目の前で交差させなけなしの防御を取る。そんなの無意味だと知っている。だが、知っているからなんだ。


「オラオラァ! もっと楽しませてくれよォ!!」


 魔術でも科学でもない未知の……別種の力だ。防ぐ手段などない。防ぐ手段がないのなら防がなくていい。だってそれが無意味ならどれだけやっても無意味なのだから。その代わり――――。


「俺のツラァぶん殴るんだろ? 変わったんだろォ!? やってみろや!」


 防御に回していた分の全ての集中力を攻撃に全振りしろ――――!


「三、した……」


 振り抜いた拳はウィルの頬にめり込んで衝撃波と共に態勢を崩した。

 全身が麻痺したかのように体を動かしずらい。体を動かすたびに体の奥で軋むような音が鳴り響いているような気がしてならない。


 ――体の痛みで本来の力は出せねェ……! 一撃じゃあコイツの攻撃を裁き切れねェ……! それなら、この拳が届くまで――――!!


 白色の熱線を撃ち抜いて拳を振るう。何回でも。何十回でも。何百回でも。

 向かってくる熱線の密度が濃すぎて振るった拳がウィルに命中する事は少ない。それでも攻撃が当たるのならそれを上回るだけだ。


「おい、何だよその眼は……。い、痛みを、感じねぇのか……!? なんで、そこまで……!!?」


 痛いよ。当然だ。熱線で焼かれているのだから。

 白目でも向いているのか目の前の光景は一切わからない。だが聞こえてくる声でわかる。今目の前にいる男は白目を向き、全身を熱線で焼かれながら、尚も攻撃だけを続けている光景を見て恐怖している事を。


「俺は――――」


 衝撃波が駆け巡って周囲の地面が破壊されているのが音で分かる。今、この光景を見ているギャラリーからしてみれば異様な光景でしかないだろう。だって白目を向き意識を朦朧とさせても尚、攻撃を続けているのだから。

 それでもいい。気色悪がられたっていい。

 貶されたって構わない。



 ただ、あの二人の――――。





「――アイツらの役に立ちてェ!!!」





 拳が相手の顔面にめり込む。だが、腹部に熱が走ると今までとは比べ物にならない威力で体が吹き飛ばされた。


「ぁ  ―― 」


 体に何度目かの振動が走る。背中に大きな衝撃を受けて停止すると攻撃をやめた意識は次第と戻り始め、視界に広がる景色が鮮明に映し出された。


 抉られた壁に寄りかかって地面を向いている。垂れた自分の拳は皮膚が剥がれて血が噴き出していて、全身には何度も削られた様な跡がある。あまりの熱に焼かれていると感じていたが、実際は抉られる痛みで焼かれたと錯覚していたらしい。

 そして鼻や顎から伝うのは紅い鮮血だ。


「……認めてやるよ」


 声が聞こえて前を見る。そこには顔中に殴られた跡があり、額、鼻、口から血を流すウィルの光景があった。


「本当に別モンだった。これまでに食らった拳とは違ェ、覚悟があった。……今までの軽蔑を撤回する」


 ウィルは地面に置いた木の杖を拾いなおすと天高く掲げて大きな光の玉を作った。


「だから、俺も俺の全霊を持ってぶっ殺してやる」


「……は」


 あれが当たれば流石に瀕死は免れない。そんな事になったら模擬戦で瀕死になるほどの攻撃を出したとウィルは処罰を受けるだろう。そうなる事を分かった上でやっているのだ。

 見下ろす相手ではない。倒すべき相手と認識したから。


「じゃあな、ジン」


 杖を振り下ろすと光の玉は発射されて唸る様な重低音を響かせた。

 避ける力はない。防ぐ力も同じく。

 参った。ただじっと近づいてくる光の玉を見ることしか出来ない。これこそまさにガス欠というヤツか。


 だが、そんな心配は杞憂となった。

 いや、杞憂にさせられたとでも言うべきか。


 碧色の光を纏いながらリアがグーパンで光の玉を殴り飛ばしたのだから。

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