1-29  『Let's hold hands!!』

 カクヨムには前書き機能がないのでここに書かせていただきます。

 今回はまぁ、その……うん、ちょっとやりすぎたかもしれないグロ描写がちらほらあります。でも説明するには必要な描写だし……ってことでちょっと刺激が強めかもしれないです。




 〇●〇●〇●〇●〇●〇●





「お父さん、どうして僕はみんなと違うの? 僕は、何がいけなかったの?」


 ……あぁ、懐かしい記憶だ。かつて経験した面影を見ている。

 アルフォードが転生の際に付けられた呪いの因果を断ち切ったせいで本来の封じられていた記憶が流れ込んでいるのだろう。


 晴天も星空も見れない、曇天に覆われて灰が降り積もるだけの“侵された町”……。シャーディスという名を持って生まれた子供が沢山泣きわめいて絶望して塞ぎ込んだ場所だ。


 どうしてこの町は侵されたのか。何に侵されたのか。何故太陽が見えないのか。何故、光は差さないのか。

 何度も疑問に思ったその町から抜け出すことは出来なかったっけ。外に出れば異形の化け物に食い殺されてしまうから。だが、町の中に住んでいても既に侵された町の中では安全なところなんてどこにもない。時折出現する化け物に遭遇した人が食われた時に飛び散った血が床や壁に付き、大人は生きるために殺し、奪う。


 十年生きられれば幸運だと呼べるほどに住む人々は流行り病や狂気に侵されていた。だから子供なんていない。全員殺されたから。


 防衛力のない家庭はすぐに奪われ壊され殺された。父親は惨殺。子供や赤子は最悪食べ物。老人は勝手に死ぬし何もできないので放置。母親や娘は一部の男により強姦され悲鳴が三日三晩響き続け、最後は精液と血液の匂いを残して無気力な体を横たわらせ餓死した。


 生きるという環境下においてここまで過酷な場所もそうない。集落の大人たちは毎回そう語りながら血で錆びたナイフを磨いた。


 そんな町の中に“希望こども”がいた。


「シャーディス、この倒壊した家の中に薬品があるんだ。手伝ってくれるか?」


 そんな町の中に“勇者こども”がいた。


「近くに流浪者の集団が出来たんだ。ここを守るために根絶やしにしておきたい。頼めるか?」


 そんな町の中に“英雄こども”がいた。


「この町が守られてんのはお前のおかげだ! これからも頼りにしてるぜ、シャーディス!」


 そんな町の中に“????”がいた。


「    」


「    」


「    」


 そう、“悪魔こども”がいた。


「――殺せ!! 悪魔を殺せ!!」


「? ……??」


「この裏切り者!! 悪魔!!!」


「いたい、え? ?? ……??」


 槍を突き刺されてもこの体は平気だった。ただ血が流れて痛いだけ。だから死という概念が身近に近づいているんだという実感は微塵も沸かなかった。

 誰も彼もから愛されている実感も。

 誰か彼もから信頼されている実感も。

 心がという欠陥も。


 手足や頭の中にぐじゅじゅっと刃が切り込まれる度に脳内で知らない記憶が想起された。……いや、想起されて思い返してから知った。知らない記憶があったのはそれを認識したままだときっとダメなんだとわかっていたから。


「おい、あの子供瓦礫に潰されたぞ」


「血ィ流してやがる。生きてんのか?」


「平気だろ。死なねーし。 ――家を吹き飛ばすまで放置すんぞ。飯も与えんな」


 三又の槍が脳をかき回した。

 ぐちゅっ。ぐちゃっ。ぐるぐるっ。


 記憶が蘇る。


「ははっ、流石だシャーディス! お前は最高の殺し道具だ! 自分の手を汚さずにこんなに掃除できるなんて凄いぞ!!」


 何かが肛門から体の中に入ってきた。握り拳くらいの大きさの何かがお腹の中をボコボコッと変形させながら内部を駆け巡っている。そのあとに続いて小さい何かが立て続けに肛門や口腔から侵入してくる。

 腸から胃にかけてそれらは二本の牙でつまんでは引き千切る。それが百を超える単位で体の内側から食らい始めた。


 米粒ほどの小さい何かは耳を犯すとぐちょぐちょと耳の穴の中を通って来る。やがて頭の奥まで辿り着くとちぅちぅ、と何かを吸われている気がしだした。


 記憶が、蘇る。


「アイツの戦いのせいで俺の家が壊れたんだ! 妹が瓦礫に押し潰されて死んだ! ふざけるなよ!」


「僕の家はあの人の使う力で輪切りみたいになったんだ! 僕はお母さんの言う通り大人しくしてたのに、急にお母さんが真っ二つになって……オエッ、ゲボッ」


「あの醜い悪魔の血が井戸の中に流れたのよ!? もう我慢の限界だわ! あんな悪魔なんて私達で……!!」


 そうか。

 そうだったんだ。


 誰も自分の事を愛してはいなかったのだ。信じても、好んでも、見てもくれていなかった。ただ利用されていただけ。……これを思い出したらきっとみんなを殺す。母がそれはダメな事だと教えていたから記憶を抑え込んでいたのだ。


「いたい……」


 あぁ、全部思い出した。

 今自分が無数の蟲に蝕まれている理由も。みんなから殺されそうになった理由も。


「いたいよぉ……」


 伸ばした手の先にあったのは曇天の空だった。それと、伸ばした手に噛みつき皮膚の中へ入ってくる蟲の群れ。


 齧り切られて落ちてきた人差し指が開かれた頭蓋の中の脳にぐちゃっと刺さって意識がはっきりとする。

 何故自分がこんな目に合わなければならない? 何故自分は恨まれなければならない? 何故自分は生まれてきた? 何故? 何故?? 何故。何故何故何故何故何故何故何故何故何故何何何何故故故何故故何故。




 ぱかっ。




「みんなと違う事がいけない訳ないじゃないか、シャーディス」


 あたたかい、まふらーをまいてくれたおとこのひと。

 いた。


「いいか、シャーディス。確かにお前はみんなと違う。だが、それはあくまで力だ。お前自体が違う訳じゃない」


 おんなのひと、いつもないてた。

 おとこのひとはいつもなでてくれた。


「これだけは忘れないでくれシャーディス。お前には特別な力があっても、特別な人じゃない。お前は、お前の生きる道は特別じゃなくていいんだ」


 おとこのひとのて、あたたかかった。おとなのひと、ちがった。


「……ごめんな、シャーディス。俺はお前を……平和な世界で産んであげたかった」


 おとこのひとのて、やさしかった。


「シャーディス、お前は優しい子だ。お父さんとお母さんの、自慢の子だ。心から誇れる子だ。だから……」


 あー。 あ   ー  ぁーーー。

 い     あ。 ぉ。   。 ぅ  え あ。


「いつかきっと、お前を求めてくれる人達が現れる。お前がその人達に力を貸したいと思えた時に、その力を助けるために使うんだ」


「それって、いつ?」


「……わからない。でも、いつかきっと恐れられたお前の手を取ってくれる人達が現れる。お前は、お前のやりたい事の為にその力を使ってほしい。楽しく、幸せで、笑える未来の為に……」


 己の価値観が変わった。

 世界が、揺れた。







 伸ばした手の先に見えたのは晴天に煌めく太陽だった。







「あー……」


 拳を握り締め、呟く。


「くっそウゼェほど綺麗な光だな……」


 拳を握りしめたって太陽は掴めない。そうやってようやく実感の沸いた気がする現実を見るために自分の腕を見た。蟲に齧られて皮膚がめくれ肉が千切れる事なく、虫汁が一滴も流れていないオズウェルドの肉体を。


 体を起こして周囲を見る。【崩壊現象】の停止により浮かび上がっていた建物や瓦礫は既に街へ降り注いだ後であり、その光景は紛争地だと言われても納得のいってしまうほど灰と硝煙に包まれていた。

 それを起こしていた自分の体はなんともない。本当ならばやったことを負荷に耐え切れず自壊するはずだったのに。


「俺は、何で……」


「――いた、アル!!」


 自問をしようと呟きかけたところで少女の声が響き意識がそっちに引っ張られる。咄嗟に声がした方角を向くと瓦礫の山から顔を出した複数人の少年少女がこぞって倒れるアルフォードの元まで駆け寄った。

 そして紺色の髪の少女が彼の体を抱き起すと涙目で叫ぶ。


「アル、大丈夫? ……ねぇ、アル! アルってば!!」


「酷い衰弱状態……。すぐに何とかしないと。ハルノ、救護キット!」


「受け取って、ルゥナ」


 六人でアルフォードを囲むなり色んな措置を取り始めて容態の安定化を図った。最初こそ意識はアルフォードに向いていたがそのうち視線はこっちに集まる。


「それで、あれが……オズウェルド……?」


「……うん。僕の中にいた、もう一人の僕」


 エルフィの真っすぐな瞳が射る。ただ見られているだけのはずなのに体はどくんと鼓動が激しくなると同時に熱が走った。

 恐れている。

 心の何処かで恐れているのだ。またみたいになるのを。


 ただでは済まされない事をした。例えアルフォードが《因果律》の権能で事態を鎮静化させたのだとしても全員の記憶が消えるわけではあるまい。特に力場の渦へ晒された彼らの仲間は化け物だと恐れるはずだ。


 人の心を恐れるほどの心がまだ自分にもあったとは。


「ここまで……か」


 こういうのは大抵捕まって政府に実験体なりなんなりにされるのがオチだ。せめて楽しいことをして死にたかったのに。


 エルフィは五人から離れるとゆっくりとした足取りで近づいてくる。恐らくこのまま一発殴るつもりなのだろう。……そうされて当然の事をしでかしたし、その罰を受け入れなければならない責任がある。本来ならば死刑ですら済まされないような責任を。

 どの道アルフォードに……いや、彼らが日常の中で見つけてきた“出会い奇跡”に負けたのだ。拒否権なんてない。


 何か別の方法があったのだろうか。この世界を楽しむためにあんな事をしなくてもああしなくていい方法が他にも……。

 いや、やめよう。これ以上は無駄な思考だ。

 敗者に拒否権なんてどこにも――――。


「オズウェルド!」


 エルフィが伸ばした手は目の前で差し伸べられた。

 そうして放たれた言葉は理解をはるかに超えていた。




「僕と、友達になろう!!」




 …………。

 …………。


 は?


 何を言っているのだろうか。自分がいたいと思える場所と、大切な人を奪おうとした相手に何を言っている?

 全く理解が出来ない。何故そういう思考になるのかが分からない。

 敵と友達になる? 少年漫画の主人公にでもなったつもりなのだろうか?


「僕、壊れた街の中を走りながら考えたんだ。どうやったら君を助けられるかって。君は強くて僕がいなくたってきっと大丈夫。だから僕には何ができるのかって」


「――――」


 差し伸べられた手は何度も転んで擦り切れたり血が滲んだりしている。服もそのボロボロさが彼が努力している事を証明していた。


「僕には特別な力なんてないし、君を救える様な言葉も考え付かない。……だから、僕に出来るのは行動で示す事だけ」


 真っすぐに射抜いた瞳には強い光が宿っていた。それは二千年前に出会ったとある冒険者に似ていて、その瞳の奥にある魂の光がとても輝かしく見えた。それこそあの時の記憶がよみがえってしまうほどに。


 ボロボロで爪の手入れも出来ていない薄汚れた少年の手を握ってくれた。あの時に出会ったその冒険者達にも似たような光が瞳に宿っていて――――。


「君が楽しい事をしたくて生きるのなら、僕が連れて行ってあげる!」


「は……」




「楽しい事は独りでやらなくてもいいんだ」




「――――」


 誰もその言葉は言ってくれなかった。……いや、言う勇気がなかったのだろう。その言葉を言ってしまえばいつ暴走して世界を滅ぼすかも分からない危険因子を面倒見なければならないのだから。


 ……あぁ、くっそ。言葉だけで救われるなんて屈辱だ。

 ただ一言。ただ一言「一緒に遊ぼう」と言われるだけで救われてしまった。それほどなまでに……そんな簡単でちっぽけな言葉だけで救われてしまう程に心の底では救いを求めていたのだろう。自分でも気づかない程に。

 二千年前に経験した冒険でも満たされない渇きを潤す何かを求めて、ただ間違った道を突き進んでいたのだから。


「この世界には辛い事や悲しい事がいっぱいあるけど、楽しい事も山ほどあって、その経験は誰かと一緒なら何倍も何十倍も膨れ上がるんだ! 悲しい事は半分こ。嬉しい事は倍にして、一緒に楽しむのが友達なんだ。だから……」


 何も言えなかった。

 太陽に照らされるエルフィが……照らされたそのボロボロな掌が眩く見えた。


「だから、僕と友達になろう。君が想像も出来ないほど楽しいって思える場所に、僕が連れて行ってあげる」


 アルフォードは言っていた。みんなが「助けたい」と思えるほどに積み重ねてきた“出会い奇跡”がこの結果を導いたのだと。

 本当だった。

 本当にみんなが望む結末へと導いた。

 誰も死なず、全員を救い、ハッピーエンドを迎える結末へと。


「……は」


 敵を助けるなんて馬鹿のする事だ。もしくはそう在りたいと願って風体だけを装う偽善者のする事だ。だが目の前に立っている少年の瞳に宿る光は――――まさしく前者のソレだった。


「ばっかじゃねーの……。俺は敵で、お前を利用して……お前が大切にしようとしてた奴や、居場所を奪おうとしたんだぜ?」


「それ、重要?」


「――――」


「確かにそうかもしれない。君は君の欲の為に僕から全てを奪おうとしていた。……でもそれは“そうしようとしていた”だけだ。僕はまだ何も奪われてない。――僕は、君を許せる」


 どこまでもどこまでも、ただひたすらに光を放ち続けている。

 あの時に出会った冒険者も……同じだったっけ。


「……はは」


 乾いた笑いしか出せなかった。だって敵を助けるだなんて空想の話だとばかり思っていたのだ。確かに彼がこういう性格なのは知っている。だからと言って自分から全てを奪おうとした敵を「許せる」だなんて本気で言うとは思いもしなかった。


「馬鹿だな、お前……。あぁ、本当に馬鹿だ。大馬鹿だ。馬鹿で……お人好しだ」


 差し伸べられた手に掌が向かっていく。

 ここで彼の手を握ればもう独りでいる必要はない。の様に孤独に苛まれて全てを投げ出す必要もない。そうして、まだ時期尚早だったんだって後悔する事もきっとなくなる。


 ……本当のことを言えばそれが怖い。

 一度本当の孤独を知っているからこそここから先の未来でまた孤独になった時、自分は本当に耐えられるのだろうか。人の温もりを知ってしまったら、独りよがりで歩いていたあの頃の自分みたいに強がって生きていけるのだろうか?

 そんな考えが頭裏で渦を巻いている。



 救い出してくれた冒険者の手を握ってしまったからこそ、彼らを殺すきっかけを作ってしまったから。



 でも。

 それでも。


 ――その奇跡を俺が“本物”にする。


 ――俺がこれから起こす《奇跡》を、目ん玉かっ開いてよくみておけ。


 視界に映っている一つの結末は普通ならば絶対に起こり得ない奇跡を描いていた。その奇跡によって生まれた世界に自分も生きていいのなら……。


 ――いつかきっと恐れられたお前の手を取ってくれる人達が現れる。お前は、お前のやりたい事の為にその力を使ってほしい。楽しく、幸せで、笑える未来の為に。


 零れ落ちた涙は……とうに枯れたと思っていた。

 どうやら自分はまだ人間として生きてもいい様だった。


「……カッケーじゃん」


 握りしめた掌はボロボロで、擦り傷が沢山あって、それは誰かの為に奔った一人の少年にしてはあまりにも不格好な物だった。

 それでもその傷が今だけは別の物に見えた。


 自分を救う為に奔ってくれた、憧れた存在の証に。


「……ヒーロー」


 その日。

 生まれて初めて心の底から嬉し涙を流した気がした。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 深い意識の底からアルフォードは目を覚ます。

 意識を失ったのは実に久しぶり……いや、この世界に来てからは初めての経験だったか。普段は寝ても集中力を保って状況を把握しているから気が付いたら時間が経っている、という状況が懐かしく感じる。


 目を開くとまず涙跡のついたリアの顔が映り込んだ。けれど彼女はある方向を向いていて、周囲を見るとジンもルゥナも同じ方向を向いているからアルフォードもそっちを向くと何が起きているのかを理解した。


 オズウェルドが泣きっ面を晒しながらエルフィの手を握っている。

 言葉なんてなくてもそれだけで結末は理解した。描いた未来通りのハッピーエンドを迎えることが出来たのだと。


「アル、起きた?」


「リア……」


 腕に抱いた人が動いたからリアが真っ先に反応する。続いてジンやルゥナが反応すると近寄ってあれこれ言葉を投げかけられた。

 オズウェルドの相手をするという事は殺し合いをするのも同意味だ。心配するのも無理はないし、この時代に住んでいる人達ならば猶更だろう。


 そうしてこっちはこっちで言葉を交わしていると、ふとルゥナが両手で手を掴んで語り掛けて来る。


「アルフォード……。その、ごめん」


「え?」


「こんな危険な事に巻き込ませちゃって、ごめん。アルフォードは暗部の問題を解決しに来ただけなのに、最終的にこんな大きな事件に巻き込ませちゃって……」


「…………」


 そう言えばそうだった、というのが正直な感想だった。

 むしろ暗部の件とか【ブラッド・バレット・アーツ】の回収とか、終盤の方はもう既に眼中になかった。そんな大事な事を完全に忘れてしまうほどにオズウェルドやエルフィを救いたいと考えていたっけ。


 巻き込んだ側のルゥナからしたら申し訳ない気持ちでいっぱいだろう。何せ自分の私情で学園都市を崩壊させる危険のある事件に巻き込ませたのだ。自分ではどうにもできないから最終的に頼るとしても、優しい彼女の性格からしてみれば不甲斐なさで謝罪すら詰まってしまうのだろう。

 だからこそ言わなければならない。


「……俺、ハッピーエンドが好きなんだ」


「え?」


 突拍子のない発言にルゥナは目を皿にして見つめて来る。そんな彼女には目もくれずオズウェルドとエルフィを見つめながら言葉を綴った。


「誰も救えないバッドエンドなんていらない。俺は、俺の描きたい……みんなで描き続けたいハッピーエンドが好き。だから、俺は俺のやりたい事をやっただけ」


「――――」


「ただの私情でしかない。でもみんなで笑顔で過ごせる未来に辿り着けるのなら……ちょっと傷つくくらいなんともないだろ?」


 優しく微笑みかけると、彼女は込み上げた何かを堪えるように晴天を仰いだ。そして鼻の先を真っ赤にしながら大粒の涙を流す。

 救えなかった人を救えた。

 それがどれだけ大きい感情を生み出すのか、それを知っているから――――。


「ここから始めるんだ」


 紡いだ手はいつか大きな力へ変化する。

 繋がる力が世界すらも揺るがした時、それは絆と呼ぶに相応しい光となる。だからその光でみんなを照らせる世界を創りたい。


「……いや、違うな。これからも続けていくんだ」


 何よりその一歩を視線の先にいた二人が証明していた。




「俺達の、“奇跡を紡ぐ物語”を」




 少女の頬から零れた落ちた涙は太陽に照らされ、眩い光を瞬かせた。

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