1-25  『独りじゃない世界と独りの世界』

 砕かれた銃身から零れる鮮血や引きちぎられた血管が雨と一緒になって地面へ落下していく。それは自分の右腕が粉々にされているのと同じ事だった。

 この力があればきっと。

 そんな淡い期待を抱いていたからこそ、断ち切られた望みと共に力が入らなくなった体は雨と共に落下する。


 ……決して迷わなかった。

 照準を定められ、そのまま突っ込んでいれば確実に死ぬんだと分かっていたはずなのに、その上で仲間が駆けつけてくれる事をさも当然かの様に信じて――――。


 ――なんでも何もないよ。助けるのは当たり前の事だから。


 かつてそう言い放っていたバカがいたっけ。

 夢を見ていた。誰もが憧れてしまうほどの綺麗な夢を。その夢を叶えられるのならきっとどれだけかっこいいのだろう。そう思って手を差し伸べた。その意味がどれだけ重いものかも知らずに、あの日出会ったボロボロな姿をした少女に向けて。


 そんなバカについて来てくれた後輩がいた。憧れてくれた少女がいた。だからこんな姿なんて見せたくなかったのに、それでも彼女は諦めなかった。

 それが先輩に教わった事の一つだったから。

 ただそれだけ。それだけで彼女は……ルゥナは――――。


 ――そっか、君はもう……。


 一緒に落下して手を伸ばすルゥナが見える。けれど推進力の為に使おうとしている両脚は今さっきの移動と攻撃でぐちゃぐちゃに壊れているから伸ばしている手が届く事はなく、ただ歯を食いしばっているだけだった。

 マナも使い切ってしまったのか魔術を使おうとはしない。


 ――私がいなくても、私よりずっと先へ……。


 残った僅かなマナと気力を使えば、せめてルゥナだけは助けられる。奇麗事を憎んで自分のわがままで後輩を殺そうとしてしまった出来損ないの先輩だけれど、最後くらいはかっこよく振舞ったって罰は当たらないだろうか。


 なけなしのマナを用いて風圧を起こす。その風にルゥナを乗っけると近くの崩れかかったビルに押し出して無理やり助ける。

 だが彼女がそれを望むことはない。


「――先輩!!!」


 今にも崩れそうな床から顔を出して手を伸ばす。でも助けられた以上ルゥナにできる事はなく、彼女もまたそれを自覚してか命を投げ出す行為はしなかった。


 遠くの方ではハルノと紺鶴が必死に叫びながら飛び出そうとして、新たな仲間にそれを止められている。


 だが……もう投げ出してしまった絆だ。どれだけ求められたって応えられない。心がそれを許さない。力と狂気に呑まれ、大切な後輩をも殺そうとしてしまったこの手では彼女達の手を掴むだなんて出来ない。

 だから、最期くらいはみんなを助けて――――。




 パシン。

 左手を誰かが掴む。




 落下していた体は左手を掴まれた事で停止して重力と痛みだけを感じる。だがこの状況で助けに来れる人間なんていただろうか。そう思って空を見上げ目を開く。


 亜麻色の逆立った髪と同じく鋭い三白眼。額から血を流し雨に濡れた白いパーカーを着て、右手を伸ばし、左手を蜘蛛の巣のように変形させた少年がいた。


「俺ァお前の事情なんか知らねーし、なんでそう思ったかも分からねェ」


 彼は本気の一撃を受けたのにも関わらず致命傷だけで済んでいた。いや、致命傷ならばなぜ動ける? 何故助けてくれる?

 その答えは彼の瞳に宿っていた。


「けど」


 強く握りしめる掌には確かな絆が宿っていた。


「一人でメシ食うより、みんなで食った方が美味うめェだろ」


 そんな理由で? そんな理由で仲間を殺そうと……学園都市や自分の居場所を壊そうとした敵を助けることが出来るのか?

 問いかけは何度も脳裏を過る。けれどその度に全く同じ答えが素通りする。

 それが当たり前だからだ。


「は……」


 どうやら自分は力が強くなる変わりに心が弱くなってしまっていたみたいだった。後輩だけでは飽き足らず後輩と手を結んだ彼らまで同じ“夢”を持っているとは。


 …………。

 …………。


 ……いいや、きっと違う。

 それが“人”という生き物の本質なのだと、そう思う。互いに手を取り合い支えあって大きな夢を目指す。だから独りだと心が壊れてしまう。だから独りだと大きな力を持っていても絆に負けてしまう。


 ある人から導いて貰った数々の人の出会いが波紋を伝うように広がって、ルゥナを導いた出会いが学園都市の闇に立ち向かえるほどに大きくなって、彼らへと導いた出会いが絆を結んで――――。


 まったくどうして、運命というやつは奇妙なものばかりだ。


「……強いね、君達は……」


 ふいに、そんな言葉を呟いていた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 警報が鳴り響く街の中を高速で駆け抜ける。オズウェルドはそうして建設現場の資材置き場に駆け込むと鉄骨の隙間に身を潜めて激しい頭痛が収まるのを待った。

 まるで自分が自分じゃなくなったような感覚だ。今まで感じたことのない道の感覚に顔をしかめる。


「クッソ……! あのガキが……!!」


 アルフォードが何をしたのかは分からない。だが理解できるのは自分とエルフィの存在が別離されたという事だけだ。この頭痛は突如として一つの存在が半分になったから存在の定着がされずに魂が不安定になっているのが原因だろう。


 だがそれと引き換えに……というにはあまりにも致命的だったが、円環塔の壁は破壊できた。あとはその中に潜入して最終層まで辿り着き本来の力を取り戻せれば目的は達成できる。

 ……と、そう考えていたが落ち着いた足音が聞こえて視線を向ける。


「あぁ、こんな所にいたか」


「テメー……」


 姿を現したのはヴァンダーベルトだった。彼は姿はそのままに傘を差しながらこっちを見つめている。


「……へっ。雑魚のテメーはとっくのとうに隠れたのかと思ったぜ」


「まさか。こっちはこっちで準備を進めていたのだよ」


「準備? あぁ、アイツの拉致か」


 彼らの目的は……確かアルフォードの拉致だったか。神秘がどうのこうのと言っていたが細かい話は覚えていない。興味ないし。ただあれだけのことをして見せた相手なのだから興味がわくのはわかる気がする。


 とにかくこれで互いの目標は半分近く達成した。こっちは円環塔へ乗り込むだけだし、奴らは疲労したアルフォードを拉致して実験だのなんだのを行う。

 ここからは別行動になるだろう。だから自分達だけで動くために準備を整えていたのか。


 そう思っていた。


「いや、違う」


「あ……?」


 ヴァンダーベルトは手を差し伸べる。……かと思いきや突然頭を鷲頭紙にしてきた。当然普通の人間である彼の腕なんて振り払えば簡単に引きちぎれる。だから不愉快なその行動を止めさせるべく腕をつかんだ。

 だが彼の腕はびくともしなかった。


「私達の真の目的は――――君だ」


「ンだ、この力……!? テメー人間だよな!?」


「あぁ人間だとも。ただ……少しばかり“世界の神秘”を借りているだけの、だが」


 ドクン。

 心臓が跳ねた。


「ぁ――――ッ!?」


 何かが吸われている様な気がする。それが何かは分からないが、自分にとって大事な何かなのは理解できる。それがなくなれば自分が自分でなくなるような気がしてたまらない。

 だから奪わせまいと振りほどこうとするも彼の腕は合鉄の様にびくともしない。


「やめ、ろ……っ」


「なに、問題はない。君から少し“神秘”を拝借するだけさ」


 神秘を拝借? それってまさか――――。

 そこまで言われてようやく奴の狙いに気づく。


「テメェ、まさか最初っからコレが狙いで……ッ!?」


 メタリックなマスクの裏側に隠れている顔が笑った……気がした。

 まるで脳汁でも吸われているかのような感覚に意識が薄れていく。そんな霞む意識の中で届いた言葉は非常にドス黒い色をしていた。


「やめろ……奪うなッ……! やめろッ!!」


「悪いね。これも正義の為だ」


「なん、で……。また、おれは……」


 考えられない。

 視界がボヤける。聞こえる音が水の中にいるみたいにくぐもって聞こえる。

 そんな不安定な意識の中で霞んだ記憶が見えた。何もかもを奪われて自分以外の物は何もないのに、その自分ですらも他人に奪われる記憶を。

 そんな記憶あったっけ。


 力が抜ける。意識が落ちる。

 気が付いた時には誰もいない暗闇の中、たった一人で彷徨っていた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「エルフィ、無事か? 指は何本に見える?」


「……三本」


「よし、大分安定してきたみたいだな」


 エルフィを介護しつつも物陰に隠れて数分。

 政府や公安の率いる特殊部隊は既に街中に蔓延り徹底的に厳重警戒に当たっている姿を見ながら、アルフォードは次の作戦をどうするか考えていた。


 緊急事態という事もあって街中に存在する全てのネットワークやWi-Fiが無効化されている。スマホを取り出しても圏外になっていて連絡を取ろうにも電波が届かない。


 仙札で位置を確認しようとしてもハルノ、紺鶴、ジン以外の位置が掴めない。恐らく暗部やPMC兵達との戦いで仙札を消費したのだろう。リアは彼女の方から要請があたから応えたが……ルゥナは自分の意志で仙札を使用しているはず。

 一定の範囲内には固まっているからリアもルゥナも一緒にいるのだろうが……。


「アルフォード君、オズウェルドは……?」


「意識が安定してから開口一番でそれかい」


 エルフィは体を起こすなりそう言うから思わず笑いを零してしまう。まずは自分の身体を気にするところなのに真っ先にオズウェルドの心配とは。

 懐かしい顔を思い出しながらも彼の向かった方角を指差す。


「オズウェルドには俺の血を付けてあるからいつでも追跡できる。ちなみにあそこ」


「え……」


 けれど円環塔を指差すなりエルフィは硬直した。そりゃ今から助けなければならない相手が立ち入り禁止エリアに向かっていると知ったら常識人であるエルフィはそうなる。


 何せ小学生の頃から徹底的に教え込まれるのだ。「円環塔には何があっても立ち入ってはいけない」と。

 ニュースでも外壁に触れただけで逮捕されるゴロツキ共がまれに報道される。それほどの存在を誇る所に向かわなければいけないと知って怯むのは当然だ。


「エルフィはここに隠れてて。円環塔には俺一人で向かう。オズウェルドを無力化出来たら――――」


 常識人の彼には到底無理だ。だからここは常識人ではない自分が行くべき。そう思って立ち上がったのにエルフィは手を伸ばすと袖を掴んで足を止めさせた。そうして振り返ると強い瞳に浮かぶ光が真っすぐに射抜く。


「僕も連れて行って」


「でも円環塔だぞ。バレれば即刻その場で射殺される」


「それでも……行かないで後悔するより、行って後悔した方がマシだと思うんだ」


「…………」


 二千年前の親友の面影を見ている様だった。確か“彼”もこんな事を言っていたっけ。まさかこんな時代で同じ感覚を味わう事になるとは思いもしなかった。


「結構キツいぞ」


「やるだけやってみるよ」


 こういう人間は何を言っても最終的に飛び出してしまう事をよく知っている。だから軽く息を吐くと手を伸ばして言った。


「そんじゃあ準備運動でもするか」


「準備運動?」


「体を動かすのは数年ぶりだろ? ――準備運動として、世界救うんだよ」



 ――――――――――


 ―――――


 ―――



 円環塔の中に入るには超絶高密度なセキュリティを突破しなければならない。なにせ学園都市の心臓とも呼ばれているのだからその強度は世界レベル。「世界最強のハッカー集団」と言われていた輩がハッキングをしようと試みたところたった二時間で逆探知・ハッキング・情報操作をされ逮捕したほどだ。


 内部セキュリティも頑固だなんて言葉では言い表せないレベルだと言われている。噂では通路全体に射殺する用の機関銃が隠されているだとか、円環塔の内部は常にブロックごとに稼働して入り組んでいるだとか。

 どれだけ優れている人間でもその闇に爪先を触れさせただけで殺される。

 それが円環塔。


 そんな円環塔の内部は非常に清潔で透き通ったような構造だった。機関銃が隠されている訳でもブロックごとに稼働している訳でもない。真っ白な廊下に碧い真っすぐな線が描かれた壁。最新技術の照明・モニターと内側からしか見えない窓。

 まさに綺麗の象徴と言うる様な内部だった。


 ……まぁ、今飛び込んでいる最下層はそんな雰囲気とは裏腹に学園都市の闇が詰まっている訳だが。


「凄い、こんなにもあっさり……」


「世界の神秘の一つだからな。電子セキュリティくらいならお茶の子さいさいさ」


 仙札を構えながらエルフィを抱えて闇を降下する。

 最下層は大きな空間になが~~~~~い円盤の様なエレベーターがあって……というのがSF作品における定番の闇の空間の描き方だ。だが円環塔はそうではないらしく自由落下形式。穴があってそこに飛び込めば大きな空間に入れる。


 地下に広がっていたのは果ての見えない暗闇と一番下に存在する膜の様な何か。おそらくこの空間は真の最下層へ繋がる階段の踊り場的な場所だ。


「それにしても仙札って凄いね。こんなにも落下を緩やかに出来るなんて……」


 ゆっくりと降下しているからエルフィはそう呟く。

 確かに仙札があれば落下時の浮力を操作してゆっくり落下する事も可能だ。だが、今ばかりは何もしていない。


「俺は何もしてないぞ」


「え」


「俺は何もせずに自由落下してる。落下が緩やかなのはこの空間だけ物理法則が狂ってるからだ」


「えっ。て事はここだけ万有引力働いてないの!?」


「うん」


 前から頭がいいだけあって理解も早い。そんな驚愕する彼をしっかり抱えつつも膜に到着するまでに解説を続けた。


「この真下にある何かが超強力な力場を発生させてるんだ。それこそ質量・物理・時間すらも狂わせかねないほどのな」


「それ平気なの!?」


「もしかしたら戻った時に数十年は経過してるかもな」


 冗談任せにそう言うと思ったよりヤバイ場所へ突入していた事に気づかされたエルフィがこの世の終わりの様な表情を浮かべる。まぁ戻って数十年経過まではいかないだろうが、少なくともこの場では普通の事は起こらないだろう。

 水を生成したら素蒸気爆発が起こりました! くらいは想定した方がいいか。


「あの膜は力場がこぼれ出ない様にする為のものだろ」


「つ、つまりあの中は……」


「全ての法則が狂った【絶対領域】とでも言った方がいいな。もしかしたら数千年前の英霊がいるかも」


「それはそれでヤダ!!」


 そんな事を言いつつも膜の元まで辿り着いて足の指先を触れさせる。やはり内部には超高密度の力場が放たれている様で内側から張り詰めているからか、薄い膜であるはずなのに魚の鱗の様に硬かった。

 だが破ってはいる必要はない。仙力を使う必要もない。

 ただ入りたいと思えば体は沈む。


 ざぷん。

 力場の海に溺れる。


 そこから先に広がっていた光景はまさしく神話の時代その物だった。古代ネセピティア語とルーン文字で描かれた巨大な円盤の床と張り詰めた膜以外の全ては上向きに流れる力場で埋め尽くされている。


 そして床の正面に存在していたのは十字架に張り付けられた魔神の骸。

 ……いや、違う。魔神は生きている。

 身体の八割を失いつつも今もなお生きているのだ。


「なるほど、闇が深ェわこりゃ」


 学園都市が安全と言われる理由は政府が頑張っているからという理由が一番大きいとされている。特に《ODA》が傭兵に近い立ち位置だから彼らが表面上の平和を守っていると言っても過言ではない。


 だから裏では血生臭い事情があるのかと思っていたが……どうやらそれどころの話ではなかったらしい。

 これはいわば“人の業”とでも呼べる代物だ。

 いつの世も人間が考える事は恐ろしい(自分も人間だけど)。


「アルフォード君、これって……」


「魔神セルセロク……。二千年前、水の都を一夜にして滅亡させた怪物だ。一説だと勇者によって倒されたって聞いたけど……まさか生きてたなんてな」


 円盤の床に着地すると一人の少年が魔神セルセロクと向き合っていた。それだけで何をしているのかを察するが、今は魔神セルセロクが生きている事が何よりもの驚きだった。


「学園都市を支える膨大なエネルギー原がどこから来てるのか一度は疑問に思ってたけど、まさかこんな形で知るなんてな」


「それって……」


「――魔神セルセロクは生きたまま貼り付けにされた。それも半永久的な時間を、人間に利用されながら」


「…………」


 魔神から放たれる力場は常人が浴びれば気が狂って死ぬ。だが使い方を変えれば様々なエネルギーへ変換できるのが力場だ。二千年前もそれなりに力場を利用した事件や事象が発生したが、まさかこの時代でも目にするとは。

 その上字で書き起こすのなら神を利用して怠惰を貪っている様なもの。こんなのを知られたらただ事ではない。


「……んで、この魔神の力場なら足りない力を補うのには丁度いい」


 次にオズウェルドを見ながらもそう言うと彼はゆっくりと振り向いて笑って見せた。そこから感じる覇気や力場はもう今までのソレではなかった。


「だろ、オズウェルド?」


「……あぁ。その通りだ。――この力さえありゃァ、今なら何でも出来る気がするぜ」


 彼から放たれた覇気が精神を押しのけた。こっちには耐性があるがエルフィは初めて触れる覇気であるわけで、あまりの圧に腰が抜けてその場にぺたんと座り込んでしまった。


「でもおすすめはしないな。その魔神の力場は学園都市を支えるエネルギーその物だ。それを吸い尽くしたら――――」


「超巨大なポルターガイストが起きて崩壊する、だろ? 面白れーじゃねーか」


「――――」


 魔神の力場ありきて成り立っているこの学園都市でエネルギー原が絶たれれば基盤が崩壊した事で様々な問題が起こる可能性が高い。そうなったら自分達の居場所は当然として学園都市や最悪の場合世界その物が崩壊しかねない。

 元より魔神から生まれている力場だ。その力を使えば世界すらも滅ぼせるし、何なら《七冠覇王セブンズクラウン》というだけでその力は膨大だ。


 そして楽しい事しか求めていない彼だからこそ何かが壊れたって気に留めはしない。だって義務教育を受けなかったしエルフィの人格の傍で彼の人生を見て来た訳でもあるまい。

 ただ純粋に楽しい事を求めているだけの子供なのだ。


「アルフォード君、オズウェルドは……」


 エルフィはオズウェルドが《七冠覇王》である事を知らない。伝えていないし。けれど彼から放たれる覇気で人間ではないと悟ったエルフィは不安げに問いかけて来る。「殺すしかないのか」と。


 事実そうだ。こうなった以上オズウェルドを止める方法は殺すしかない。二千年前もとある事情で暴走してしまった《七冠覇王》を殺す事でしか止められなかった。

 オズウェルドを助けたいと願うエルフィからしてみればそれは残酷な結末だろう。そして今の彼にアルフォードは立ち向かえるのか。エルフィの中ではそんな思考が渦巻いているはずだ。


 でも、“今”は違う。


「大丈夫」


 やるしかないのは変わらない。殺し合うのも変わらない。

 ここから先は現代人では到底太刀打ちする事の出来ない領域の戦闘になる。全力でやり合えば戦闘の余波だけで学園都市の半分は消し飛ぶかもしれない程の。

 それでもやらなければならない。

 やり遂げなければ、心から信じてくれた仲間との約束を果たせない。


 懐から仙札を取り出し構える。


「――“今”は俺がいる」

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