1-4  『野蛮な街に住む奴らは野蛮な奴だらけ』

 AM11:00。

 アルフォード達はネルディッカの行う演説の護衛として表舞台に立ち周囲を警戒している……のではなく建物の影に隠れて怪しい人物がいないかを監視していた。だから表舞台に立っているのは警察などの一般的組織だ。

 対してこっちはアサルトライフルを握り締めて監視を行う。怪しい人がいれば即座に狙撃出来る様にだ。


「にしても、まさか護衛対象が円環塔の責任者だったとはな……」


「そりゃ《ODA》に依頼も飛ぶよ。責任者だもん」


 アルフォードとリアの配置場所は囲むように建設されている校内の柱の陰だ。ここなら上から民衆が丸見えだし、怪しい動きをしている人も見つけやすい。


 とはいえ、いくら特殊な立ち位置にいるとは言えど《OAD》はあくまで保険的な意味合いでしかない。最初は分からなかったが、護衛対象が円環塔の責任者ともなれば特殊部隊が付いて来るのは当然の事。だからあくまで自分達の仕事は問題が起こったとして、彼らが対処し損ねた輩の対処という訳だ。

 ここまで状況が進まないと任務の本質が理解できないのだから本当に面倒くさい。後輩達も随分と困惑していた物だ。




 そんな護衛は予定通り終了してアルフォード達は予定通り次の任務場所へと向かっていた。後輩達とは最初の任務で合流・以降は行動を共にするという方針になっている為計五人での移動だ。


「にしてもアイツが円環塔の責任者か……」


「アイツって……。そんなに気にする事?」


「あいや、こっちの話」


「??」


 最初は二千年後の世界に知っている人物はいないと思っていたが、まさか唯一確認出来たのが魔王の孫とは。とはいえ一度もあった事はないから彼はアルフォード……もとい■■の事は知らないだろうが。

 リアが探ろうとしてくるから誤魔化すと不思議そうな顔を浮かべながらも首をかしげていた。


 目的地が見えてくると大きな広場に子供用の遊具とそれに伴うアトラクションが設置されている。ここが次の任務場所だ。


「さっ、次は体験型アトラクションの監視だよ! 頑張ろー!」


「「おーっ!」」


 一応この班の隊長を任されているという事もあり点呼を取ると三人の後輩は声に合わせて応えて見せた。


 とはいえ次はさっきよりも危険性は低いからザックリ言って子供たちの監視だ。誰かが暗殺を企んでいる事もあるまい。

 ……何かあった場合は現場の判断に委ねられるから子供の行動によっては大事になりかねないが。人類種だけではなく異形種の子供も混じっている訳だし。


 広場の関係者にカードを見せると要点を聞いて配置につく。

 一見すると危険性が低く、子供も武器を持っている訳ではなく、何か怪しい空気が流れている訳でもない。だが《ODA》にこの依頼が飛んできた限りそれ相応の問題が発生しかねない可能性を秘めている。上も学園都市誕生祭なんていう一大イベントに無駄な人員を割くほど馬鹿ではあるまい。


「……リア、見つけた?」


「まだ」


 自分達が派遣された意味を見つけようとするが中々見つからない。こういう状況になると事前に情報を明かされない《ODA》特有の味方構成員に対する情報遮断が本当に厄介だ。これで失敗してもこっちのせいなのだから面倒臭い。

 まぁ、その上で解決すればかなりの実績を得られるから《ODA》から脱退していないのだが。


 子供ではないなら保護者だろうか。そう思ってアトラクションの周囲で子供たちを見守る保護者に目を向ける。当然人類種と異形種も混ざっている訳だが特に怪しい動きがある訳でもない。


 この任務は、不自然な点を残して終了した。




 AM12:30。

 オーディションに受かった無名バンドの路上ライブの監視を行っていたのだが、音楽を楽しみながらもある人物にフォーカスを定めていた。聞いていた人達の中にいた異形種の男が何かをグチグチと言いながら手元の酒瓶を握り締めている。

 ヤジがいるのは当然として流石に酒瓶を投げられたらライブは中断せざるを得ない。まぁ投げられた所で無名バンドだし路上ライブだしで大した問題がある訳ではないが……。


「お前らみたいなバンドなんざ売れる訳――――! ガッ、ぁ」


「はいはーい、愚痴は署で聞くからねー」


 酒瓶を投げつけようと振り上げた腕を押えてうなじをかなり強めに強打させる。そうして対象者の意識を飛ばすとずるずると引きずって路上ライブから離れさせた。




 AM13:02。

 次の任務が二時間後とそれなりの時間がある為適当な所で昼食を取っていた所、突如として隣の喫茶店から銃声が響いて各々の銃を手に取った。まずは警備ロボットが真っ先に問題解決に当たろうとするから自分達は陰で隠れて様子を見るが……ロボットが吹き飛ばされる光景を見て話し合いでは解決しなさそうなのを知る。


「警察に連絡。回収部隊にも報告しておいて」


「はい」


「ソーラは周囲の人に下がらせるよう誘導して」


「分かりました」


「リアは俺と武力鎮圧。行くよ」


「えぇ」


 ルール上警備ロボットに武力行使をした場合交渉をする余地がないと見なして武力鎮圧する事が許されている。まぁただでさえ異形種という危険の塊と共存しているだけではなく、魔術も化学兵器も能力も溢れた野蛮な街だ。野蛮な街には野蛮なルールを、という事なのだろう。


 相手は異形種の男と複数人の人類種。見た所異形種の男がリーダーでその他は取り巻きと言ったところか。


「ゲーティルは俺達がミスった時用に六時方向にある建物の柱に隠れて。ただの窓だから弾丸は通る。頼むぞ」


「了解」


 銃を構えて喫茶店に近づいていく。班の構成員も各配置について銃口を向けていた。

 普通ならばこのまま武力鎮圧して終わりだ。だがこの街にはそんな普通が通用しない事が多々ある。それが異形種相手となった途端に可能性は跳ね上がる。


「行くぞ。さん、にー……って、やっぱそうなりますよねぇ!!」


 店の中からの閃光。それを視認した途端にリアの頭を伏せさせて車の陰へ飛び込んだ。爆発から生まれる熱風に巻き込まれつつ向かいの歩道まで転がると起き上がって座ったまま引き金を引く。


 人類種の男は二人ほど仕留められるがもう二人と異形種はピンピンしたままこっちを狙っている。そんな野蛮人共はどこから入手したのか簡易型ランチャーを構えると躊躇なく発射してくる。

 幸い簡易型は初速が遅いから回避は出来るが背後にあったマンションの入り口は崩壊してしまう。


「くっそ~やっぱり非殺傷弾はリコイル制御がネックか!」


「言ってる場合じゃないでしょ全く!!」


 リアが牽制しつつ敵の動きを止める。その間に突然の戦闘に緊急停止した車の上へ飛び乗って喫茶店の中を覗いた。

 利用客はまだ人質には取られていない。早めに動いたのが効いたか。


「ゲーティル、そっちからは見えるか?」


『はい。奴ら、どうやらそれ相応の準備はしてるらしく簡易ランチャーの替えを装填してるッス』


「面倒クセェ奴らだな!!」


 爆発物がある以上死角からは容易に撃てない。簡易型とはいえど爆発物なのには違いない。初撃ほどではないにしても当たれば店の内装ごとドカンだ。賠償請求は全部ODAに行くがその代わり実績ポイントが減るからなるべくさせたくない。


 リアのリロード時間をカバーする為に牽制射撃を行い長期戦に突入してしまう。こっちは街中だから不用意にランチャーを撃たれては実績ポイントが減るから何としてでも阻止しなければ。

 とはいえ相手の武器は異形種としての特性となのか腕が変形したマシンガン的な何かと近距離の爆破と簡易型ランチャーのみ。無理を通せば早期解決も出来なくはないが……。


「ソーラ、お前の銃スナイパーライフルだったよな。腕に自信は?」


『射撃演習では【level:3】でした』


「ならスマートバレットを使え。初速の遅い簡易ランチャーなら撃ち抜けるはずだ」


「なっ、発射中のランチャーを撃ち落とす気!?」


「スマートバレットと街の損害、どっちがお金かかる?」


 狙撃銃で【level:3】の腕前という事は、最低でも二百m先の対象と時速十キロの対象を八割の確率で撃ち抜けるという証になる。そこに弾が勝手に軌道修正をかけてくれるスマートバレットの補佐が加わるのなら撃ち抜けない事もあるまい。


「実績ポイントを下げられるくらいなら俺は地獄の二丁目でタップダンスを踊るね!」


「――全くもう!!」


 陰から飛び出して反対車線のトラックの上に飛び移る。

 そこから低姿勢で銃口を構えるとリアが意図的に牽制射撃を中断し相手の反撃を催促。撃ち出された簡易ランチャーはスマートバレットに撃ち抜かれ爆散。そして最後に引き金を引くと全員の体を撃ち抜いた。


 とはいえ非殺傷弾だから死にはしない。せいぜい筋肉注射を体中に刺されるくらいだろうか。


「……戦闘終了」


 鎮圧した野蛮人共の姿を見ながらもそう呟いた。




 AM15:34。

 次の任務は市場の安全確認だったのだが、そこで問題が発生して自分達はとあるマフィアっぽい恰好をした輩とカーチェイスに勤しんでいた。

 だがいくら《ODA》とはいえ法律は機能している。だから運転手は近くにいた別班の免許を持った男に任せてアルフォード達は二手に分かれて追っている最中だ。ちなみに乗っているのはバギーなのに遠慮なく射撃してくるものだから中々手が出せずにいた。


「おい、スゲー撃ってくんぞ!」


「運転席の所だけ防弾になってるだけまだマシでしょ! 後ろにゃ防弾も障害物もないんだから!」


 隙を見て反撃するも中々当たらない。そりゃ、そこそこ金持ちの子供が中に乗っているとあればむやみやたらに発砲するのはタブーというものだ。


「どーすんの? このまま続けてたら援軍とか呼ばれかねないわよ」


「分かってる。その為の……先回りだ!」


 だから前方から仲間のバギーが来ると知るなりマフィアもどきはいきなり判断に詰まって車両を左右に揺らした。

 瞬時に非殺傷弾から実弾に入れ直して引き金を引く。注意が削がれた内にタイヤを狙ってパンクさせると相手の車はスリップして停止した。そして中に乗せている子供を人質にするという判断に辿り着くよりも早く制圧を開始する。


 バギーを相手車の真正面に移動させるとリアと共に一斉掃射して姿を見せている輩だけを無力化した。

 そして非殺傷弾にリロードするなりバギーから飛び降りると混乱して身動きが出来ない相手の懐まで走り込む。


「クソッ! 滅茶苦茶すぎるだろ!!」


「――街中でこんな事するお前らよりかはマシだと思うけどな」


 そうして残っている一人に至近距離で射撃を行い、黙らせた。




 AM17:01。

 その後も二回ほど任務でもないのに街で起きた騒動を解決したりした。喫茶店の時と似たマシンガンを腕に内蔵した改造人間の銀行強盗だったり剣術を極めた剣豪(笑)の通り魔事件だったり……とまぁ色々と起こった訳だが何とか全て解決した。


 ちなみに自分達が担当したのは第九区だったが、《ODA》の構成員は同じ地区に十班ほどいたし、起こった騒動の総数は既に三十を突破している。

 例日より三倍も忙しい。やだやだ。


 と、そんなこんなで一定の野蛮人共を片づけたアルフォード達は休憩として近くのショッピングモールまで足を運んでいた。


「事件や騒動は既に三十件も発生してんのにあと三時間もあるんだぜ……やだやだ」


「昨日散々「ポイントの荒稼ぎだー」ってぼやいてたのはどこの誰よ」


「それはきっとさぞ大した実力者で短期間で隊長に上り詰めた少年なんだろうね」


「けっ」


 リアとそんな会話をしつつも飲み物を購入してそこら辺の椅子に座る。ショッピングモールは人も多いし警備の眼もソレと比例している。特に今日は色んな組織の人達が目を光らせている。ここなら事件が起こる心配もないだろう。

 ついでに銃の点検と装備品のチェックを行う。

 そんな最中、後輩の少女が問いかけてきた。


「そういえば、アルフォード先輩とリア先輩は同期なんですよね。仲いいですし」


「うん。まぁ同期っていうか幼馴染っていうか?」


「家が隣だったから必然的にね」


 彼女の質問に答えると少しばかり驚いた様な反応をされる。最近の男女は幼馴染でも時間が進むにつれ離れる事が多いと聞くし、こんな物騒な組織に所属しているのだから尚更驚くのだろう。


「へぇ~。じゃあ、小学校の頃とかも仲良かったんですか? 確か二人は中学三年目の途中からの編入でしたよね」


「もっちろん。リアは周りからしてみれば冷たい性格だから友達俺しかいなかったから」


「ちょ、ちょっと!」


「リアは勉強は出来るけど小学校の頃は冷たくてね~。まさにThe・優等生って感じの性格だった。今となってはここまで丸くなったけど当時は……」


「その話はやめろっての!」


 まだまだ尖ってた頃(といっても小学生の時だが)の話をしようと思ったのだが、顔を真っ赤にして銃のバレルで後頭部を強打されるから仕方なく口を閉じる。

 その姿を見て仲の良さに後輩達は笑っていた。序列で言うなら同期でも権限的には隊長を殴っている様な物なのだが。


「……とまぁ、そんなこんなでここに来たって訳なの」


「でも、何故《ODA》に? 普通に小学校へ通えるのならわざわざ編入してまでこっちに来なくても、高卒後にしっかりとした機関に所属で来たんじゃ?」


「そ、それは……」


 しかし答えにくい質問が来てリアは咄嗟にこっちへ視線を向ける。その助け舟を了承すると慎重に言葉を選んで答えた。


「俺の目的は協約部門に入って活躍する事なんだ。それは朝言っただろ? その為の最短ルートがここで実績を集めて推薦されるって方式だから、編入してまでここに来たって訳。まぁここに来るまでにも色々とあったけどね」


「活躍? でも、協約部門は……」


「最年少でエリート部隊に所属して活躍する。それって超かっこいいじゃん?」


 指を鳴らしながらもお調子者の様に言うとアルフォードの言った言葉があまりにも幼稚にでも聞こえたのか、後輩の少女は笑い出した。


 そりゃかっこいいだなんて曖昧な理由で死ぬかも知れない組織に自ら志願して来たのだ。小学生のころから……いや、場合によっては幼稚園生の頃から《ODA》に世話になっていた後輩の少女からしてみれば笑うのも当然の事だったのだろう。

 と、少し悲観的に思っていた。


「やっぱり先輩は変わってますね。憧れてるから《ODA》に所属だなんて聞いたことありませんよ」


「だろうね。実際に上からの評価も変わり者って事になってるし」


「――でも、気持ちは分かります。私もそういうの少し憧れてますから」


「ほぉ、これは意外」


 その他の二人も見ると完全とまではいかないがそれ相応の憧れは持っているらしく頷いた。

 彼らとて中学二年生の子供。夢を見たいお年頃なのだろう。だからってその夢が間違っているとは誰も否定できないのだが。


「じゃあ、リア先輩も協約部門に憧れて来たんスか?」


「え? えっと、私は……」


 そしてリアはもう一度後輩からの質問に黙り込んでしまう。

 人には時として答えたくない質問というのも存在する。だからそれを知っているからこそリアの肩に手を回すと親指を立てながら言った。


「もっちろん! 俺達は小さい時からずっと同じ憧れを抱いてたからな!」


「へぇ~、本当に仲いいんスね!」


 そう言うと後輩達は今の時代では仲のいい幼馴染という属性に興味を示したようで目を輝かせていた。

 本当は違うがそれは仕方あるまい。本人が答えたくないなら無理をさせる必要もない。


 一通りの話が終わったところで弾倉を使い尽くしてしまった事に気づくとアルフォードは立ち上がって銃を肩にかけつつその場を後にした。


「あ、俺もうすぐ弾切れになるからちょっと買ってくる」


「わ、私も!」


 すると興味を示された事で質問攻めになるのが少し怖かったのかリアも立ち上がって後をついて来た。三人の後輩は手を振って見送るとそれぞれの話題に花を咲かせ始めた様だ。


 そんな風にして少し歩いていくと銃弾補給用の自動販売機に辿り着いて服に隠していたカードを見せる。するとデータベースへの照合を終わらせて銃弾を買える権限があると認識するとロックを解除した。

 銃弾自動販売機はこの街の至る所にある。街の治安が治安だから街中に散らばる防衛機関の関係者がすぐ弾を補充できる様に設置してあるのだ。とはいえ全て非殺傷弾ではあるが。

 需要と供給というヤツである。


 必要な分の銃弾を買うとすぐ使える様にカバンの中にへ“装着”する。リアも同じ様にして銃弾を買うが、その最中に口を開いた。


「……ありがと」


「何が?」


「あの質問から助けてくれて」


 らしくない事を言った彼女のふくらはぎを軽く蹴ると軽口で返す。


「何を今更。そんな事言うなら俺は“あの時”に助けてくれてありがとうって毎晩泣きながら言わなきゃいけないよ」


「…………」


 先に歩いていくと横まで駆け寄って来た彼女は歩幅を合わせる。

 こっちとしても大切な幼馴染だ。嫌な事を答えさせるのはあまり望ましくない。そういう事もあり軽めにフォローを入れる。


「お前の秘密を言い散らす様な真似はしないさ。なんたって俺達は幼馴染以前に相棒だからな」


「……でもいつかはバレるよね、私が魔眼保有者だって事」


「そりゃいつかはバレるだろ。驚いたり怒ったりで感情が昂った時に魔眼が出るクセを治さない限りな」


「うっ……」


 右目を押えつつもそう言った。それに関しても何か言ってあげればよかったのだが上手い言葉が見当たらずに短く言ってから無言が続く。


 ……魔眼は二千年前ではかなり高価な物で世界的希少価値な代物だった。魔力の乱れにより偶然生まれる奇跡の産物、とか言われていたっけ。当時の闇市場では最低価格でも億は超えていた気がする。

 この世界でもそれ程の希少さというのは歴史書で確認している。だが、時代の変化に伴い魔眼についての認識も変化したのだろう。ネットではアンチスレが立ち込めていたほどだった。


 だが頼れる先輩がいつまでも暗い話をしている訳にはいかない。幼馴染として、相棒としてアルフォードは話題を変えようとした。


「そういえばペペルド通り一番街の路地にあるスイーツ屋で今限定の――――」


 その瞬間だった。


「すまない、そこの《ODA》のお二人方。少しいいかい」


 男から声をかけられて振り返る。その先にいたのは茶髪を尖らせた黒コートを羽織る大男がいて、その口調と整った髭からダンディーな印象を受けた。そんな彼は声をかけたかと思いきやさっきの会話を盗み聞きしていた事を明かす。


「申し訳ない。さっき一階で話していた会話、聞こえていてね」


「――――」


 重心を後ろに変えてバックステップの準備をする。こんな野蛮な街だ。憧れる者は抹殺~なんて考える輩がいてもおかしくない。

 だが、彼は名刺を取り出すと礼儀正しく言う。その姿から敵意はないと知って名刺を受け取った。


「あぁ、警戒させてしまったのなら謝罪しよう。私はこういう者だ」


「え?」


 受け取った名刺には名前や電話番号が書かれていたのだが、何よりも右端に記載されていた所属組織に目が行った。

 【Rebuild】。その七文字に。


「《リビルド》って……まさかあの!?」


「そう。君達が噂するあの《リビルド》だ」


 どの《リビルド>なのかと言うと、世間では学園都市を裏で牛耳る秘密結社だとか、政府と正面で渡り合う実力を持つ暗部だとか、政府その物が作り出した超人機密部隊だとか、色々と学説的噂からオカルト的噂まで絶えない《リビルド》だ。

 存在しているが誰も知らない。つまり“ある”という事以外何も分からない。それが《リビルド》という組織の名だ。

 今目の前にいるのはそのトップ。


「そ、そんな大物が俺達みたいな一兵卒に一体何の様で……?」


 恐る恐る問いかけると彼は礼儀正しい割には鋭いその三白眼で見つめながらも口を開いた。


「少しプライバシーの侵害と問われるかもしれないが、私は人の気持ちを理解できる魔眼を持ち合わせていてね。君の話を聞いて、つい見てしまったのだ」


「…………!」


「魔眼……」


 二人して反応する。

 だが、次の瞬間かれはとんでもない事を言った。脳が完全にフリーズしてしまう程の事を。


「単刀直入に言おう。――君達を、構成員としてスカウトしたい」

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