思いは、言葉に。
ずーっとそばで見てきて、こんなに彼女の身体に触れたいと思ったのは、きっと、今日この時が初めてだろう。
ほんの数分前までは、本当にただのじゃれあいのつもりだった。いつものように明るい調子を装ってはスキンシップを図る。女の子同士なら、これくらいは友達でもやるでしょ、なんていうのは建前で、ずっと私のことを見ていて欲しいというのが本音だった。
少しでも私のことを気にかけて欲しい、私という存在が、彼女の人生にとって欠けてはならない存在になってほしい。そんな思いから、いたずらをしたりちょっかいをかけたりしていたのだ。
気が付けば彼女のことを床に押し倒していた。瞳を逸らそうとしているあかねの顔を見て、一気に気分が昂る。彼女の声を聞きたい。彼女を思い切り鳴かせたい。彼女の身体をしゃぶりつくしたい。その胸元に顔をうずめたい。そんな思いが膨れ上がるばかりだ。
「ど、どういう、つもり……?」
「どうもこうもないよ……。あかねが、可愛すぎるのがいけないんだ……」
「か、からかわないでって……」
必死に笑顔を取り繕うとしているのが分かる。そんな彼女のことなんかお構いなしに、私は彼女に言った。
「あかね……、私本気だよ。ずっとそばであかねを見てきて、ずっとこういうことしてみたいって、思ってたんだよ……。私は、あかねのことが好き。一人の女の子として、恋人として、あかねが好き。世界で誰よりもあかねのことが好き。今だってこのまま抱きしめたいし、抱きしめたままキスもしたいし舌をねじ込みたいし、脱がせたいって思ってる……。もう、我慢できないよ……」
胸が張り裂けそうな気分だった。自分でも相当気持ち悪いことを口にしたと思う。それでも、これは私の嘘偽りない本心からの言葉であり、はっきりと伝えたことに後悔はしていない。
「優香……」
彼女が目をつむる。もう、行くしかないんだ。どう思われたっていい。……いや、それでもやっぱり嫌われたくはない。でも、もう前みたいな関係のままで、悶々とした気持ちに蓋をしておくのも限界だった。覚悟を決めて、私は彼女の唇に、少しずつ近づいていく。止まるな、私。怖気づくな。
「んん……っ!」
あと一歩というところで、気持ちが、身体が、すんでのところで思いとどまる。怖気づくな、私。覚悟はできてるんじゃなかったのか。
再び彼女の唇へと近づこうとしたところを、彼女の両手で私の肩を掴まれ、止められてしまった。そして、彼女はこう口にしたのだった。
「やっぱりできない……」
「……え?」
「私、やっぱりさやかのことが気になるの!」
「……んっ!?」
聞き間違うのも無理があるレベルで、はっきりと私の名前を呼ばれた気がしました。私さやかと申しますが、二人の一部始終をドアの隙間からこっそり覗き見してました……、なんて言ったら、間違いなく殴り飛ばされそうな気がしてなりません。そんなことを考えるや否や、彼女はすぐに立ち上がって、こちらへと近づいてくるではありませんか! ヤバいヤバいヤバい本当に殴り飛ばされてしまいます! 体力には自信がありますが、体力以外は全く自信がありません……! 殴り合いが始まったらまず勝てる自信もありません! 神様お願いします暴力だけはやめてください小説的にもコンプラ的にも表現規制がかかって良くないので~!
バタン! ドアが開いて、目の前に彼女の姿が現れました! 現れてしまいました! ヤバい! 語彙力がない!
「さ、さやか!?」
「あ……あの、どなたさま……ですか?」
「ずっと教室の窓から眺めてて気になってたんです好きです付き合ってください!」
「えぇ~~~!?」
知らない女性から、出会って二秒で
「どうなんですか!?」
「せ、せめて自己紹介を……」
高校二年生女子、名前を、猫山あやかという。これはある恋心の小話。
「せめて鍵かっこを使って私と会話して欲しいかな~!」
……初めてこの思いに気づいたのは、教室でぼんやりと物思いに更けている時だった。窓ガラス越しに彼女と目が合う。あちらも私に気付いているようで、見つめ合う形となるが、結局私が根負けして、顔を下ろしてしまった。美しい女性だった。私は世間一般では扱えない、そういう思いを、抱えてしまったらしい。
「あ、あの~~~! 聞こえてます? せめて私とお話を~……」
気が付けば行く先々に彼女を見つけてしまう。私は心底困った。思いに蓋をするかのように、私は彼女を自分の視界から意図的に避けようとした。
「その辺にしないといろんな方面から怒られるから一旦やめようか!」
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