第五話 名も無き末裔 case25

 夜の道を、SATの装甲人員輸送車両が疾走していた。

 万が一のため、詰所で出動準備を終え、現場付近に待機していたのだ。それが緊急要請を受けた指揮官の指令を受け、急遽現場に投入されたのだ。

 街灯の光を頼りに、ひたすら道を正確なドライビングテクニックで走行する。人気の少なくなった高速道路を渡り、国道を突っ走る。


 そしてついに、人払いのために警官が待機していた交差点を通り抜けると、現場の工場に続く、三叉路の合流地点へ向かった。三叉路を完全に封鎖していた警官隊が殺害されていることを確認し、隊員達は動揺しつつも、気持ちを沈め、ひたすらこれから待ち受ける戦闘への集中を高めていた。


「こちらAアルファ班。まもなく現場に到着する……!?」


 やがて、合流地点に差し掛かる直前でドライバーの隊員が急ブレーキをかけた。


 走行する車両の前に、急に人影が音も無く、静かに姿を現したのだ。

 助手席で警戒していた分隊長が素早く待機所本部に連絡を入れた。


『こちらAアルファ班、指令本部に通達。現場付近のポイントCシー-3にて不審な人物を発見』


 装着したバリスティックバイザー付きヘルメットに黒いアサルトスーツ、バリスティックシールド、そして銃器などの各種十八キロ以上の装備を身に着けながらも、事態の異常を察した隊員達が訓練された動きで道路に降り立ち、隊列を組む。

 闇の中で淡く輝く肌は白く、髪は金色。顔の彫りも深い。身長は百六十センチ弱ほどだろうか。無表情に後ろ手を組んでこちらを見つめている。カーキ色のローブのようなものを服の上から着込んでいた。


「何者だ?答えろ!」


 先頭に立った隊員がフラッシュライト付きのM4カービンの銃口を下に向けつつ、いつでも跳ね上げられるように構える。

 ローブの隙間から、少女が着こむ服が垣間見える。彼女は、彼らSAT隊員達が身につけている戦闘服と、用途が同じと思われる暗い色の迷彩柄の戦闘服を身につけていた。足には黒い闇に紛れるような軍用ブーツ。そして 、


「…………!」


 その背後には隠しきれないほどの血と切り刻まれた死体が転がっていた。よく見ると奥に見えるパトカーは窓ガラスが割れ、車体が斜めに引き裂かれている。合流地点で現場付近を固めていた機動隊員と、警備の所轄署の警官達だった。


「総員警戒!」


 素早く隊員達は散開し、一斉に銃身を上げて少女に狙いをつけた。


『来るのが遅かったわね。でも、早く来ても同じよね』


 異国の言葉で、少女が言った。


『死ぬのが少し遅くなるだけだわ』


 少女が後ろ手に隠し持っていたものを前に出して、構えた。二本の長いブレード。闇の中で、白銀の抜き身が光った。それと同時に、破壊されたパトカーの陰から、そしてその近くに停車していたカーキ色のバンの近くから、武装した男達が姿を現した。手に手に自動小銃を構えている。


「敵確認!撃ち方始め!」


 少女の姿に僅かに躊躇うものもあったが、号令を合図に引鉄が引かれ、一斉に銃撃が開始される。


Aアルファ班、交戦開始!本部へ通達!Aアルファ班!敵と交戦開始!武装した兵士のような男達もいる!繰り返す……」


 銃撃の合間に、隊員の一人が本部に状況を伝えた。

 金髪の少女は雨のような銃撃を伏せて回避し、地を素早く這い進み肉薄する。一番先頭にいた隊員の足首から先を切り落とし、崩れた隊員の喉を引き裂いて絶命させる。闇の中に血飛沫が舞った。上着の裾には、ガンベルトに括りつけられた刃物が何本も収納されていた。


 まるで紙をハサミで切るかの如く容易く、隊員達の身体が切断されていく。照準を合わせた隊員の一人が、ブレードの刀身が振動しオーラのようにその周りの空気が波打っていることに気がついた。が、すぐに両の眼球ごと頭を切り裂かれてしまった。


 人員輸送車両の装甲で、兵士達の援護射撃を防いでいた一人が、飛び出しながら正確な三点バースト射撃で、兵士の一人の胸の真ん中を撃ち抜いた。その援護を受けながら、二人の隊員が走り出す。

 一人がフラッシュバンを兵士が隠れている物陰に投げ込み、もう一人が再び銃を連射して、轟音によろめいた兵士を射殺した。

 二人の味方を減らされても、迷彩服の集団は動揺する様子がない。

 少女を援護する兵士が二人、フルオートで銃弾を放ち、弾幕を張る。隊員達が反撃しながらも、遮蔽に飛び込んだ。


 彼女はフラッシュバンを投げつけた隊員の銃撃を、垂直に跳躍してかわし、手榴弾を腰のガンベルトから外して投げつけた。爆発音。破片が飛び散る。バリスティックシールドを立てて、銃弾を防御していた隊員が、衝撃によろめいた。

 その隙に一気に距離を詰めていく。ブレードを振り回し、煙を切り裂きながら突き進むと、伏せていた隊員が起き上がろうとしたところをブレードで首を切断する。派手に血が噴き出した。


「チクショウ!」


 殺された隊員の被っていたヘルメットが吹き飛び、それが体に当たって怯んだ隊員を首なし死体ごとまとめて真っ二つにする。爆発するような勢いで噴き出した血が、落ちていたヘルメットの中に降り注ぎ、たちまち溢れ出た。

 援護射撃を受けながら銃を連射して、移動する隊員に、味方の防弾加工されたピックアップトラックのドアを軽く蹴り、三角飛びで襲い掛かり、上半身を切断した。下半身が痙攣しながら倒れる。その隣にいたペアの隊員が、ショックで一瞬棒立ちになった。それを援護していた兵士がバースト射撃で頭を撃ち抜く。攻撃は止むことなく、凶弾がSAT隊員達に襲いかかった。


「本部!戦況は……」


 一瞬で距離を詰められ驚愕する隊員の腹部に掌底を打ち込むと、腹の周囲の空気が歪んだ。骨がバキバキと折れる音が続き、掌底を受けた隊員の身体のあちこちから血が噴き出した。


「ががががががががががががががががががががが!」


 その後ろで援護しようと銃を構えた隊員三名が同時に銃を構えた。一斉射撃しながら一人が絶叫する。


「クソがああああああああああああああああ!」


 叫びが続く。銃撃は止まない。少女はそれらをすべて走行しながら躱し、あっという間にまた肉薄する。そしてブレードを閃かせ、胴体を真っ二つに切断、また時には輪切りにしながらも着実に人員を削っていく。遮蔽に飛び込もうとした隊員が兵士の追撃で射殺された。追加で手榴弾が投擲される。脚を負傷して動けなくなった隊員が飛び散る破片をまともに食らって、全身を真っ赤に染めて絶命した。


 再びフラッシュバンが投げつけられるも、大きく飛び上がって回避した。光が飛び散り、大きな音を立てた。

 その音に怯むこと無く空中でバク転。

 刃が空中で煌めき、先ほど閃光手榴弾を投擲した隊員がまた命を落とした。更に次の獲物を。ブレードの動きに気を取られた隊員達がまた兵士に射殺されていく。


 五分と立たぬ間に、SAT隊員達は手早く解体され、完膚なきまでに全滅させられた。

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