甘い海

終わらない旅

彼女に出会ったのは

思い出せないくらい幼い頃

塩素の匂い

反射する水面

ゴーグル越しに見える世界

見慣れたペースクロック

有線から聴こえる流行りの曲

どこにも馴染める気がしなかった

みんなが他人みたいで

小さな箱の中に無理やり押し込まれて

毎日息がしづらかった

私気難しかったと思う

なのに手を取ってくれてありがとう

部活終わりに寄り道したコンビニ

学校の帰り見つけた近道

百均で買ったお揃いのキーホルダー

壁に描いた落書き

こっそり好きな人を打ち明けた交換日記

あれから十年が経って

彼女は私の隣で笑っていて

さらに十年が経って

彼女は男の人の隣で笑っている

白いドレスに身を包んで

しゃんと立つ彼女があまりに綺麗で

微笑む横顔は昔と同じようで

やっぱりどこか違っていて

私の知らない彼女の姿が

すこし寂しくて悔しくて

だけどそんな彼女の姿に

もらえる幸せの方がずっと多かった

かつて私の手を取ってくれた

彼女の柔らかい手を

今は優しげな男の人が

大事そうに握っている

終わらない旅を

私だって生きよう

あなたにもらった温もりを

いつか誰かに返せるように