人形


時間が止まったみたいな部屋で

ほこりがキラキラと舞う

キミは遠くを見つめながら

冷えた紅茶を啜ってる


「庭の日々草、見た?

 綺麗な花が咲いてたよ」


キミがちゃんとここにいることを確かめたくて

ボクはどうでもいい質問を繰り返す


「日々草の花言葉、知ってる?

 "楽しい思い出" だってさ」


そう言うと、キミは目を見開いて

勢いよくボクを見た

いつぶりか分からないボクを見るその目

あまりの美しさに吸い込まれそうになる


「そんなもの、一つも無い」


キミは鼻だけで笑った

心底嫌悪するように


「これから作ろうよ」

「……」


人形のように佇むキミが

朝ドラの最終回で泣いたり

深夜に食べるラーメンが美味しいねって笑ったり

そんなふうになって欲しかった


「これから作れるよ」


ボクは笑う

キミは少し泣きそうな顔をする

これから作れるよ。

さっきよりも大きな声で言った


「聞こえてるよバカ」


キミは少し笑う


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