シャッターを切る僕に

「俺、今絶対変な顔してたよな」と

君が笑った


どんな顔でも君は可愛いし

存在そのものが愛おしいよ

喉まで出かかった言葉を

なんとか飲み込んだ


「男二人で行く遊園地なんて

肩身が狭いと思ってたけど

意外と楽しいな」


コーヒーカップが回り出すまでの数秒間に

君が笑って言ったこと

昨日のことのように思い出す


長い前髪が風になびいて

切れ長の目が顔を出す


君はこの世の美しいもの全て

詰め込んだみたいな光だ


意外と激しい動きに驚きながら

振り落とされないようハンドルを握る

必死な君が可笑しくて


僕だけがこの顔を知っていればいいのにと

願った



「これ、忘れられない日になるな」


閉園のアナウンスに掻き消されそうな声で

君がぽつりと呟いた


「忘れられないようにしようと思ったからね」


そう返す僕に

君はなぜか、ありがとうと微笑んだ


あの頃の

時間を切り取って

君ごと切り取って

大事に大事に、心の額縁に収めた


だけどそれだけじゃ足りないから


早く会いに来てよ。

何度だって行こうよ。

どこへだって行けるよ。


僕が連れ出してあげたかった

哀しみのない世界に君を


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