中学生はみんな、ジャンプキャラ


 長女の夏コンが終わったんです。目指していた上位大会へは、一歩届きませんでした。そう。一歩です。去年もそうでした。あと一歩。けれど、とてつもなく大きな一歩。どうしたらその一歩が乗り越えられるでしょうか。そこは、本気で考えていかなくてはいけないと。来年の最後の夏コンでまた、泣くことになるでしょう。


 小学校時代から、数々のコンクールを経験してきた娘。敗北を味わっても、いつもケロっとしていて、「仕方ないっしょ」って感じでしたのに。今回は初めて涙を見せました。


 結果発表の時、一緒にいたんです。結果発表前だというのに、常連校のところにはカメラマンがスタンバっていて、感激のシーンをカメラに収めようと待機中。一方の娘の学校のところには、もちろん誰もいませーん。それも面白くないわけ。


 結果発表後も、隣で歓喜の声を上げるライバルをしらっとした目で見ている娘たち。悔しくて、視線を見合わせて押し黙っています。


 音楽の世界はこういうことが頻繁に起こります。私も高校時代に、音楽科におりましたからよくわかります。定期テストで上位の成績を収めた子だけが、定期演奏会で演奏できるんです。練習嫌いで、成績もよくなかった私は、一度も定期演奏会で弾くことはありませんでした。


 定期演奏会に選ばれた友人たちは、先生から特別レッスンを受けます。自分の弾きたい曲も選べます。すごく大変そうだけど、キラキラして見えました。けど、当時の私は「別にいいや。下手だし。むしろ定期演奏会でなんて、ひどい演奏になるかも。選ばれなくてよかった~」って思っていたのです。


 それだけ真面目じゃなったし、真摯に向き合ってこなかった。だから上達もしなかった。それが私の音楽人生だったんだなって、改めて知らされました。


 その日は、夕飯も食べず、口数もすくなく就寝した娘。ジャンプのキャラみたいですね。圧倒的な強敵が現れて、叩きのめされる。仲間を失い、どん底に叩き落されるのです。けれども、そこからの這い上がりがすごいわけです。ざまあ展開じゃないですけれども、ジャンプのキャラたちは、何度も何度も立ち向かうわけです。


 今回は泣いたし。どこくらいで立ちなおるのか心配しておりましたが。翌日、学校から帰ってくると「お母さん、お母さん」といつも通りの娘。まさか、あのくやしさを忘れたんじゃないだろうな……と心配しましたが、そうではない様子。いつもは死んだ魚の目みたいな瞳には「や・る・ぞ」って書いてある(笑)。


 結果の内訳を聞いてきたそうです。一つ上の学校とは僅差。来年はその学校を射程圏内に入れて頑張ると、友人たちと作戦会議をしたそうです。それよりも前に、アンサンブルコンテストが控えています。友人関係に捉われて出し惜しみするな、と言い聞かせました。


 客観的に見て、うまい子だけで固めていかないと。今回も負けるぞ。なにせ、去年は、アンサンブルで歴代最低の結果をたたき出した娘たち。気を引き締めないと。注目されて、恥ずかしい結果を出しちゃいかんところまで来ているのです。


 いつものらりくらりだった彼女ですが、先輩たちの涙を二度も見て、本気になってきたみたい。成長したな。本当に母は嬉しいです。


 来年、ジャンプキャラのように、自分たちの限界にチャレンジしてほしいと思います。いやあ、アオハルですね。もうそんな時期を過ぎた母はうらやましく思いつつ、影ながら見守ります。


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