第26話 皇帝倒れる 3

 今までなかった。2人の流れに、それぞれの頭の中或いは心の中が流れ込んできた。

 部族の中では、良家の令嬢として生まれ、豊かとは言えないが、物質的にも、精神的にも不自由のない生活を送った。魔法、剣、学問、どれをとっても才能があり、努力でどんどん伸びる、周囲からの期待が高まる一方であり、ますます輝く美貌。全てが順調だった。身分も高く、それでいて、傲慢になることもなく…。最初の挫折感は騎士として軍に入った時だった。その時になって、自分の才能、能力が決して断トツに優れているわけではないことに気づかされた。だが、それはすぐには立ち直り、いっそうの努力をして、総騎士団長の副官、異例の昇進という結果を手にした。その地位に満足せず、努力と勤勉…、その日々が突然の逮捕。上司の連座だった。何が原因?彼女自身、彼女の周囲には、帝国への不満、自立への願望はあるが、たいしたことではない、形をとったものではない。彼女の軍の派閥はどうか?反帝国などではない。単なる部族長=王位継承争いか?とまできたところ、ディオゲネスはパイステラの記憶の痕跡、彼女も忘れている、気づいていない、認識していないものを見た、聞いた、ような記憶を見つけた。勝利者の現部族長?他部族のハイエルフ?異国、西方?南方の人間?ハイエルフの勇者ってなんだ?

“パイステラ。お前の部族、安閑としてられないな。皇帝が亡くなられたら…。”

「主様?」

「パイステラ?」

 気がつくと、夢から覚めたように、互いに見つめ合っていた。そのまま、唇を重ねて…。ビクビクと体を震わせながら、快感の余韻をともに共有しながら、“私の部族?奴隷の私にはもうないのよ。”その彼女の思いを感じる彼は、坐位で彼女を抱きしめ続けるしかなかった。

 その彼の、ディオゲネスの思考、記憶、心か何かも、パイステラに流れ込んだ。やはり何となく分かるというものではない形で。彼の身勝手とも言える自分だけは死にたくないという気持ち、自分達、自分への思い、僅かな理想…。うっとりとして、抱かれるままになるしかなかった。“盾にして生きなよ。”

 翌日から、ディオゲネスとパイステラは、いつもと変わらぬ日常を過ごそうと努力しようとした。朝、既に日の出が遅くなっているため、あかるくなる前に起き、朝食を取り、まずは趣味の菜園の世話、そして、剣や銃等の訓練、その後は行政官達と政務。それをこなすディオゲネスの元には、パイステラが傍らにいる。昼食後、もちろん2人でである。銃や剣、弓等を自ら手入れしたり、道具の作成、それを直属の職人と打ち合わせをした後、再び、行政官達と政務。訴え等も聞き、家政の報告、領内の治安状況などの報告も受ける。もちろんパイステラは、ディオゲネスの傍らにいる。それが終わると、菜園の世話。もうそこからは、ディオゲネスの私人としての時間となるので、というかやはりパイステラが傍らにいるというより、ほとんど2人だけの時間になる。

 あの日の夜、2人が寝室に入った時には、ボスポロサが既に全裸でベッドの上にいた。風呂から上がったばかりの状態だった。

「いよいよ、私達が、頑張らなければならないんですね。」

と彼女は前向きだった。彼直属のの奴隷騎士団と言うべきかも4人のうちで一番最初に、秘密を告げられたということで、彼女は嬉しくてしかたがないという感じだった。単に、彼と個室で話しをすることができる、すなわち抱かれる順番なのだが。

「しばらく、黙っているんですね、分かりました。あの聖騎士、怪しいと思っていたんです。」

と嬉しそうにしていたので、二人がかりで口を酸っぱくして注意しなければならなかった。

「もう、二人して…分かりましたとも、わかりました!…てか、パイステラ、私の脚を広げないでよ!主様と一緒になって。」

「良いじゃないの?一応、見かけは美脚なんだから、主様によく見てもらっているんじゃない?」

 彼女の両脚は、不自由だったが、美しい脚は健在だった。“美しい両脚が健在なんて…。”パイステラは、そんな思いが心をかすめたので、執拗に彼女を弄んだ。

 そのボスポロサはというと、ディオゲネスに、両脚を目一杯広げられ、その美しさを賛美されて一体となって、激しく動き、喘ぎながらも、

「パイステラと違って、私なんか傷だらけで醜くて…。」

と度々口にした。

 グッタリして、その両脚を力なく伸ばしているボスポロサの横で、仰向けになった自分の上で動いているパイステラに、ディオゲネスが、

「私のいない間の彼女とヒケシアの監視を頼む。」

言うと、喘ぎながらも、

「わ、分かっています。」

と答えた。

 翌々日、西の森の別邸で、

「あいつ!あの日、なんか変だと、余裕の、優越感の目をしていたと思ったら~!」

 メランタが、四つん這いになって腰を動かし、顔を左右にふり、喘ぎながら悪態をついた。

「しかたないでしょう。順番が、あるんですから。」

 マラが手探りで、彼女をまさぐり始めた時には、腕で体を支えられなくなり、うつ伏せになってディオゲネスに抱えられる状態で、もう終わりそうだった。

 「さあさあ、早く終わっちゃいなさい。」

 その直後に、叫び声をあげて動かなくなった。

「ようやく私ですね?」

 メランタ、アステュアナ、アルケシアがグッタリして横たわっているのを横目で見ながら、仰向けになってディオゲネを誘った。彼は、3人に比べると小柄なマラを、舌を十分這わせ、手でまさぐってから一体になった。温和しい顔、落ち着いた表情をつねに浮かべている彼女が、完全に官能に身を任せていた。彼女から、彼女が奴隷になるまでの記憶、思い、原因となる政争の情景、そして、最近森に入るハイエルフに感じるものがディオゲネスの中に流れ込んできた。ハイエルフの聖女、神官、巫女的な地位にいた、1人に過ぎなかった彼女が、どうして政争に巻き込まれたのか、取って代わった女の後ろに浮かぶような存在が見えた、ような気がした。

「わ、私達もお側に行きます!」

と騒いだのは、砦にいるバニア、ムナ、セスアだった。その彼女をダウンさせて、夜風に当たっていたディオゲネスに、

「陛下が…、私がこの歳ですからな…。」

 砦の司令官の老騎士が声をかけてきた。そのまま、2人は声がなかった。

 帰りのコースでは、東の森のネイラのもとを訪れた。

「そうですか、マラが。」

とネイラもマラに同感だと言った。その彼女が、終わり満足そうに寝息を立てている時に、

「まあ、主様は、殺されるほどの価値はないんだけどねえ。でも、邪魔だろうねえ。守ってやるさ、あたいら奴隷だからね。」

「ありがたく思いなさいな。あたいらも、ありがたく思っているからさ、安心しな。」

 呼び寄せたステネサ、パノストラにディオゲネスは悪態のような言葉を

「酷い言い方だな。」

と彼女らがグッタリさせてからディオゲネスは呟いた。2人からの最近の取引などでのハイエルフの様子などの情報を合わせて、彼の疑念は形をはっきりとさせた。それをまとめる前に、メランタ以下3人が飛びついてきた、もちろん全裸で。


 

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