第25話 皇帝倒れる 2

「わ、私…けっ、結婚なんかしません!」

「結婚式なんか中止します!」

「坊ちゃまと死にます!」

 猫耳、兎耳、人間娘は、予想通りの反応を示した。侍女長は、使用人の内、古くからの、かつ、執事、家令、料理長など、とりまとめる立場の者を集めたが、彼女達は結婚式も数日後であり、早いうちに納得させておく必要があると判断したからだった。

「お前達までいなくなったら、私がもしもの時、天国行きを祈ってくれる者がいなくなるだろう。それにだ、母上はお前達の幸せをねがっていたのだ。お前達を犠牲にしては、私は親不孝者になってしまうじゃないか。私は、ハイエルフ奴隷達を、盾にして生き延びる、彼女らはそのための奴隷なんだ。」

と言って聞かせた。既に婚約者とラブラブの3人は、そこまで言われると、自分もともにと押し切れなくなった。彼は、彼女らを説得すると、今後の指示を伝えた。

 彼らが集まる部屋の外では、

「おや、今日は仲間外れか?結局は奴隷だということだな。」

 ヒケシアが、意地悪な笑みを浮かべてパイステラを言った。

「結婚式のサプライズなどを相談しておられるだろう。それより、なんであなたがこんなところにいるのですか?」

 パイステラは、疑わしいという表情を浮かべて彼女らにを見た。

「館の警備だ。いつもまわっている。」

“この女は、何も知らない、今は。”何となく、パイステラには分かるような気がした。ヒケシアは、その点、単純だったからだ。顔に出るのだ、直ぐに。“よき騎士ではあるけどね。”急にディオゲネスが、古くからの使用人達を集めて話しをしていることに、何かあるかもしれないと、一応調べに来たというところのように見えた。実際、そうだった。

「ディオゲネス公は、ほんとうに奴隷が好きなのだな。もともと奴隷の女達の結婚式にあんなに熱心になって。」

 軽蔑するように言ってから、背を向けて行ってしまった。

 その後のディオゲネスとパイステラは、いつものように過ごすことになった。

 夕食を向かい合ってとり、風呂に2人で入り、しばらく時間を過ごしてから、寝室に入った。

 その間、

「他には誰に知らせますか?」

「お前達、ハイエルフ達全員に知らせておく必要があるな。しかし、全員を招集すると不自然だしな。」

「結婚式の時、全員集まりますから、その時でいいのでは、ありませか?」

「そうだな。しかし、何時動き出すかも分からないから、早い内にメランタ達には話した方がいいだろう。」

「ヒケシアを見張らないといけませんし…。それに、最初の盾ですからね。死んでも盾になってではありませんけど。」

 皮肉っぽい目で言った。が直ぐに表情を戻し、

「彼女らは、館の中ですから、呼んで話されれば宜しいのではないですか?まとめて夜伽でも宜しいのでは?」

 複雑で、意地悪そうに言った。彼女らは、ディオゲネスが外に出ない時は、1人づつ夜伽をさせていた、パイステラと一緒に。もちろん毎日ではない。

「明日は、ボスポロサか。」 

「彼女から、他の者に伝えさせればいいのでは、ありませか?」

「ボスポロサが、皆に伝えている時に聞かれる可能性がある。」

“ああ、確かに。”彼女らは、ディオゲネスの寝室に入る以外の時は、周囲には人間他の耳目がある時が多い。

 ならば1人づつでいいのではないか、と思うのだが、彼は早く伝えたい、体制固めを早くしたいからだ。

「それなら…、きゃ!こんな時に!」

 浴室で、彼女の体を洗っているはずの彼の手がいやらしい動きをしたのだ。抗議も意に介さない彼だったので、彼女は我慢しながら、

「森の共有地のことと砦から要望なりが出てますから、それを直接聞きに行くということででれば、まとめて伝えられますし、マラやバニア達にも伝えられますよ。これなら、不自然ではないでしょう?」

 外に出た時に、まとめて夜伽をさせている。

「そうだな。砦の爺達にも伝えられるな。」

 彼は、満足気に頷いた。爺とは、彼についてきた老騎士の1人で、砦の司令官となっている男のことである。

 ざっと伝える、指示する日程を計画し終わって寝室に入ると、彼は彼女に全裸で、ベッドの上で対面するように座わらせ、自分は彼女の体を舐めるように見つめた。

「こんな醜い体が、どうだというのですか?3人の美しい新鮮な体の方がよろしいのに。彼女らの初めてを堪能すればよかったのではありませんか?」

 右手の平の上に光る玉を浮かばせ、左手で彼女の胸を揉んでいるディオゲネスは、

「初めて、などに興味はない。良ければいいのだ。せっかく、美しいお前を、鑑賞しているのだ、そんなことは言うな。」

 そんな言葉を単純に喜ぶパイステラはなかったし、“確かに、あの3人に迫られると心が動くな。”と言うのが、ディオゲネスの偽らざる本心だった。

「それはともかく、もう一度尋ねるが、お前が奴隷となった政争のことだが、お前の一族或いは上司は、反帝国側だったのか?」

 彼女は、嫌な顔をした。

「もう何回かお答えしましたし、答えなくても、主様は触れていれば分かるのでしょう?」

 その言葉に、彼は少しの間黙ったが、直ぐに、

「何となく、お前の気持ちが分かるだけだ。お前の希望に満ちたり日々の気持ち、奴隷となった時の絶望感などがわかる。だが、そこまでだ。お互いわかるだろう?」

“主様の気持ち…流れ込んでくる、感じる…。”

 彼女は、あらためて、そのことで口を開いた。その時だった。

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