第24話 皇帝倒れる
「使用人3人の結婚式の予定ですが…?どうなされました、ご主人様?」
母の代から、ディオゲネスとその母に仕え、彼の幼なじみのような関係でもあり、彼の失脚、都落ち後もついて来た、解放奴隷の女使用人3人、猫耳、兎耳、純人間の3人が結婚式を、一週間後に挙げることになっている。彼が彼女らに見合いの時点から、積極的に進め、親代わりで婚資は出し、式の費用も彼持ちにしていた。彼らしく費用を抑えるのに、あれこれしていたが、彼にしては、式は大盤振る舞いにしようとしていた。パイステラは、少し面白くなかったが、顔には出さず彼の指示を聞いていた。が、突然、彼の口が止まった。急ぎの手紙の配達、急ぎの手紙を運ぶ、料金の高い、業者が手紙を持ってきたのだが、それを読んでであった。口が止まっただけではなく、完全に固まったという表現が適当な状態になり、顔色がみるみる内に蒼白に変わっていった。
「どうなさったのですか?何の手紙だったのですか?」
彼女の問いに、彼は手紙を彼女に手渡した。その手は、震えていた。戸惑いながらも受け取って、片手ながら器用にそれを開くと、花の香りが鼻をくすぐった。上質な紙には、簡単な、僅か数行の文章が書かれているだけだった。
「陛下がお倒れになられたらしいよ。かなりひどいらしいよ。それから、あの女ハイエルフ聖騎士の娘には気をつけなよ。 殿下の初めての女より」
パイステラは自分も、血の気が引いていくのを感じた。数ヶ月前は、あんなに元気だったのに、何が起きたのか、と思った。
「どうしましょうか?結婚式は、ち、中止に…。」
彼女が唇を震えながらも言おうとするのを、
「ま、待ってくれ!落ち着かせて、考えさせてくれ!」
と声を荒立たせて止めた。
彼女は、初めて見る、主人の狼狽えた状態に唖然とした。彼は、視線すら定まらず、完全にどうしたらいいのか分からないという顔だった。
「殿下!まず、お、お茶をお飲み下さい。」
慌てて、彼女は立ち上がり、そばのポットを手に取り、彼の前にある、既に空になったカップに、茶を注いだ。少しあふれてしまったが、それに構わず、
「と、とにかく、お茶を!そ、そして、落ち着かれることが肝要です。」
侍女長から、彼が、まずは茶を飲んでから考えるという慣習を、母親から受け継いでいると口を酸っぱくして言われていたからだ。
「あ、あ、そうだな。」
震える手で、カップの中味をこぼしながらも、カップを口に運んだ。香りを嗅ぎ、一口、二口飲むて、大きく息をした。しばらくすると、視線は定まり、かなり落ち着いたように見えた。
「いや、正式な知らせを受けてた訳ではないから、変更する必要はあるまい。多分、正式な、いや内々の発表はかなり後、一月くらい先だろう。」
「では、お見舞いには駆けつけないということですか?」
パイステラも、ようやく先のことを考えることができるようになった。
「ああ、あくまで知らないわけだからな。だが、後宮や国の上層部、大貴族などは知っているだろう。いや、一部は知らないかもしれないし、知っていて知らない振りをするかもしれない。私の情報役が、知らせてこないくらいだから。」
彼は、何人か宮廷内に協力者というか、連絡役又は情報役を持っていた。
“あの娼婦のおばさんが、どうして知っているのよ?”そう思ったが、主が疑っていないのを見ると、少し空恐ろしくなった。“主様の初めて…か。”
「パイステラ。こちらに来い。」
その言葉に従って傍まで来ると、いきなり手を引いて、自分の膝の上に座らせて、抱きしめてきた。
「な、何を…まだ…?」
しかし、彼の不安に満ち、思い詰めたような顔を見ると、言葉が出なくなった。
「ま、まだ動かない…?まだ、父上が生きているし…やはり亡くなって…崩御されてから…早い方がいい…やはりさすがに…可能性はある…可能性があれば備えた方がいいか…かえっていらぬ疑いを故意に…どうする?」
考えが口から出てしまっている、心の中で、頭の中で納めきれないという感じだった。パイステラは、思わず彼の手を自分の胸と下半身に導いた。そして、首を曲げて、目を半分閉じ、唇を半ばまで開けた。それに誘われて、ディオゲネスの手は動き、唇は重ねられ、舌が絡みついた。喘ぎ声を上げながらも口づけが続いた。
ようやく唇を離すと、
「あ、主様。私を盾にして逃げ延びるのですよ!」
「あ、ああ、そうだな。…一つづつ進めるしかないな。最後の盾となるお前がいるのだからな。」
「なんですか、それ?意味がつながりませんよ?」
荒い息がおさまっていなかったが、2人はまた、唇を重ねた。
「申し訳ありません。王領地との境問題の件…け…失礼しましたー!」
行政官の1人が部屋に入ってきてきたが、2人の姿を見て慌てて、ドアを閉め立ち去ってしまった。
「あ、ま…違うの…。」
パイステラの言葉は、ディオゲネスの指の動きで、ちゃんと出てこなかった。
「も、もう、よ、よして下さい!」
「そう言いながら、胸に手を押しつけ、股で挟んで動かないようにしているのは誰だ?」
「もう~。」
そのまま2人は止まらなくなった。パイステラは、片手で上衣をはだけ、ディオゲネスが彼女の下を脱がせるのを助けるために体を動かし、彼も素早く下を脱いだ。そして、慌ただしく一体になって、2人は動き出し、パイステラは喘ぎ声を抑えることがまったく出来なくなった。そして、何度も体をビクビクとさせて、パイステラがグッタリしたところで、侍女長が入ってきた。すっかり呆れて、小言をたっぷり言ってやろうという顔だったが、
「婆や。主だった皆を集めてくれ。重要な話しがある。」
とパイステラを抱きながら立ち上がったディオゲネスを見て、はっとした表情で背を向けると駆けだした。彼が、子供の頃のような言い方をするのは、よほどのこと、自分を頼りにしている時だと分かっていたからだ。
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