第23話 後宮事情

「あんたが、エルフ好きとは知らなかったよ。でも、エルフ臭からはたまには離れたいだろう?私の匂いが懐かしいんじゃないかい?あらあら、そこの可愛いエルフさん、睨まないでおくれよ。嫉妬に狂った顔をしたら、せっかくの可愛い顔が台無しだよ。」

 入ってきた女は、いきなりディオゲネスに抱きついてきた。上等だが、落ち着いた色のドレスを着た、30歳前後の金髪の妖艶な美人であった。それがあまりにも、自然な動きで、当の女も当然な表情であったので、パイステラは間に入ることすらできなかった。さらに、女は彼の唇に唇を重ね、舌で嘗め回していた。声も出なくなっていた彼女の助けがないと判断したディオゲネスは、彼女の手を巧みに外し、体を離して、

「私の可愛い奴隷達を揶揄わないでくれないかな?私は、良い主でいたいんだよ。すっかり田舎者に染まって、君のいい匂いよりハイエルフ臭に染まってしまったんだ。」

 思わせぶりに微笑んだ。

「田舎者に、都の噂を手ほどきしてくれないか?」

 女は、あっけらからんと笑い出し、

「田舎者2人に、都のことを手ほどきしてさし上げましょうか?」

と言われる前にソファーに座り、

「さあ、殿下も座って下さいな。立っていられたら、話しもできないじゃないか。そこの、エルフの、ハイエルフのお嬢さんもだよ。」

と自分の家で、自分が主であるかのような口ぶりで、パイステラは唖然としたが、主が笑い顔で彼女の手を取ったので、それに従って座ることになった。女は、立て板に水といった調子で話し始めた。

「母上亡き後、後宮内の争いは、そんなに激しくなったのか。」

 ディオゲネスは、うなりながら、長椅子に背を押しつけるようにして、顔は天井を向け、難しい顔をしていた。

「陛下も、お元気なことさあねえ。3人も若い妃を寵愛して…。その結果だから、自業自得だけどね。3人とも争って、競って、それに色々とでドロドロで、後宮内で終わることではなくなってきたね。さらにね、年頃の子供を持つ妃達も加わってさ、年増の色気で、これまた頑張っているよ、まあ、いい歳でさ…、陛下もまんざらでもないようでさ、本当に元気なことだよ。次期皇帝の座も関係しているからね。あんたの母上という重しがなくなって、予想以上に泥沼の争いになっているよ。そういう殿下は大丈夫かい?陛下以上に、お盛んなようだけど?」

 パイステラのこめかみがピクピクした。彼女の手がいたわるように彼のあごを撫ぜたからだ。ディオゲネスは、彼女の手を軽く握って、自分の体から離して、

「だから、ハイエルフ女奴隷達だけで、心から満足しているんだよ。他に目移りする余裕はないよ。」

 女は、軽く笑った。

「それでは、殿下が私を前にして我慢できなくなると、そこのハイエルフの娘さんが怖いから、もらえるものはもらったから、帰るとするかね?」

 彼女は、後宮事情だけでなく、色々な情報を持ってきた。それが分かっていたので、直ぐに彼は報酬を渡していた。

「その前に、私とパイステラを帝都の案内をしてもらえないか?」

「へえ~。」

「は?」

 彼はパイステラの方を、ニコニコしながら見て、

「彼女だけが、私に従っていて、帝都見学に行けなかったのでね。時間も少ないので、効率よくまわりたいのでね。」

 女は大笑いをして、同意した。

「はあ~?」

 パイステラは唖然とした顔だったが、仕方がないという顔に変わった。

 3人で出かけることになったが、馬車は女の馬車を使ったが、護衛がパイステラでは、不十分と彼の家臣達からの反対が出たが、その時に聖騎士ヒケシアが、皇太子との元から帰ってきたところだった。ヒケシアを護衛として同行させることで出発することになった。

 結果として、彼らは効率的にまわることが出来た。ディオゲネスは、女ものを売る店に行くと、パイステラだけでなく、ヒケシアにも見て回ることを許したし、断ろうとする彼女を、女は上手く言いくるめられ、彼女のペースにはまり、パイステラとともに見て回り、結局、露店で買った料理を手にし、歩きながら食べる羽目になった。パイステラは、喜んで女に礼を言ったが、ヒケシアは、また仏頂面で礼を言うことになった。途中では、年頃相応の(?)の女の反応をしていたのであるが。ディオゲネスが、勤務時間外の自分のポケットマネーからの報酬だとして彼女が関心を示した装身具を買い与えた時のことだったが。

「あの2人?」

「あのハイエルフ女奴隷ね?」

という声が聞こえてきたからである。

「ハイエルフ達のところで何が起こっているんだ?」

 女が、高級娼婦だと2人に話し、呆れられたディオゲネスだが、彼女の話しから、さらにその疑惑を高めていた。

 その夜、

「あ~!」

と体をビクビクとさせて、涎を流したまま動かなくなったパイステラを、後背位坐位で胸を両手で掴みながら、彼は彼女が奴隷になるまでの話しを聞いた。荒い息がおさまらず、断片的に話すだけの話しから、ピースがある程度埋まっていくような感じがしてたが、その内容に不安を感じたのだった。

 翌々日、ディオゲネス達は帝都を去った。父皇帝、皇太子をはじめ各方面への土産をはるかに上回る量と価値の下賜品・金を持っての領地への帰還だった。前日、王宮の大浴場で、ご丁寧に全員でつかれと言われ、その場でパイステラだけに、直接、装身具を買い与えたと言って、皆から文句を言われた。彼女らには、好きな物を買っていいと言って、小遣いを渡してあったのにだ。

 さらに、何故か父皇帝が妃達を連れて入ってきて、彼らの鑑賞の対象となった。

「ハイエルフの裸、初めて見ましたわ。しかも、こんな人数で…。」

「皆、きれいな…肌で…。」

「ディオゲネス殿は…、お噂通り…ふふふ。」

 最後は含み笑いされたが、皆心の中とは裏腹なお愛想笑いを浮かべた。

「皆、私の可愛い、頼りになる、頼りにしているハイエルフの女奴隷達ですから。」

 ディオゲネスは、微笑みを浮かべて言うと、

「お前がそういうならよい。そのハイエルフ共を可愛いがってやるように、長く。」

と父皇帝は返した。

 ハイエルフ達は、その後、このことには触れることはなかった。

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