第22話 皇太子と女聖騎士

「皆。今日一日、帝都で楽しんでくれ。私のことは、一時忘れていいから。」

 ディオゲネスは、パイステラ以外の奴隷ハイエルフ達に帝都での外出を許した。

「よろしく頼んだぞ。」

 彼女達の世話を、彼らの世話係を仰せつかっている宮廷貴族の若者に頼んだ。

「はい!」

 長身の、中々のイケメンであり、若い貴族の若者は、勢いよく答えた。その若者にメランタ以下が質問づけにし始めた。他の彼の使用人(複数)もついて行くのだが、やはり彼くらいの貴族がついていけば、色々とトラブルを回避できる。

 彼とパイステラは、皇太子の使者の案内で宮廷内の皇太子の私室に向かった。皇太子に呼び出されたのである。

「ディオゲネス。私が呼んだのは、君1人だけのはずだが。」

 長身で、見事な金髪の顔立ちの整った顔立ちで、文武に秀でていることを感じさせる印象の若者だった。

「パイステラは、私のそば近くに、常におります。内々のことが漏れることはないかと。」

 跪いて、傍らのパイステラの方をチラッと見て言った。皇太子は、椅子を勧めることもなく、仕方がないという表情で、口を開いた。

「分かった。単刀直入にいうとだな…。」

 魔族の侵入の詳細とハイエルフ諸部族の内紛に関することで得ている情報の提供だった。

“やはり何かあるのか?”

「報告が、幾つも上がっているかと思いますが。」

と言いつつ、自分の見たものを話した、自分とエルフ達の奮戦ぶりは大幅に目減りさせたが。

「元王族であるムナ、スアレス姉妹なら具体的なことを知っているかと思うのですが、そのことを話せる状態にはないので…。」

と言って、語れる限りのことを話した。跪いて話すディオゲネスに、軽く頷いていた皇太子は、彼の説明が終わると、

「君が、彼女達、ハイエルフ達の魔力を高められるという噂を聞いたが、本当かね?」

“情報の出所は…。完全否定は出来ないか、仕方がない…。”

「確かにそれはありました。ただ、私も如何してかなのか分かりませんし、私が彼女達の体に触っている間だけ、ある程度高まっただけで、持続することはありませんでした。離すと、即、元に戻ってしまいました。」

 “嘘は言っていないがな。”皇太子は、疑わしい表情ではあったが、

「魔族とハイエルフ達のことは心配なことがある。これからも、対応を怠らず、情報があれば伝えるように。」

と命じるように言った。その言い方に、不快なものを感じたものの、平伏して、

「分かりました。」

と言った。そして、その後に、

「ついては。」

と切り出した。魔族の侵攻が心配なので、銃砲を増備したい、宰相、国防大臣、皇太子に事前に報告するので、許して欲しいと言上した。

「数は?」

「短銃から抱え砲まで含めて、とりあえず30丁。その他、強弓や剣、鎧など民兵や自警団で不足している装備を…。それもまだ計画していだけです。」

 皇太子は、あまり銃砲を重視していなかったので、少し、

「?」

という顔だったが、

「魔族の対策には、早急に必要であろう。しかし、民の生活を犠牲にしないこと事前の報告を疎かにしないように。」

「はい。」

“何とか、一つは進んだ。”

「あんなものを?確かにハイエルフ女奴隷達にも使わせていますが?」

 ディオゲネスが皇太子の元から去って1時間後、聖騎士のヒケシアは皇太子の前に立ち、怪訝な表情を浮かべていた。そんなものエルフの弓矢に比べれば、何ほどのものがあるかと思っていた。魔法だってある。それを、主人の命令だと言って、片腕で弓矢が使えないと言って、簡単に使うなどとは、ハイエルフの誇りが完全にないのか、と言いたかった。

「まあ、民兵や自警団、義勇兵、市民兵は、剣すら不足してますから…。」

 そちらの方には、彼女は理解を示した。数は、必要である。

「ディオゲネス様が、ハイエルフの奴隷達の魔力を高められることを認められましたか…。」

 簡単に認めたことは大したことはないということか?確かに、彼の説明ではそうだが。それにしても、自分の魔力を他人に補充して強化するとか、自分の魔力で他人を回復させる過程で魔力も回復させることは聴いたことはある。かなり高度な魔法であり、また、自分の魔力を消耗する。彼の場合、魔法を発動してとか、魔力を使ってというわけではないようだ。一体何なのか?彼も、自分自身分からないと言っていたようだが。彼女の不信感は、皇太子も同じだったようで、

「そのことは、引き続き調べてくれ。それから、銃砲の購入等も監視しておくように。」

 彼女の今までの報告も評価され、この任務の後のことも確約が、また取れた。報奨金も、かなりの額与えられた。それも皇太子から直々に伝えられたのである。嬉しいことだったが、彼女は憂鬱であった。宮廷では、ディオゲネスのハイエルフ女奴隷ハーレムの一員と何度も間違われ、皇太子から呼ばれて参上したのに、警備の兵から、皇子の奴隷であっても、奴隷は奴隷であって、1人で入れるものではないとまで言われたことに、まだ腸が煮えくりかえった熱が冷めていないのだ。“早く、元凶をなくしてやる!”心の中で、また、叫んでいた。そうでもなければ我慢できなかった。

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