第21話 皇帝は笑う

「すっかり王女様姉妹も、手懐けたねえ、主様。」

「そのいやらし~い手先で、調教したんだよね~。」

 年増ハイエルフ二人組、アテネサ、パノストラがニヤニヤしながら、ディオゲネスがムナ、スアのハイエルフ王族姉妹の服を脱がすのを見ながら、揶揄うように言った。“調教したわけではないのだが。”

「人間達、特に男達がいっぱいいて怖くなかったかい?」

 二人は、小さく頷いた。それから、小さく小さな声で、

「いいえ、主様がいたので。」

 二人は答えた。

 その言葉を聞いて、ゆっくりとベッドに押し倒して、優しく愛撫を始めた。狙ったわけではないが、人間を、いや他の亜人、エルフにさえ怯えるのをせめて直そうと、時々手を握りしめている内に、少しづつ回復してくれて、ディオゲネスにも抱かれるまでになった。

 小さく喘ぎ二人を見ながら、

「可愛いじゃないか?」

「あんたらより、ずっと甘え上手だねえ。」

とアテネサ達は皆を揶揄った。パノストラをはじめ他の女達が少し怒った表情を見せているうちに、二人が、交互に小さな叫び声を上げて動かなくなった。“見ているか、聞いているんだろうな。”

「全員を抱いたわけか。その点では、さすがと褒めて…はやれないか。全く…羨ましいかぎり…いやいや…本当な節操のない奴だ。」

 ソロン帝国皇帝は、魔術師の報告をききながら、昨日の我が子、ディオゲネス皇子と彼のハーレムを謁見した時のことを思い出していた。

 赴任して、1年半が経過し、報告のため、ディオゲネスは、帝都に上京を命じられたのだ。ご丁寧なことに、ハイエルフ女奴隷達を全員連れてくるようにとも命じられたのだ、皇帝が直々に見たいということで。

 臣下のように報告に参上したことを、跪いて言上するディオゲネスと後ろに控えるハイエルフ女奴隷達を見て、皇帝は複雑な表情を見せていたが、不機嫌ではなかった。

「報告書は読んでおる。しっかり統治し、臣民は安寧に過ごしておるようで安心したぞ。褒めてつかわす。ところでだが。」

“ところで?”ディオゲネスはギクリとし、冷や汗が出るのを感じた。

「そこにいるのが、お前が安値でまとめ買いした傷物のハイエルフ女奴隷達か?」

「はい。」

「一番後ろに控える少女達は、将来ハーレムに入れるのか?」

「それについては、まだ、考えておりません。」

 それは事実だった。

 居並ぶ文武百官、高位の貴族、皇族、皇帝の妃達、外国の使節からは、しきりにひそひそ話が聞こえてきていた。

「あれが?」

「本当だったんですのね。」

「やっぱり、ハイエルフはあんなになっても、…いいのかね?」

「さあ…。」

“しかし、本当に傷ものだな。すぐ脇にいるのは、顔の傷は一番小さいが、片脚片腕だしな…。よくこういう女達と…。”と皇帝は、思ったが、そんなことはおくびにも出さず、

「お前がハイエルフとの友好に、これほど熱心だったとは思ってもみなかったぞ。たいへん嬉しいぞ。」

 笑う父に、

「?」

とディオゲネスらであったが、大切にされているということで、エルフの間では、一応評判はよく、そのせいかエルフに関係する衝突事件は、最近聞こえてこない。

「恐れいります。」

“たまたま偶然の結果で”とか“相性がよかった”とか言おうとも思ったが、やめにした。

「後で、その者達と話をしたいので、別室に控えさせるように。」

「?」

「お前の可愛いい奴隷達をとらぬから、そう心配いたすな!そんな無体な父ではないぞ。」

 笑いながら、叱りつけた。“父上は名君だから…、かえって、それが怖いのだが。”とディオゲネスは思いながら、

「もちろん分かっております。」

と答えた。

 その後、ディオゲネスは別室に数時間待たされることとなった。1人1人、皇帝自身が問いただした。ハイエルフの医術士もいて、彼女らの健康状態を確認してから、皇帝は彼女らに現在の状況を話させ、望むならばディオゲネスの奴隷から解放させようと提案した。震えるばかりの2人を除いて、全員、その提案を即座に断り、自分に与えられた仕事に、誇りとやりがいを持っているし、待遇も満足していると答えた。震えているばかりの2人も、

「主様のそばがいい。」

と言った。

 魔道士や魔法修道士、さらに聖騎士まで立ち会わせ、彼女らの魔力、武芸の腕まで見定めさせた。驚異的な魔力を持ち合わせているものはいなかったが、大半は平均以上の魔力を持ち、騎士達の武芸の腕もなかなかと彼らは見た。元王族姉妹の魔力の潜在能力は高そうだったが、心が壊れていて使用不能と判断された。不穏な戦力には到底ならないが、ディオゲネスの護衛や側近などには十分な能力があるとの結論となった。

“あいつの母親も、人材を適材適所に使って、あるいはわしに推挙していたものだが…、ほとんど誤りがなく、国の栄える一因になったものだ。その点では、母親に似たか・・その才を受け継いだか?”

 別室に控えさせたディオゲネスにも、宮廷魔道士長と聖騎士団長を送り、問いたださせた。

 彼女らとの間の奇跡の件、彼女らにらの元の部族と何か交渉などはしていないか、魔族との戦いで彼女達の魔力が上がったという話があることについてだった。

 ディオゲネスは、事実だが、どうしてそのようなことになったのかはわからない、元の部族との交渉などはない、そのようなことはなかったと答え、切り返すように、自分の体の状況について尋ねた、あの奇跡を起こした結果、死ぬのが早まったということはないか?と。宮廷魔道士長は、じっと彼を見たが、首をひねりながら、

「そのようなことは、見受けられませんが、殿下。」

 以前に、あの後、何度か同じ質問を地元の魔術師、魔法修道士、魔法医師に尋ねたが、そういう所は見えないと答えていた。最後の魔力の増大のことは、さらなる追及は、うやむやになった。

 夜の晩餐会では、勿論ディオゲネスは、彼女達を連れて出席した。そこでも、彼女達はハイエルフの合唱、演奏を披露した。ディオゲネスは、ばったりとかつての婚約者、いまでは外国の王妃である、に出会った。彼女は、夫である他国王と腕を、彼に深々と頭を下げて挨拶をした。彼はというと、臣下のように頭を下げた。彼女は、彼がかつて見たこともない、軽蔑する顔を彼に向けるとともに、嫉妬と怒りに満ちた表情も浮かべていた。

 昼間の謁見でも、晩餐会でも、彼は、父皇帝から臣下のように待遇され、彼も臣下のように跪いていたのを見て、彼が次期皇帝への争いに加わらない、加われないことを確信して安心しているようだった。

「それで、最後は、あの片脚片腕のパイステラとかいう女か。さすがに…疲れ切って・・・。」

「いいえ、陛下。」

 念入りに、互いに長い口づけをして、優ししく、互いに味あうように、愛撫をしあってから、一体になったと報告された。

「ははは…。それで、両脚、いや片脚半を目いっぱい広げさせて一体になったというわけか。元婚約者のことで拗ねながら、喘いで…か。しっかり者の顔で、可愛く拗ねて…あいつの母親に似ておるな、そんなところは…。激しかったようだの、2人とも。我が子ながら・・・。そして、終ってからは、そのハイエルフはうらみごとを可愛くか、ますます…ははは。」

 皇帝は、笑うばかりだった。

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