第20話 聖騎士の憂鬱 2

「西方のハイエルフには、最近政争は、あったか?あったのなら、どのようなものだった?教えてくれないか?」

「は?」

 ディオゲネスは、聖騎士ヒケシアを呼んで、執務室の椅子に座るヒケシアに質問をした。ヒケシアは、怪訝そうな顔で、ディオゲネスディスを見つめた。

「どうも、ここ、帝国東南にはハイエルフが多いか、ここ最近政争が多いようなので、意見を聴きたいと思ってな。」

「私は、数年前に国を出ましたので、最近のことはあまりわかりませんが。」

 幾つもの部族で政争があったらしい。彼女の一族も、没落、処刑粛清、追放、奴隷などの運命は免れたが、地位が下がり、彼女は一転して、一族の希望となってしまっていた。

 彼女は、チラッとディオゲネスのすぐ脇に座っているパイステアを見た。彼女は、何時でもメモを取れるように身構えていた。

「メモは、取らないことにしてもよいが。」

「身内や祖国の恥になることは…、やはり…。」

 本音でもあるが、彼が何故そのことを聴き出そうとする真意が、分からなかった。

「分かった。悪かった。忘れてくれ。ハイエルフなどの内紛と魔族の侵入が、何か関係があるのではないかと思ってね。」

 ディオゲネスも本心を言った。パイステア達の話は、当事者ではあるが、中枢にいたわけではないので、断片的、真偽不明なことが多い。また、国内とはいえ、半ば小独立国家のようなハイエルフ達の関係、重大事件は国家機密扱いに近く、真相を知ることができない、今の彼には。以前でも同様だったが。少しでもと思って、ヒケシアに聞いてみたのだ。

「もう行っていい。すまなかった。」

“フン。何も分かりもせぬくせに、偉そうに。”ヒケシアは、そうとしか思えなかった。

「私は、あのようなダークエルフではない!」

 それから、何度も繰り返して叫ばなければならなかった。外で、ハイエルフだからといって、ハーレムの一員視され、声をかけられる、揶揄われることがあったからだ。

 最近では、秋の収穫祭の時だった。領主も出席して、都市中の老若男女が飲み、食い、歌い、踊っていた。その中に、正騎士達男女何人かと、連れだって歩いていると、手にビールのジョッキを持ってだが、

「おい、あっちにいかなくてもいいのかい?ハイエルフのお嬢さん?」

と彼女に声が飛んできた。

 ディオゲネスと彼のハーレムが、まるで見せつけるようにひな壇に上がり、ディオゲネスが祝いの音頭を取ったあと、ハイエルフ女奴隷達の合唱、演奏に移っていた。“故郷の、西方の我らのものと、微妙に違う…。品格も、美しさも数段劣る。ハイエルフの末端…所詮…だから、あいつらも奴隷の境遇に満足している恥さらしな連中なんだ!”しかも、見世物に、あまんじているような、あの状態。人間達は、聴き入っているのではない、性奴隷を鑑賞しているだけなのだ、と心の中で叫んでいた。同僚達が、触らないように微妙な距離を保って中、彼女はジョッキを傾けた。いつの間にか、ディオゲネスと彼のハーレムは姿を消していた。

「姉ちゃん。行かないのかい?ご主人が、取られちゃうぞ!」

「ご領主様は、傷ものじゃないと燃えないんだよ。」

 揶揄いの声が投げかけられた。同僚達が、酔いが一変に覚めて、青くなったが、ヒケシアは意外なことに反応しなかった。怒りが通り越して、かえって冷めてしまったのだ。“もうどうでもいいわよ、こんな所、こんな奴ら。元凶を葬ってやる。そうすれば全てが終わる。私が葬ってやるのよ。あのクソ皇子を。そして、ハイエルフの名誉を回復させる。もうすぐだ、そうもうすぐよ。”彼女は、国を出た時の思いと重ねあわせていた、あの時は国を、一族を見返そうと思っていた。“ちがう!”でも、似ているように思えてならなかった。

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