第17話 皇子も憂鬱
「まあ、うまくいってくれたか。」
彼を監視することも役目である、彼の騎士団長の報告書を持っていった使者からの、父、皇帝陛下の言葉を聞いて、ディオゲネス皇子はホッとした。少し前に、あの奴隷商人から、
「帝都では、殿下のハーレムの噂が、面白おかしく伝わっています。私も大笑いいたしました。」
との手紙が届いていたから、まあ、安心かと思っていたが、それでもやはり心配だった。
考えて見れば、ばかなことをしたものだとも思える。安全で無害な存在だ、と思われなければならない。それは、失脚して、辺地に飛ばされた者の半ば義務である。立派に、その地を治め、身を正しくなんかしていて、だけはならない。だが、その逆も、雑草を摘み取る口実になりかねない。ちゃんとやって、かつある意味馬鹿であることを示さなければならない。結果として彼の選択は、傷物ハイエルフ女奴隷ハーレムであるが、最初から、それを考えた訳ではない。ばあや、侍女長、の負担を減らしてやりたいなど色々な意味で人手がほしかった。手っ取り早く確保できることと信頼できることで奴隷の購入を考えていた。母も奴隷を使っていた。今いる使用人の中にはいない。それは、彼の母の遺言で解放したのだ。そのまま彼についてきたが。
初めて見て、パイステアをはじめとするハイエルフの女奴隷達は、皆美しいと思った。しかし、値が高すぎて、彼女らの購入は考えもしなかった。彼女らにとって忌まわしい事件と彼との間の奇跡、その結果、彼は傷物の安物のまとめ買いをしたわけだが、その時には、傷物ハイエルフ奴隷ハーレムで、自分の馬鹿さ加減を示そうという計画を立てていた。
「本当にそうだったのか?」
あのような姿でも、パイステアは美しいと思ったのは事実だった。
「彼女らを購入を、あれを口実にしたのではないか?」
そして、こうなった以上、彼女らを解放することができなくなってしまった、と彼は罪悪感を感じていた。
ハイエルフと人間との間には、子供は出来ずらいというし(それでも他の亜人達に比べればはるかに子供ができる確率は高い、おぞましい方法を除けば。)、出来たとしても帝位継承権などあり得ない。大体、魔法での避妊は、ちゃんとやっている。それでも、ハーレムの一員であれば、運命をともにする可能性が極めて高い。特別な関係を、魔力増や瀕死からの回復、抱こうと思えば何人抱いても体力が続く等、持っていることが分かればなおさらだろう
「まあ、主様は自業自得だろうけどねえ…、あたいらは所詮奴隷だからね、しゃあないさね。」
年増ババアハイエルフ奴隷アテネサが、上になって腰を動かしながら言った。その後、完全にダウンしてしまったが。
“自業自得か…。”亡き母がやったことだ。何人もの人間が非業の死を遂げた。亡き母は、自分の息子のため、ディオゲネスのため、行ったのだ。彼の自業自得だと言って間違いではない。妹達を嫁に出すとき、こんこんとよき妻の心得を言って聞かせ、嫁いだ後もしきりに注意の手紙を出したりしていた。妹達から苦情を言われたディオゲネスであったが、今にして思えば母は、自分の亡き後のことを考えていたのだろう。彼への教育、指示もそのためだったかとあらためて思っている。
が、今彼は怯えていた。“自業自得だな。”心の中で自分を嘲うとともに、妹達のことが心配となった。“上手くやってくれていればいいが。手紙を出すのも、はばかれるしな…。”
「とにかく、後は上手く領地を管理することだ。」
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