第16話 ハイエルフ奴隷の憂鬱 3
「あ、あれがハイエルフの弓矢か!」
「さ、さすがですよ、坊ちゃん!」
砦の司令官の老騎士が、驚いて叫んで絶賛した。
3人のハイエルフの放った、矢継ぎ早に五本を放ち、また五本を放つ。これだけなら、矢の早撃ち術で感心はするが、驚嘆はしなかったろう。その矢が、色々なコースをとって正確に命中するのを見ても、同じだったろう。その飛距離が半端ではなく、あの距離までと一瞬信じられなかった。その威力もだ。盾を貫いて、さらに魔族の体を貫いて、後ろの魔族の兵士に突き刺さったのだ。貫かれた、といっても、それだけでなく、傷口が大きく広がり、その一本でほとんど致命傷になっていた。それが、本来なら安全圏にいるはずの各隊の指揮官クラスの連中なのである。崩れかけている、もう一歩で総崩れにできる。
「しー!あまり騒ぐな。」
と叱咤するディオゲネスは、左右のハイエルフの弓手の背中に両手を押しつけ、真ん中のハイエルフのうなじに口づけをするのをという奇妙な格好を維持していた。
矢が尽きて、補充の矢が持ってくるまでの間、彼女らの動きが一時的に止まった時、皇子は身を起こして、携帯砲を抱えあげた。
「お前ら、私に体を擦りつけろ!」
左右の片脚が義足のハイエルフは、寄り掛かるようにして体を擦りつけ、正面の車椅子のハイエルフは何とか、露わにした背を彼の体に接触させた。老騎士は、“坊ちゃん。その砲では、よくて敵陣に届くか届かないところですよ…。”と思ったが、喉に呑み込んだ。“まあ、坊ちゃんにも考えがあるだろうし、やりたいようにさせるのも、今後のためだから…。”
また、矢が放たれた。同時に轟音と火薬の臭いとともに、砲弾が飛び出した。それは、魔族の本陣まで飛んでいって、多分防御結界が張られていたはずの内側で炸裂した。榴弾ではないので(この世界には、まだ存在してなかった)、正確には炸裂したわけではないが、バラバラに破片を周辺に高速で飛散させた。完全に本陣は壊滅してしまった。もう完全に浮き足立った彼らに、矢が追い打ちのように降り注ぎ、さらに、砲弾の第二弾が飛んできて、再び周辺をなぎ倒したので、完全に総崩れになった。
「私の魔法力にも、影響しているんだな。」
と感慨にふけようとしたが、
「主様、凄いです!」
「私達に力をくれた上に、あんなことを!」
「もう体が熱くなってきましたわ!」
「坊ちゃん!凄いですよ!何だったんですか?とにかく凄いですよ!」
櫓の上の一角で、大騒ぎとなっていた。
“騒がれると不味いかも?それに、少数とはいえ、魔族の軍がとはどういうことだ?”
ディオゲネスが、この南部の砦に、魔族の軍が迫っている、ただ中に来たのは、偶然だった。
例のハイエルフ達の魔法力を高めらることを、ここの砦に置いていたハイエルフ達、コンダ、アンティア、バニア、に確かめるためだった。 砦とその周辺地域の視察も兼ねてのことだった。一番遠いこと、彼女らを呼び出すのは大変だと思って、自ら行くことにしたこと、順番を最後にしたことで、日程調整もありあれから一カ月たってしまった。全員を確かめる必要があるかという問題もあるが、彼女らに顔を見せたい、彼女らの顔が見たい等もあった。
それが、着いて見ると砦は騒然、魔族の軍が迫っているのが見つけた、というところだった。数は、100~200人程。コンダ達の監視魔法と見張所から見つけた。砦の常備兵力は、数十人。こういう時は、周辺の民兵、自警団を動員することになっていて、体制も整えられており、実際動員がかけられたところであり、ディオゲネスが砦に入った1時間後には、彼らはぼちぼちとやって来た。
全てが、魔族の撤退までには到着していなかったが、集まっただけの数を率いて、ディオゲネスの陣頭指揮で追撃をかけた。
メランタ、アステュアナ、そして砦のバニア、片手のハイエルフ騎士だ、も彼の周囲を固めていた。彼女らも先頭になって、殿軍的に待ち構えていた連中や逃げ遅れた連中を次々に倒していった。が、魔族の魔道士達が待ち構えていた。急いで、3人は、ディオゲネスの指示通り、彼の体に接触して魔法防御結界を張り、火球を放った。
魔族の雷電玉は簡単に中和され、彼女らの火球は彼らを一撃で粉砕してしまった。さらに、索敵魔法を彼により高められた結果、少数で反撃のために、多分夜襲をかけようと近づき、潜んでいた3人を発見し、メランタ達を含めた、彼の騎士団が捕捉して、殲滅した。
戦いの後、残敵殲滅も確認し、顕彰やささやかな宴を設けた、砦の幹部達、彼の元家臣達だが、にハイエルフ奴隷達の活躍や自分のことについては口止めをしておいた。
元々、魔界に面している訳ではなく、少人数の魔族の山賊のような連中がやってくるが、これだけの数、軍として侵攻してきたのは珍しいことだった。魔族、魔王の本格的な侵攻の前触れか。魔界と境を接している地域がどうなっているかが問題だったが、今は知ることができるものではない。魔界がそういう状態にはないとされているが、何か変化があったのか。
「それで、坊ちゃん、今日はまとめてですか?程々に体を大切に。」
悪戯っぽい表情ながら、本当に心配そうに、砦の司令官は言った。彼は、苦笑するしかなかった。
「久しいです。」
震えながら抱きしめられているコンダにディオゲネスは、優しく唇を重ねて、
「今回は、二人だけで愛してやるよ。」
「はい。」
“温和しい娘だな。矢を放っている時の顔とは全く違うな。”と思いながら、何度も、涎を二人で流しながら口づけを行った。ベッドに押し倒された彼女は、喘ぎながら体を開き、ひたすら彼の愛撫を受けた。
「も、もう…。」
正常位で一体となった後は、彼女は、ひたすら動き、喘ぎ、最後は上で果てた。彼女の体が完全にグッタリするのを見計らって、彼は彼女をベッドに寝かすと、部屋を出た。こんどは、アンティアの部屋に入った。バニアの部屋から出ると、メランタ達の部屋に入った。3人は待ちかねていて、もう全裸で待ち構えていた。
「何時まで、待たすのですか!」
直ぐに、彼に飛びついた。
数日間、政務を取り、魔族がいないことを確認して、帰還した。
「殿下は、どうして自分達やご自分のことを秘密にしたがるのだ?」
「怯えてさえいるようにも思えますわ。」
メランタとアステュアナは、戻ると直ぐに、パイステアに詰問でもするように尋ねた。不在時の報告に執務室に入りたい彼女は、少しイライラしながらも、
「ハイエルフの力を何倍にもする能力は、脅威になるでしょう?主様は、自分が力を持たない無害な存在だと思われたいの。それが分からないあなた達ではないでしょう?」
と答えた。元が同じ戦士、騎士でも、パイステアだけが政治の中にいた経験があることから、彼女に聞きたくなったのだ。
「でも、接触できるだけ、3人が限度だ。それは役に立っても、脅威にはならないのではないか?」
アルケシアだった。ここが彼女らには、一番わからなかった。
パイステアは、
「理由がつけられればいいのよ、こういうことは。大きい意味でも、小さな意味でもね。」
ため息をつきながら、彼女は言った。そして、クルリと背を向けて、執務室に向けて歩み始めた。それが、一旦立ち止まった。
「私達、何年生き延びられるかしらね?」
また、歩き出し、そのまま主の執務室に消えた。
「戻れないんだな。」
「せめて騎士の誇りだけは持って…。」
「奴隷でもね。」
“私達は、自分で未来を掴み取れなくなったんだ、それが常に僅かな可能性だったとしても。”パイステアは、ディオゲネスの顔を見ながら思った。
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