第11話 エルフ奴隷達 2

「こういうことになるとはな…、考えともいなかった…。」

 ディオゲネスは、別邸で寝かされているハイエルフ女奴隷達の治療状態を視察しながら呟いた。

 初めて見た時、奴隷商人の視察の時だった、美しい女ばかりだと思った。高い身分のある者が、ほとんどだった。それが、盗賊団に斬られ、突かれ、焼かれ、陵辱され哀れな姿となり、瀕死どころか死が確実な状態になっているのを見て、確かに同情した。ささやかに、気休めの、形ばかりの治癒魔法しか使えないが、苦しみくらいは和らげることができないかと思って、手近なハイエルフ女奴隷に施してみた。が、突然そのハイエルフ女奴隷が光り出し、一命を取り留めてしまった。完全な治癒にはいたらなかった、その後医師の手当てを受けなければならなかったが、とにかく全員が死なずにすんだ。なんだったのか?その後も、容態が悪化するたびに、試みてみると同じ結果になった。だが、人間その他には、そのような効果はなかった、試してみたが。

 奴隷商人でなくても、彼女らの商品価値が零になっていることは一目瞭然だった。さらに、売り手からは、奴隷商人は奴隷として売却するように命じられていると彼から聞かされた。勝利者の側は、彼女らの存在を抹殺したいのだろう。

 奴隷商人が苦境に陥っているらしいことも知った。この時、彼の頭に突然、きらめくものがあった。

「安くまとめ買いできないか?」

 彼には、確かに奴隷を必要とする事情があった。

 ソロン郡は貧しい地域ではなかったし、赴任の支度金を豊富に与えられ、監視役も兼ねといたとはいえ、正騎士団100人余がつけられていた。彼らや彼らの乗る馬を世話する人間達だけでなく、事務手続きのための官吏達もだし、なおかつ彼ら全員の俸給が中央持ちである。さすがに、皇子のことでもあり、優遇であり、皇帝の親心が働いたと言える。

 一方、豊かとは言えない。地域としては海岸に面した貿易等がさかんなのだが、ここは海岸面しておらず、河川の港もなく、交通の要衝でもない。王領地ではなくなったとからと言って、駐屯していた正規兵や代官所の役人の大部分を引き上げてしまった。都市も大きなものはないし、エルフをはじめとする亜人達の部族の自治領に隣接していたし、大きな盗賊団が徘徊していて、治安上の問題もあった。

 まず第一は、住民の反発を受けることなく、統治を始める、生活を始めるということだった。

 反発を買うのは、新たな負担を強いることである。買わないようするには、それをしないことである。だから、王領地であった時に駐在していた代官宅を流用し、最小限手を加えて暮らし始めたのもそのためだった。

「よくまあ、徹底的に持ち出して…。殿下を迎える名誉が、わからなかったのかしら?!」

 最年長の侍女が憤慨したほどひどい状態で、まず住み始めた。

「殿下と北の辺境視察に出たことを思えば、天国ですよ。」

「途中の宿も、似たようなものだったしな、ハッハッハ。」

と無理矢理ついてきた老兵達が笑ったものだ。

 支度金とかえって同情した領民達の奉仕で少しづつ改修が、遅々として進むことになった。

 そんな中でも、とにかく人間が足りなかった。使用人を何人か地元で雇ったが、まだ不足していた。さらに、ディオゲネスの護衛がいなくなりそうなことが一番の問題だった。自警団、民兵、義勇兵、市民兵を統率するために、彼の下の老兵を頭にして、戦士としての能力のある者達を補助につけることで治安維持を図ることにしたためである。

 それで、奴隷を買って、と思ったが、必要な能力のある奴隷は値が高かった。支度金を浪費したくはなかった、今後も注意深く、必要な施策に使わなければならない。

「ばあやに無理させ続けたくないしな…。」

という思いも切実なものとなっていた。

「これでは、ただでも御の字でしょうな。」

 ハイエルフ女奴隷達が寝かされている、彼の別邸にやって来た地元の奴隷商人が彼に囁いた。初老の経験深い、人がよさそうな笑みを浮かべながらも、狡猾なものがうかがえる男だった。それだけに、役に立つ、と彼は思っていたし、奴隷商人の方も彼とそういう関係にあることに利益を感じていたから、情報の提供を熱心に行っていた。その奴隷商人も、ディオゲネスが、これらのハイエルフ女奴隷達を買おうなどとは思ってもいなかった。

「彼女達を全員買おう。これまでお前が支払った彼女達の治療費、食費なども負担しよう。それから、心ばかしだか婚資、準婚資、それから…。」

 若い奴隷商人を呼び出したディオゲネスは開口一番、購入代金以外の色々な負担について長々と述べた。さらに続けて出た購入代金は200ダカット、中央の中の官吏の年収だった。ディオゲネスが

申し出を含めても二人分に過ぎず元は全く取れない。奴隷商人は、“しっかりまとめ買いで値切りやがって…。しかし、まあ…。”覚悟していた場合より、はるかにいい条件であり、最低限だが再出発できる、ダークエルフ女奴隷二人と共に。しかし、このままでは、少し悔しかった。それで、

「ディオゲネス様は、彼女達をどう扱われるおつもりですか?それがわからないと…。」

 疑うような眼差しを向けた。

「それでは、まるで私が、彼女達を性的玩具にでも扱うのではないかと疑われているようではないか?」

 ディオゲネスは苦笑した。彼も微笑んで、

「殿下に、散々仕付けられましたから。」

 二人は、笑い出した。

「分かった。まずは、パイステアだが…。」

 ディオゲネスが、全員の処遇を言い終わると、奴隷商人は大きなため息をついて、

「完璧でございます、殿下。しかし、よくそこまで彼女達のことがお分かりで…。やはり、あの時?」

「ああ、そうだよ、どうしてかは分からないがね、私も。」

「殿下の奴隷になることが、一番良かったかもしれません。これは、幸運な運命だったのではと思います。」

 心の底から思った。婚資は結婚の時、男の方から女の実家に贈るものだが、奴隷を妻、それなりの愛人として買う時に、婚資、準婚資と称して、心ばかしに奴隷商人に渡す習慣がある。それをしようということでも、皇子の気持が現れていると言えた。

「しかし、結局はハーレムだ。彼女達には可哀想だが。」

「それは、御自分で言われては…。は?そうですな。ハイエルフ女奴隷ハーレムをお楽しみ下さい、殿下。」

 ディオゲネスの複雑な表情を見て、彼は理解したように思えた、彼の考えを。

「うぬ。」


「もっと奮発してくれてもよいのに、ケチ皇子!」

「本当ですわ!」

 宿に帰ってから、その話をすると、二人のダークエルフ奴隷女奴隷は憤慨した。

「まあ、あの方にも事情があるし、それに闇ルートでも無理かもしれない額だから、よしとしよう。それに。」

 二人の顔をじっと見てから、

「お前たちといられれば、それでいいんだ。」

 そう言って、二人を抱きしめた。今までの心配がなくなり、気が緩んだせいか、彼は欲望が抑えきれなくなっていた。

「嫌ですよ、体が臭いますから、主様。」

「そうですよ。ここ最近は、湯屋に行けませんでしたから。」

 そう言いながら、いそいそと服を脱ぎ始めた二人を可笑しく思いかがらも、

「そんな臭いなんて気にしない…いや大好きだよ。」

と言って、二人を押し倒し嗅ぎ、吸い、舐め始めた。

「そ、そんなことされたら…」

「そうです、わ、私達…。」

「こうしちゃいます!」

と上になって、彼の臭いを嗅ぎ、吸い始めた。そうこうするうちに、喘ぎ声が漏れ、一体となり激しく肉体をぶつけ始めるまでには、たいして時間はかからなかった。




 

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