第3話 世界の事情と魔女の優しさ
「なるほどね。 まさか本当にグズーラ王国が禁忌を犯すなんてね。 しかも君をハズレ扱いとか……」
事情を聞いた魔女の女の子は、表情を歪めながら僕の話を信じてくれた。
というより、禁忌って聞こえたけど……?
「勇者召喚術っていうのがあってね。 それらは世界の理を壊す可能性を抱えているために禁忌とされてきたんだよ。 そもそも、勇者って言うのはこの世界を見守る女神様が決めるんだから」
「女神様が? この世界の?」
「うん。 この『クリファリア』という世界を見守る女神様が勇者として選んだものに加護を与えてこそ、真の勇者なんだよ。 つまり、グズーラ王国が召喚した異世界の勇者は女神様のルールにも違反した偽の勇者ってわけ」
「だったら、何で僕やクラスメイトを?」
「魔王を倒すと言うのは建前。 本当は隣の『ショコラ王国』を始めとした国際社会に対して戦争を仕掛けるためなんだよ」
「戦争!?」
魔女の女の子が言うには、どうも勇者と言うのはこの異世界『クリファリア』を見守る女神様が加護を与えた者の事を指すらしい。
それを踏まえて禁忌の術である勇者召喚術を行使したグズーラ王国は、魔王を倒すと言う建前の下で僕達を戦争の道具として利用する事を目的としていたようだ。
そして、戦争の相手はこの世界の国際社会。
隣の『ショコラ王国』を始めとした各国家に対する戦争をグズーラは行うというのだ。
「理由としてはグズーラ側は女神の勇者選定など役に立たないと言ってたんだよ。 実際に今までの勇者は魔王に歯が立たずに殺されたのを知ってるから、勇者召喚術を使うべきだと主張したんだよ」
「それ程に魔王は強いの?」
「うん。 聖剣が歯が立たないくらいにね。 それ故にグズーラ王国側は禁忌を犯してでも勇者召喚術を遂行すべきと言った。 他国は当然ながら禁忌の術を使わせない、女神からの新たな勇者選定を待てと言ったんだよ」
「という事は、グズーラ王国は待てなかったと?」
「うん。 異世界の人間はボクなどの現地人より能力が高いからね。 即戦力として使うのにもってこいなんだよ」
どうも魔王は僕の予想を超えた強さとなっており、女神様選定の勇者たちでは歯が立たずに殺された事からグズーラ王国は勇者召喚術を使う事を決意したようだ。
これまでにも勇者召喚術を使うべきだと主張しているみたいだが、各国は禁忌の術を使わせないと一点張り。
新たな勇者選定まで待てないグズーラ王国が無理やりに勇者召喚術を行使したという事だろう。
「その中でまさか君が『ハズレ』扱いにされて兵士たちに暴行を受けるとはね。 上手く話せないのはそういうトラウマがあるからなんだね」
「そういう事ですね」
「そっか……」
「あ……」
この世界のあらましや制度などを話しながら僕の話を聞いてくれた魔女の女の子は悲しそうな様子で僕を見つめ、すぐに僕の額を撫で始めた。
もう片方の手は、僕の手を包むように添えていた。
「辛かったね。 でも、もう大丈夫だよ。 これからはボクが君を守ってあげるから」
彼女がそう言った瞬間、僕の瞳に涙が溢れて来た。
何とか彼女のから視線を逸らそうとしたら、彼女は僕を抱きしめてきた。
「泣いてもいいよ。 受け止めてあげるから。 我慢しなくて……いいんだよ」
現実世界の母親は泣きたくても泣くなと言われたので泣くのを堪えた。
でも、魔女の女の子は泣いてもいいと言ってくれた。
彼女からそう言われた途端、堰を切ったように僕は泣いた。
魔女の女の子の柔らかい胸に埋もれながら、僕は涙が枯れ果てるまで泣き続けたのだった。
彼女の優しさと温もりに甘えて……。
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