史上最悪の悪魔(妹)の襲来
「さっさと白状しなさいよ。貴方、どんな名前で活動しているの?」
「……なんで俺が小説家であること前提なんだよ」
七星を昨日撒いてからどうしてもマークが強くなってしまった。七星にしたら当然のことなのかもしれないが、正直何をしでかしてくるかが予測できない俺にとっては精神的に削られていくものがあった。
(それもこいつの作戦のうちだったりするのか……?)
もはやさまざまな最悪のケースを想像して対処するしかないな、とそう授業前に殴り込んできた睡魔に襲われつつ考える俺氏なのだった……。
今日ほど自分が帰宅部専門であったことを誇り、かつ正しい選択をしたと思ったことはなかった。
「まさかあいつ鬼のような入部勧誘が自分に待っているってわからなかったのか……」
あいつを心の中でほくそ笑んで、勉強道具を一式それ用の引き出しに詰め込んで愛用のパソコンを取り出す。
今日は久しぶりに配信をしながら小説を書こうかな、と思っているため最近めっきり使う機会の減ったマイク付きヘッドホンを棚の奥底から引き摺り出して接続。
(声からの正体バレ怖いし、備え付けのボイスチェンジャー初めてだけど使ってみるか)
スイッチをオンにして小説を書き出す。ボイスチャットに入ってくるいつもの面々が面白い話を多種多様に持ってくるから逆に執筆する手が止まってしまいそうになっていた。
勿論Vtuberとかじゃないから声だけのラジオライブ配信、とでも言えばいいのだろうか。そのような感じになっていた。
そんな雰囲気の中ちょっと休憩を入れたりコメント返信をしたりとかしつつ執筆を進めること1時間半ほど。
「とりあえず今週分は完了っと。セーブは3回しといて……」
そうつい独り言で喋っていると、コメント欄にはお疲れというコメントが溢れていた。
「お疲れコメントありがと、それじゃまたボイチャする時あったらきてくれたら嬉しいな」
それじゃバイバイ、と言って俺はボイスチャットをミュートにした。勿論まだ話し足りない、っていう人がいるのはこっちもわかっているので音声は聞こえている状態だ。
そうしてリビングに降りて適当に紅茶でも淹れるか、と思ってインスタントの束から一つ取り出して元から湧かせていたお湯を入れていた時だった。
『お兄ちゃん、私が遊びにきてやったぞ!』
……そんな声が聞こえた気がした。今のリビングなどは幸いにも電気をつけていないし配信した後だったから俺の部屋の電気も消した、はず。
……よし。これなら居留守しても大丈夫そうだな。
そう考えて部屋に戻ろうとして紅茶を持っていこうと動いた瞬間、
『よし、ママから借りたこの鍵で強行突破してしまお。久々のお兄ちゃんの寝顔……♪』
「……はっ、
流石に声に出して驚いてしまった。これは早急に逃げなければ面倒なことになることは日を見るより明らかだ。
器用に紅茶を全くこぼさず廊下を颯爽と走り抜け階段は流石に慎重に歩き部屋に着いたら音も気にせず窓を少し開けてそれ以外の出入り口は閉め切ることにした。
この家の窓は俺が主に使っている部屋以外は全てバルコニー的な感じでつながっているがここだけはなぜか繋がっていない。
前までは不便に感じていたが今回ばかりはその設計に助けられた。
……今日だけで2回も今まで面倒なものがありがたく感じるだなんて。何か天変地異でも起こるんじゃないか。そう考えていた俺の勘よ。
……お前を信じなかったことを本当に謝らなくてはならないようだ。
「さーてお兄ちゃんはどこに隠れたのかな?」
「今日こそは白状させてもらう、わ……って、扉開いてるじゃん。どんだけ不用心なの?」
「……お前ら、ガチで尊敬するわ」
こういう閉鎖空間にいる時に限って絶体絶命の空間を生み出してしまう。俺にとっては結構ある話なのだがそれを今ほど呪ったことはあっただろうか。
「クッソ……。これこそ四面楚歌って状況なのか……」
諦めてパソコンをいじっているとノックする音が部屋に響いた。
「おっかしいな、ここから音が鳴ってるように聞こえたんだけどな」
「貴方誰?そこあいつの部屋だけど……」
……面倒な奴2人が揃ってしまった。いや出会ってしまった。
「貴方こそ誰ですか?お兄ちゃんの彼女とかですか?」
「かかかかか彼女ぉ!?!?違うよ!」
おい、そこまで強く否定されると違うのはわかっていてもちょっとメンタルにくるんだが。
「……とりあえずお兄ちゃんに用があるの?」
「えぇ……。あ、そういえば貴方の名前は?」
「舞雪華。“まい“って呼んで?」
「わかった、まいちゃん。それでまいちゃんのお兄ちゃんって小説家だったりする?」
その質問が聞こえた瞬間には俺は妹の口を塞いでいた。ついでにそのまま逃げていた。
「あ、お兄ちゃん久しぶり!」
「あぁ、久しぶり——、じゃないじゃない!とりあえず逃げるよ」
「なんで?……もしかしておとーさんと同じことになりたくないから?」
「舞雪華、それをあいつの前では絶対に言わないでくれ」
「わかった。前に一度あったもんね。おとーさんとは違うけど……」
「あぁ……」
俺は小説家であることを小学生、いや中学生の途中までは自信満々に話していた。しかし、そんなふうに振る舞っておいていざそういう物語の大会に出てみてば俺の出した作品は順位にさえ乗っていなかったのだ。それを俺は散々馬鹿にされた。
しかもそれは妹にさえも被害は及んだ。それを俺自身が守ったら確かに妹へのいじめは妹の様子を見ていた限り全くを持ってないようだった。
俺は、妹の分と自分の分。大体2倍分のいじめを受けていた。毎度毎度母に心配を書かせていたが俺の自慢の演技に塗れた笑顔に騙されてくれたからなんとかなって、今に至っているのだ。
「つまり、あのお姉さんにお兄ちゃんが小説家であることを隠していればいいんだよね?」
「よろしく。ないとはわかっているんだけど結構トラウマに過るから」
「はいはい……。それで家にはどうやって帰るの?」
「おいておけばいいだろ……。ってだめだ!舞雪華、一人で家に帰れるか?」
「私は大丈夫だよ?」
「ならそうしてくれ!ちょっと急ぎの問題が発生してる!」
「う、うん……。また行っていいとき教えてね!」
その言葉に返事を返しつつ俺はきた道を爆速で戻るのだった。
——七星、お前は人のパソコンを開いたりしないよな……——。
勉強と創作厨は恋が克服できない 神坂蒼逐 @Kamisaka-Aoi1201_0317
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