第1話
偶然の出会いは嫌なもので
HRの静寂に二人の絶叫がこだました。
「うん?
そんな担任の声にため息で返す。
流石に気まずいものがある。昨日の今日だ。流石にあの質問をされた後で鉢合わせは一生したくないと思っていたのにこのざまだ。流石に運が悪いに程がないか?
「い、いえ……。別に知り合いじゃありませんよ」
「そうです。別に俺らは知り合いじゃないですよ」
さっきした反応から見たら明らかに嘘とバレてしまいそうだが案外気のせいだったのか、と流してくれた。
……また時間が過ぎた頃にネタにしてくるんじゃないだろうな、と考えていたがそのような様子もないしどうやら杞憂のようだった。
「はぁ、面倒なことになった……」
「何が、面倒なんですか?」
その声が聞こえて振り向くとそこには七星がいた。
「……別に。なんでもないだろ」
「……昨日の質問の答えは、どうなんですか」
その言葉に肩を跳ね上げる。正直学校内で答えるのは抵抗がある、いや絶対に答えたくない。
「ノーコメントだ。前も言ったろ?」
そういうと若干頬を膨らませて、不貞腐れたような態度で離れていった。ったく。誰のせいでこんな心配抱えているんだと思ってるんだか。
「はっ、まさか本当だから答えられないの!?」
「だからしつこいなっ、俺は別に小説家でもなんでもねぇって」
昨日の話だが、部屋に戻ろうとする悠真を呼び止めた七星は、こう言い放った。
「貴方って、ネット小説家なんじゃないですか?」
「……はぁ?」
図星だからこそ返事は少なくしていく。俺だってバレたいわけじゃないしな。
「少し前にあとがきを書いてそこに自分の特徴的なことを書いてたじゃないですか。それにピッタリ一致してるんですよ」
「……それで?俺がネット小説化だってそんな理由で思ってるのか?」
「うぐ、でも仕方がないじゃないですか。あの人のファンなんですから、私」
そもそもここまで焦る必要はないんじゃないか?確かに俺はネット小説家であるが、この日本という国の中には無数にそんな人がいると言っても過言ではない。だからこそ俺はその中の一人であって七星がファンとして向き合ってる小説家の人とは別人なのだろう。
「聞いちゃいいのかわからんが……、そのネット小説家の名前ってなんなんだ?」
「えっと、その……、あはは」
「え、そんな名前なの?」
本当にそうなのであれば俺でないことが確かだ。しかし現実とは非情なもので……。
「ごめんなさい……。ファンだと自称している私ですけどあの人の正式名称をいまだにわかってないんですよね。名前を変えればもう少し好印象に思ってもらえて小説も読んでもらえそうなのに、残念に思いませんか?」
「それは残念なやつだな。てか、どうせだしその人のブログ?そういうの開けないのか?そしたら俺なら読めるかもしれない」
「そうですね。えっと……、ああ、これですこれです。この……なんて読むんですかね?」
苦笑いしながら見せてきたその画面は俺にとっては一撃必殺の画面だった。
「あ、え、っとだな……」
俺はとてつもなく焦っていた。そこに写っていたのは俺の小説家としてのサイトだった。しかもパクリでなければ完全に俺のアカウント。つまりこいつは俺の少ない少ないファン?
……ちょっと待て、だとしたらこいつにその事実を教えたら面倒なことになるんじゃないか?
実は昔親父も小説家をしていたが、とあることがきっかけで小説家をやめたのだ。その原因が、いわゆる女性トラブルのようなものだった。
親父はファンに対してサイン会を行った時に女性ファンに帰り際に尾行されていることに気づかず家に言ってしまってそこに押しかけてきたのだ。
それが怖くて親父は小説家を辞めた。
その話を間近で幼いながら経験した俺だからこそその危険性は身に染みてわかっている。だから俺は絶対に話したくはなかった。
「多分だが、
「この漢字ドクダミって読むの?」
「常用漢字じゃないから習わないかもな。俺は、なんか覚えてたからな」
「なんでそこ曖昧なの?」
「うるせぇ。これで用は済んだか?」
こう言ったらもう七星も撤退してくれるだろう。そう期待していたのに、彼女は俺の意を反して、
「何を言ってるの?貴方が結局ネット小説家かどうかを聞いてないじゃん。ノーコメントとかで逸らされてもYESかNOか、どちらか私が理解できるまでは聞き続けるからね」——。
と、まあ。このように俺はいまだに言い寄られていた。そもそも俺は女性不振気味だしそもそも恋愛沙汰なんてものは興味さえない俺は女子に何をされてもどうでもいいと考えてしまっていた。
「ご近所同士の秘密ってことでさ、教えてよ。ネット小説家なんでしょ?」
「違うって言ってるだろ?しかも帰宅途中にもそんな話をするなよ……」
「だって、帰宅途中って安心して気が抜けてそうじゃん?だからそれをつついたら答えが見えるかなって」
「お前、案外見た目に反して策士だな」
「はぁ!?見た目に反してって何よ!?ひどくないっ!?」
急に激怒する七星の言葉を右から左へ流して、俺は不戦勝を狙っていた、のに……。
「教えてくれないなら家に上がり込むけどいいの?」
「……はぁっ!?」
こいつはそう持ち出してきた。流石に俺も家にこいつを上がらせたくない。秘密もバレるし男として女子をそもそも部屋に入れたくない。
「何?いかがわしい事実でもあるわけ?」
「健全な女子が何言ってるんだよ!?」
「なら早くそうだって認めたら?」
「違うって言ってるだろ……、はぁ」
つい俺がため息をつくとその反応に少し不満を感じているのか、頬を膨らませながらネチネチと愚痴を言ってくるが、そんな言葉は全くを持って耳に入っていなかった。
どうやって七星を撒くか。それが今の最大の目標だった。
結局、最終的に俺の家に上がらせなければいいのだ。しかしこいつはそんな俺の考えを逆撫でするかの如く逆なのだ。
(良くも悪くも、だな)
今のまま進展がなければ結局八方塞がりになることは目に見えている。だから俺は今のとある状況をラストチャンスだと思って行動に移した。
七星は、目を瞑っているようだ。なら問題はなさそうだ。
俺は偶然にも靴紐が解けていたためそこで結び直す。そんな俺を見ることなく通り過ぎてく七星。そして通り過ぎてから即座に俺は路地裏に隠れた。
「それで、結局——って、逃げられたあぁっ!?!?」
俺は学校でも極力あいつと二人だけにならないように気を引き締めることにした。
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