最終話 さよなら(12/15)

■シーン12■ 有明総合病院、廊下


       病室の扉が開いて優香が出て来る。さばさばした表情で歩き出す。

       その後ろで、病室から翔が転がり出て来る。


翔    :「優香っ!」

       廊下を転げそうになりながら走る。

       優香に追い付き、腕に取りすがる。

       優香、振り返る。


翔    :「おい、優香! おまえ、おま、おまおま‥‥」

優香   :「(怪訝な顔)日本語で言ってくれる?」

翔    :「お前! なんであんなものを持ってるんだよ!?」

優香   : 指を頬に当てて、小首を傾げて、

      「さあ‥‥。どうしてだったかなあ‥‥・?」

       にっこりと魅惑的な笑みを翔に投げる。

       歩き出す。


       優香、歩み去る後ろ姿。


優香   :「さーて! 彩香ちゃんの好きな果物でも買って来てあげよーっと!」


       翔、茫然と立ち尽くす。

       はっとして、あわてて優香を追いかける。


翔    :「おい、優香ー! 待ぁってくれ、優香ーっ!」



■シーン13■ 有明総合病院、病室


       ベッドを囲む獅子王、風花、医師、看護師。


医師   :「体温、心拍数、血圧、上がって来ました。峠は越えたようです」

医師ら  :「(どよめく)おー‥‥」


       獅子王、朝倉医師の右手を握り、体を抱き締める。


       病室内。看護師を残して医師達が引き上げ始める。


       壁にたたずむ啓吾。

       朝倉医師が前まで来ると、啓吾の肩を軽く叩く。

       啓吾、頭を下げる。

       朝倉医師、そのまま歩いて行く。


       啓吾を見ていた風花。その前を医師らが通り過ぎていく。

       風花、ふと病床を見やる。


       ベッドの彩香、かすかに目蓋を動かす。薄目を開ける。


       覗き込む風花と獅子王、彩香からの視点。焦点がぼやける。


       ベッドの彩香、かすかに眼球を動かす。


       覗き込む風花と獅子王。


風花   :「彩香!」

獅子王  :「彩香! 俺だ、判るか!」


       ベッドの彩香、茫然と、


彩香   :「獅子王様‥‥。風花‥‥」


       ベッドを取り囲む獅子王と風花。


風花   :「(泣き笑い)彩香っ! 判るのね、彩香!」


       彩香、目を左右に動かす。


彩香   :「あたし‥‥?」

       ふと、ベッドの足元を見やる。


       病室の隅に啓吾、始め焦点はぼやけて。


       彩香、啓吾を見つめる。風花が気付いて啓吾を見る。


       病室の壁に啓吾、彩香を見つめ返す。


       彩香、啓吾から目をはずす。ぼんやりと視線を彷徨(さまよ)わせる。


       獅子王、彩香を両腕で抱きしめ涙を流す。


獅子王  :「彩香ーっ!」


       彩香、どこか無表情に獅子王に抱かれている。


       啓吾、視線を落とし、壁から離れる。



■シーン14■ 有明総合病院、外来ロビー


       外来ロビー、大勢の看護師、患者、などなど。

       朝の業務が始まっている。

       啓吾が歩いて来る。右腕を吊り、左肩にキスリング。周囲の人間は、啓吾には目も止めない。


       病院玄関、外の光を背景に翔。


翔    :「おい、啓吾!」

       走って来る。


       啓吾と、走って来た翔、向き合う。

       背後に外来受付カウンター。通常業務が行われている。


翔    :「どうしたよ。彩香ちゃん、意識戻ったか?」

啓吾   :「記憶が戻ったらしい。万事めでたし、めでたしだ」

       歩き出す。


       啓吾、玄関の外の光を背景に歩み去る。


啓吾   :「俺の役目も終わったよ!」

       声が通路にエコーする。

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