最終話 さよなら(11/15)

■シーン11■ 有明総合病院、病室


       ベッドに彩香、顔に酸素吸入マスク。


医師   :「心拍数、血圧、ともに低下」


       ベッドを囲む獅子王、風花、朝倉医師ら、看護師。


朝倉医師 :「強心剤を増量」


       扉が開く。啓吾、右腕を吊って入って来る。

       風花のみが振り返る。

       画面を遮るように2名の武装天人が立つ。

       啓吾、左右の武装天人を見る。おとなしく壁に寄りかかる。


       ベッドを囲む獅子王、医師ら。

       バイタルモニタが警報を鳴らす。


医師   :「心停止!」


       啓吾、身を乗り出そうとする。

       2名の武装天人が前を遮る。


       朝倉医師、彩香に心臓マッサージを施す。


朝倉医師 :「電気ショックを!」


       医師ら電極をあてがう。

       彩香の体がベッドで跳ね上がる。


       啓吾、目を強く閉じて顔を背ける。


       ベッドを囲む獅子王、医師ら。

       朝倉医師、心臓マッサージを続ける。


看護師  :「脈拍が戻りました」

医師   :「心拍数、血圧、やや安定」


       朝倉医師、マッサージを止める。


朝倉医師 :「このまま様子を見よう。一定時間ごとの強心剤の投与」


       ベッドを囲む獅子王ら。獅子王が振り返り、武装天人が前に進み出る。


獅子王  :「彩香の移送の用意をしろ」

武装天人 :「は?」

獅子王  :「移送だ。今すぐだ!」


       啓吾、壁から体を浮かして、


啓吾   :「おい、あんた!」


       風花、獅子王に振り返って、


風花   :「獅子王様、今、移送だなんて!」

獅子王  :「(風花に向かって)口出しするな! 司令官は俺だ!」

風花   :「無理です! こんな瀕死の状態の、その上『九耀』もない彩香を動かすだなんて!」

獅子王  :「(自分の胸当てを叩いて)『九耀』ならばここにある! 俺が死なせん!」


       啓吾、獅子王を見つめる。ふと、風花に目を移す。


啓吾   :「風花さん、あんた達の『九耀』は、一体、何なんだ!?」


       風花、啓吾に振り返る。


風花   :「わたし達天上人の体は、実はとても不安定で、時間が経つと空の雲の様に消えてしまうものなのです。『九耀』には、わたし達の肉体と魂とを一つに結び付けておく力があるのです」

啓吾   :「(愕然と)じゃ、じゃあ、『九耀』を失くした彩香は!」

獅子王  : 啓吾に目を据えて、

      「彩香は死なせん! 彩香は俺が連れて帰る!」

       彩香のベッドの脇に下がって、

      「彩香は俺の妻となる帝釈天家の娘だ。こんな、汚れた地上の空気の中で死なせるものか!」


       獅子王、彩香の枕辺に手を付いて、


看護師  : 師子王を制止し、

      「いけません、お下がり下さい!」

獅子王  :「彩香! 目を覚ましてくれ、彩香!」

看護師  :「患者に障ります! お下がりになって」

獅子王  :「俺はここだ! 聞こえんのか、彩香!」

       看護師の腕を振り払って、

      「子供の頃のお前の清げな笑顔が好きだった。お前を見るのが楽しみだった。だのに、なぜだ!? 俺の前ではお前は笑わぬ。脅えた様に目を伏せる」

風花   :「(獅子王の背後に回って制止して)獅子王様!」

獅子王  :「(風花を振り払って)俺は、終われん! このままでなど、俺は終われん。俺を一人にしないでくれ! 彩香! 俺の彩香!」


       啓吾、獅子王を見つめる。


       ベッドにうずくまり号泣する獅子王。


       獅子王を見つめる風花。


優香(声のみ):「心配する事はないわ」


       風花、振り返る。


       扉が開いて、優香と翔が入って来る。優香の手には茶色い紙袋。


優香   :「この病院で、ゆっくりと休んで行けば良いじゃない」

       紙袋の中身を取り出す。

      「『九耀の腕輪』なら、ここにあるわ!」


       優香の指先で『九耀の腕輪』が光を放つ。「帝釈」の文字が浮かび上がる。

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