最終話 さよなら(3/15)
帝釈天邸、奥殿。
獅子王、剣を手に渡殿をどかどかと歩いて来る。
獅子王、局の前、唐紙を開く。
文机の前に彩香。白い寝間着の上に草色の表衣姿。お下げ髪。驚いた様子で振り返る。
獅子王、戸口に立つ。
彩香、筆を置き、席を立つ。獅子王の前に座ると、深々と頭を下げる。
彩香 :「(頭を下げたまま小声で)おかえりなさいませ」
獅子王、立ったまま彩香を見下ろす。
獅子王 :「今時分、何をしておる」
彩香 :「(頭を下げたまま、やや震え声)算術の手習いをしておりました」
獅子王、目を上げ文机を見る。彩香に目を戻す。
獅子王 :「算術か。彩香は算術が好きか?」
彩香、無言で頭を下げたまま。
獅子王 :「好きかと聞いておる!?」
彩香 :「(小声)はい」
獅子王 :「好きか!?」
彩香 :「(更に小声)はい」
獅子王 :「(ややいらついた表情)‥‥好きなら、続けよ」
彩香 : 頭を下げたまま、かすかに肩を震わす。
獅子王 :「続けよ!」
彩香、身体を起こす。顔を伏せたままで文机に戻る。
文机の前に腰を下ろし筆を取る。
獅子王、剣を杖にし、唐紙にもたれて崩れる様に座り込む。
頭を上げて大息を吐く。
文机の彩香、思わず着物のたもとで口元を押さえて顔をしかめる。獅子王の方を振り返る。
獅子王、視線に気付いて顔を戻して彩香を見返す。
獅子王 :「何をしておる? 続けよ」
彩香、文机に視線を戻す。巻き紙に筆を降ろす。筆が進まない。
獅子王、剣を床に転がし、座り込んだまま室内を見回す。退屈げに目を閉じ、大息を吐く。
彩香、筆を手に巻き紙を見つめ続ける。顔をしかめる。
ふいに、後ろから、獅子王の腕が抱きすくめる。
彩香、息を止め、体を硬くする。
獅子王、彩香を抱いたままで、荒々しく息を吐く。
彩香、顔をしかめる。小袖の袖で口元を押さえる。
獅子王、彩香の体を無理矢理自分に向けさせ、唇を重ねる。
彩香、初めて抗う。顔を背ける。もがく。
獅子王、彩香の体を持ち上げると、寝台に倒す。
彩香の表衣を引き下ろし、唇を執拗に求める。
彩香、口を引き結んだままで顔を背ける。
獅子王 :「あや、かっ!」
彩香、全身の力で獅子王を押しのける。
獅子王、床に倒れる。手に彩香の表衣のみが残る。
獅子王 :「彩香!」
走り去る彩香の足音。
屋敷の庭を白い寝間着姿で走り去る彩香、後ろ姿。
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