最終話 さよなら(2/15)

■シーン2■ 有明総合病院、病室


       病室。

       ドアの前に立つ獅子王とベッドに上体を起こした彩香。

       部屋にはブラインドの影が伸びる。

       獅子王、ドアの前に仁王立ちして、彩香に声を掛ける。


獅子王  :「どうだ、具合は?」


       彩香、獅子王を見ていた目を逸らす。

       獅子王、フンと鼻を鳴らす。部屋を横切り窓辺に立つ。彩香に振り返る。


獅子王  :「お前が元気づく話を一つしてやろう。お前を訪ねようとしていた地上人がいた」


       彩香、はっとして獅子王に顔を向ける。


獅子王  :「帰ったがな」


       彩香、口を真一文字にして獅子王を見つめる。

       獅子王、興深げに、彩香の様子を見つめ返す。


獅子王  :「ほおお。やはり元気な顔になったな」


       彩香、顔を背ける。


獅子王  : 窓辺を離れて、彩香のベッド脇まで来る。

      「何があった、あの男と?」


       彩香、顔を背け続ける。

       獅子王、彩香の髪を鷲掴みにして無理矢理顔を起こさせる。


獅子王   「言ってみろ。それとも、人に言えぬ様な事か」


       彩香、獅子王を睨みつける。


獅子王  :「お前も、父親と同じだな。地上人などと穢(けが)らわらしい」

彩香   : 獅子王に髪を掴まれたまま、

      「啓吾さんは、あたしに何もしないし、啓吾さんは穢らわしくない!」

獅子王  :「(激して)地上人の男の名など口にするな!」

       手を振り離す。


       彩香、ベッドに倒れ伏す。顔を上げて獅子王を睨みつける。


獅子王  : 彩香を見下ろして、

      「彩香、お前は本当に記憶がないのか? それとも、俺へのあてつけにそんな振りをしているのか?」


       彩香、獅子王を睨み続ける。


獅子王  :「お前、まさか3年も前の事を、まだ、根にもっているのではないだろうな?」


       彩香、初めて、怪訝な表情を浮かべる。



■シーン3■ 3年前、帝釈天邸


       夜の帝釈天邱。門が開き、牛車が入って来る。


       牛車を降りる獅子王。やや酩酊。

       家令が出迎える。


家令   :「おかえりなさいませ。獅子王様」

獅子王  :「んー。今、戻った」

       家令に剣を渡して、玄関口へ歩き出す。やや足がもつれる。

家令   :「今宵も、遅うございましたな」

獅子王  :「仕事だ」

家令   :「それは存じておりますが、お役目に就かれてより、ちと、お過ごしなご様子でございますな?」

獅子王  :「仕事だ」

       玄関に入る。


       玄関に入る獅子王と家令。


家令   :「それは、よく存じておりますが、帝釈天様も、ご心配遊ばしているご様子でございます」

獅子王  :「父上が心配しているのは、俺の女づき合いの方であろう。ただの酒の席だ」

家令   :「そう申されましても、こう続かれますとお体にも障られます」


       獅子王、立ち止まって辺りを見回す。


家令   :「それに、いくらお酒だけと申されましても、世間の目というものがございます」

獅子王  :「静かだな」

家令   :「は?」

獅子王  :「静かだと申しておるのだ」


       画面、左から右にパンして玄関広間を展望。


家令   :「さようでございますな。既に帝釈天様も奥方様もお休みになられておいでです」


       獅子王、冠をはずして家令に渡す。


家令   :「もう少しお早くお帰りになれば、帝釈天様もお目覚めでございました事でしょうが」


       獅子王、マントをはずし床に落とす。剣帯をはずして家令に渡す。


獅子王  :「彩香はどうした」

家令   :「(獅子王のマントを拾い上げ)彩香様も、とうにお部屋にお下がりでございます。お休みになられたかは存じませぬが」


       獅子王、上の衣の襟首をゆるめる。


家令   :「彩香様も、そろそろ、そうした人の噂や獅子王様のお振る舞いなどをお気になさるお年頃でいらっしゃいます。暮れ暮れも、軽挙なお振る舞いは謹まれますよう、お気をつけ遊ばされねばなりませぬよ」


       獅子王、家令から剣のみ受け取る。

       剣を手に広間をどたどたと歩いて行く。

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