最終話 さよなら(1/15)
■シーン1■ 優香のマンション
優香、アップ。驚いた顔。
優香 :「フィアンセ!?」
優香、テーブルに両手をついて、身を乗り出す。
風花、テーブルに座って平然とうなずく。
優香 :「あの獅子王とか言う偉ぶった人が彩香ちゃんのフィアンセだっていうの? だって、あの人、帝釈天の息子って。て事は彩香ちゃんの従兄じゃない!?」
風花 :「(不思議顔で)そうよ。従兄くらいで、何も驚く程の事は」
優香 :「(いらいらした表情)そんな事聞いてないわよ。つまり、その、二人は愛し合ってる仲だって言うの?」
風花 :「(ちょっと赤面して)あ、愛し合っているかなんて、当人にでも聞かなきゃ判らないけど、でも、彩香は、ずっと帝釈天様の許で育ったのだし、気心は知れているのでない? ただ‥‥、」
優香 :「ただ、何よ?」
優香、椅子に腰を下ろし、急須を取って2つの茶碗にお茶を注ぐ。
優香 :「わたし、しっくり来ないなあ。彩香ちゃんにああいう乱暴そうな人って。大体、あの人、歳いくつよ?」
風花 :「27だったと思うけど」
優香 :「10も違うんじゃない!」
茶托を差し出す。
風花、出された茶碗を見て嬉しそうに指で拍手。優香の視線に気付いて、あわてて手を膝に置いて居住まいを正す。
咳払い。
風花 :「彩香のお相手は、獅子王様でなくちゃいけないのよ」
優香 : 自分の茶碗を手に、怪訝な顔で、
「何、それ?」
お茶をすする。
風花 :「(少し言いにくげに)この間もお話したけど、彩香は帝釈天家の嫡流の血をひく天女なの。
もちろん、獅子王様は現帝釈天様のご嫡男だし、帝釈天様がご自分の地位を獅子王様にお譲りになるに何の支障もないのだけれども、でも、もし、彩香がよそに嫁いで男の子が生まれて、その子が武装天人にでもなった場合、色々ややこしい事になるかも、なんて事も、帝釈天様としてもお考えになるんじゃないのかなあ、なんて事とか‥‥」
優香、茶碗を茶托に戻して、身を乗り出すようにする。
優香 :「何、それ!? バカバカしい!」
風花 :「(気分を害した様子で)バカバカしいって、それ、優香さん!」
優香 :「(激して)バカバカしいわよ! 何よそれ!
あなたね、この地上の世界の事を、第3物質がどうのこうのって色々言うけど、あなた達の世界の方がよっぽどバカバカしいわよ。何で、彩香ちゃんの一生がそんな事のために決められなくちゃならないのよ!」
風花 :「(負けずに激して)そりゃあ、優香さんの言う事も判ります。わたしなら、誰とでも好きな人と暮らします。けど、事は帝釈天家の相続の問題だし、第一、彩香がそれで納得しているんだもの、仕方がないじゃあない!」
優香 :「(更に激して)納得なんてしてないから、吉祥宮で研修生してるんじゃない!
大体、何よ、あの獅子王って人。フィアンセとか言いながら、今まで一度だって彩香ちゃんのために地上に下りて来なかったんじゃない!」
風花 :「(勢いをなくして)そ、それは、わたしが間違った報告をしちゃったからで‥‥」
優香 :「(そっぽを向いて)関係ないわよ。今まで彩香ちゃんを守って来たのは啓吾君よ」
ドアをノックする音。
優香 :「(顔だけ玄関に向けて)はあい!」
優香と風花、しばし、玄関を見る。
風花 :「(恐る恐る)あのお、優香さん? あの土門啓吾さんと彩香とは、何かあったの?」
優香 :「(体ごと向きを逸らして)知らないわよ、そんな事。当人にでも聞いたら?」
風花 :「(当惑して)そんな、優香さん! 彩香は今、意識不明で面会謝絶‥‥」
ドアをノックする音。
優香 :「はい? どなた?」
二人、しばし、玄関ドアを見る。
風花 :「とにかく、彩香は今、研修所の卒業と架冠の儀式を控えてただでさえ注目の的なのに、変な噂が広まったりしたら、大変なスキャンダルよぉ」
優香、風花には目もくれずに席を立つ。
風花、悲しげに茶碗をのぞき込みながら独白。
風花 :「彩香、早く意識を戻してよぉ。火竜の状態だって聞きたいんだから‥‥」
優香、玄関ドアの前に立って、ちらっと覗き穴を覗く。
優香 :「翔なの? 勝手に入ればいいでしょう!?」
ロックを外し、ノブに手をかける。
風花、ダイニングテーブルで頭を抱えて、
風花 :「(弱り切った風情)火竜が分裂を始めているなら、熱擾乱だって起こりかねない。彩香の話を聞かなきゃ対策なんか立てらんないわよ‥‥」
優香、玄関ドアのノブをひねりかける。
玄関ドアが外から勢い良く開く。翔の体が放り込まれる。
翔 :「いててっ!」
優香 :「翔!?」
続いて、3名の武装天人が押し入って来る。
武装天人 :「吉祥宮天女・風花! 地上人との不正接触の廉(かど)で捕縛する!」
優香、床に倒れた翔をかばいながら、愕然とした表情。
振り返った風花、茫然。
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