第8話 天上への光(13/13)

       啓吾、自衛官、振り向く。

       道路に1台のジープ(運転手は自衛官)。その上に獅子王。孔雀の冠、『九耀』の胸当て、白い武具、白いマント。


       翔、ジープの方へ一歩出る。


翔    :「何だよ、あんたは」

獅子王  :「帝釈天が一子、帝釈宮地上派遣部隊司令官、獅子王だ」


       獅子王、ジープを飛び降りるとこちらに歩いて来る。武具がチャリチャリと音をたてる。

       啓吾と獅子王、向き合う。身の丈はほぼ同じ。冠の分、獅子王が大きく見える。


獅子王  :「お前が土門啓吾か。彩香がずいぶんと世話になったそうだな。礼を言う」

啓吾   :「あんまり、礼を言われている気分がしないな。通す必要がないってのはどういう意味だ?」

獅子王  :「お前の役割は終わったという事だ。彩香は俺が守る」


       啓吾、眉をぴりりと震わす。


獅子王  :「お前には帝釈宮より追って報奨を取らす。礼ならばそれで十分だろう」

       向きを変えて行きかける。

啓吾   :「そんなものは欲しくはない! 彩香をどうするつもりだ!」

獅子王  : 再び振り返って、

      「むろん、天上界へ連れて帰る。だが、その前に火竜を片付けて行く。あの火竜は、もう一度、彩香を狙って現れるはずだ。あれが外天界に戻るすべはほかにないからな。そこを叩く。お前たちは、安心して寝蔵に帰るがよかろう」


       啓吾、紅潮する。歯を剥き出す。息を吐き出す。


       獅子王、啓吾を見る。

       戻って来る。


獅子王  : 啓吾の顔を覗き込んで、

      「なるほど。報告通り、鼻息だけは荒い男らしいな」

       啓吾から身を引き、

      「お前のその荒息のために、彩香は取り返しのつかない傷を負ったのだ! その事を忘れるな!」

       身を翻す。


       獅子王、ジープに乗り込む。

       啓吾、後ろ姿、画面手前に立つ。

       焦点移動。啓吾にピント。

       啓吾の拳が細かく震える。

       画面、上へチルト。啓吾の肩が震える。


       啓吾、表情アップ。

       歯を食いしばる。視線を伏せる。

       ぐっと顔を上げる。


啓吾   :「教えてくれ! 頼む! 彩香の容体はどうなんだ!?」


       獅子王、ジープの座席で振り返る。


獅子王  :「彩香は意識不明だ。目が覚めなければ、お前が殺したも同じだ!」


       ジープが走り去る。


       翔、走り出てジープを見送る。振り返る。


翔    :「何だよ! あの野郎は!?」

自衛官1 : 気の毒そうに、

      「済まないな。あの少女に関しては、あの方が最高決定者だ。要するに、本来の身元引き受け人という事だな」

翔    :「身元引き受け人って、じゃあ、啓吾の立場はどうなるんだよ!」

啓吾   :「翔!」

       向きを変える。すたすたと歩き出す。

      「帰るぞ」


       啓吾、イプサムに乗り込む。翔、あわてて走って来る。


翔    :「おい、啓吾! 帰るって、あんな事言われて、黙ってる手はないだろう! おい、啓吾!」

啓吾   :「(うるさげに)ちょっと考えさせてくれ!」

       シートにもたれて気持ちを鎮める風情。


       イプサム、走る。正面からの構図。運転席に翔、助手席に優香。


翔    :「何だよ、あのいけ好かない野郎は! 大体、あいつの言ってるのは、彩香ちゃんを囮に使うって事じゃないかよ。 おい、啓吾! どうすんだよ、このままでいいのかよ!」


       後部座席の啓吾。黙って伏せていた顔をふっと上げる。


啓吾   :「(独白)違うなあ! あの男、間違ってる。火竜の狙いは彩香じゃない‥‥」


       啓吾、はっと表情を変える。


       晴海通りを走り去るイプサム。



■シーン9■ 有明総合病院


       病院玄関前、ジープが止まり、下りる獅子王、そして、随伴の武装天人。

       数名の武装天人が迎える。


獅子王  :「どうだ」

武装天人1:「は! 着々と」


       獅子王、ジープに同乗していた武装天人2に。


獅子王  :「吉祥宮の風花があの者たちと渡りをつけている。監視をつけろ」

武装天人2:「(低い声で)はっ」

獅子王  :「現場を押さえるのだ。不正接触の罪で捕縛する」


       病院の廊下を歩く獅子王。武装天人3が付き従う。


獅子王  :「まったく、我が父上も策士だとは思わぬか? 地上への使節派遣が動かぬと見ると、息子の俺を賛成に回して、たちまちに主導権を握ってしまわれた。もっとも、そのお陰で、俺も仕事がやり易い」

武装天人3:「は! しかし、吉祥宮でも、我々の動きを探っている模様です」

獅子王  : 薄ら笑みを浮かべて、

      「それがどうした? 所詮は一枚の紙切れと数名の天女だ。勝手な真似はさせん」

       歩く。

      「この国の自衛隊とも合意が取れた。全てはこの人工島で終わらす!」

武装天人3:「はっ!」

獅子王  :「ぬかるな。火竜を倒せば即座に撤退。天女どもに、地上人との接触などさせん!」


       一室の前まで来て止まる。そこにいた武装天人4が直立する。


獅子王  :「変わりないか!?」

武装天人4:「はっ!」


       獅子王、ドアを開けて中に入る。

       一人で病室に入ると、後ろ手にドアを閉める。顔を上げる。


       逆光ぎみに、ベッドに上体を起こして休む人物。伏せていた顔を起こす。


       人物、アップ。顔を起こすと、彩香である。



第8話 終(『最終話 さよなら(前編)』は12月18日公開予定)

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