第8話 天上への光(11/13)

       風花、うなずく。


風花   :「優香さんのお父様、つまり、彩香のお父様という事ですけど、帝釈天家のご嫡男であられたのです。わたしも祖母からの受け売りですけど、とても優れた、次の帝釈天として将来を嘱望された方だったそうです。

       ところが、お勤めで地上に降りられた際に、―― つまり、優香さんのお母様と出会われて、それで、地上人との不正接触の廉で廃嫡させられたんです。自分から嫡子の地位をお捨てになったとも言われています。弟様、つまり、今の帝釈天様に家督の相続を譲られ、そのまま帝釈天家も出られて第5天上界に移られて、そこで生まれたのが彩香なんです。

       でも、やっぱり辺境でのお暮らしが合わなかったのでしょう、彩香が3才の時に病気で亡くなられて、それ以来、彩香は現帝釈天様、つまり、叔父上様の元で育てられて来たのです。裁縫学校の時に、吉祥天女様の元に行儀見習いに預けられて、以来、私達と一緒に吉祥宮の仕事をしています」


       優香、手元に目を落とす。何度か一人でうなずいてみる。


優香   :「そっか‥‥。死んじゃったのか‥‥」

       もう一度軽くうなずいてみる。ふっと不安な表情を浮かべて風花を見る。

      「それで、彩香ちゃんは、どうなるの?」


       風花、お茶を飲もうとしていたのを、顔を上げる。


風花   :「えっ!?」


       優香、真剣な顔で、


優香   :「彩香ちゃんも、わたし達と不正接触したって事で罰せられるの?」

風花   : 笑みを浮かべて、

      「いえ。今回は完全な事故ですし、それに、今は時代も違います。わたし達の仕える吉祥天女様は、地上人との交わりを昔の様に積極的に行うべきだというお考えですし、獅子王様も、今はわたし達にご賛同下さっています」

優香   :「(不審な表情で)獅子王、さま?」

風花   :「今回、武装天人の部隊を率いて来られた司令官です。帝釈天様のご嫡男で、次の帝釈天になられる方です。わたし達吉祥宮の強い味方です」

優香   :「(安心したように)そう」

風花   :「(表情を曇らせて)ただ、彩香は、翼にあんな傷を負ってしまって、ご婚礼に差し支えはしないかと‥‥、」

優香   : びっくりした顔で、

      「ご婚礼? はぁ!」


       風花、不思議な顔で優香を見返す。


優香   : 合点が行った風で、何度もうなずきながら、

      「はあー、なるほどー。そういう話になる訳なんだ。だからかあ!! そりゃあ、あの彩香ちゃんなら落ち込むわ‥‥」

       風花を見て笑いかけながら、

      「ああ、でも、そういう事なら、心配ないわよ。それなら、そういう事を気にしない男の人と結婚すればいい訳だし‥‥」

翔    :「なになに? 誰と誰が結婚するって?」


       優香と風花、びっくりして顔を上げる。

       テーブルの脇に翔が立っている。

       優香、椅子を立って翔に咬みつく。


優香   :「翔! あんた、黙って入って来ないでよ! びっくりするじゃない!」

翔    :「何度も呼んだぜ」

優香   :「いつよ! 聞こえたかったわよ!」

翔    :「だから、お前、ブザー直せよ」

優香   :「新聞の勧誘がうるさいのよ」

翔    :「新聞くらい取れよ!」

優香   :「インターネットがあれば十分!」


       風花、席を立つ。


風花   :「あのお‥‥、優香さん。わたし、そろそろ失礼させて頂きますわ。宿舎に戻らねばならないものですから」


       優香と翔。ニコニコ顔を風花に向けて、


優香   : 風花につられて丁寧口調になって

      「あら、そおですの!? また、いつでもいらして下さいね。色々とお話したいし」

       翔の脇腹を肘で小突いて、

      「んもう!」

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