第8話 天上への光(9/13)

■シーン6■ 有明総合病院


       病院玄関口、救急隊員、看護師らが駆け足でベッドを運び込む。


救急隊員1:「負傷者、胸部裂傷、肩部、大腿部に深い刺傷。出血多量!」

救急隊員2:「聞こえますか? 病院ですよ!」

看護師  :「第3手術室、受け入れ、整ってます!」


       その後ろに啓吾と優香、翔。


       玄関口(外は暗い)を背景に啓吾、優香、翔。


優香   :「(咎める様に)啓吾君!」

翔    :「なんで帰って来たんだ!」


       頭を抱える啓吾。


       病院の廊下のベンチ。

       啓吾が頭を抱えて座り込んでいる。優香が啓吾の隣に座る。

       その前を、翔が落ちつかなげに歩き回る。


優香   :「ちょっと、翔!」

翔    :「えっ?」

       歩く。

優香   :「翔ってば!」


       翔。背後に手術室。手術中の表示。


翔    :「なんだよ!」

       立ち止まる。

優香   :「落ち付かないから座って!」


       通路の向こうから近づく一つの人影。


       優香が気付く。続いて、翔も気付く。


       さらに近づく人影。


       優香が啓吾の袖を引く。啓吾が顔を上げる。


       吉祥宮天女・風花。蛍光燈に照らされて歩いて来る。

       小袖・袴肩衣姿、白い羽衣。足には鹿革の靴。

       頭に日輪の冠。


       啓吾ら、ベンチから立ち上がる。

       風花、啓吾達の前に立つ。


優香   :「あなたは?」

風花   :「吉祥宮天女の風花と申します。こちらに『土門圭吾』さんという方は?」


       翔と優香、啓吾を見る。

       風花も、啓吾を見る。驚いた表情を浮かべる。


風花   :「あなたは、いつか私達を助けて下さった方ですね!?」

啓吾   : 風花を見て驚きの表情。

      「あ‥‥」

風花   :「(咎める口調で)どうして、彩香をすぐに天上界に返して下さらなかったのです!」


       啓吾、風花から顔を背け目を伏せる。


優香   : 脇から、

      「風花さん‥‥、でしたね? 実は‥‥、」

風花   : 優香に顔を向ける。

優香   :「彩香ちゃんは記憶がないんです」

風花   :「(驚いた顔)えっ!?」

優香   :「彩香ちゃんは、自分が天女だって事は分かるんですけど、どこの誰なのか、どうしたらあなた達の世界に帰れるのか分からなかったんです。だから、わたし達で」


       風花、顔を伏せて、反芻するように考える。顔を上げる。


風花   :「そう、でしたか」

       啓吾を見て、

      「失礼な事を申しました。彩香を、守っていて下さったのですね。ありがとうございます」


       啓吾、頭を抱えて、ベンチに座り込む。


啓吾   :「守ってなんかいない。俺は、あいつを守ってやる事なんか出来なかったんだ」


       風花、背後を見返る。手術室に「手術中」の表示。

       風花、座り込んだ啓吾を見つめて、


風花   :「土門啓吾さん‥‥。彩香は、意識が戻り次第、私達が連れて帰ります。よろしいですね?」


       啓吾、うつむいたままでうなずく。

       座り込んだ啓吾を囲むように、風花、優香、翔がたたずむ。

       手術室の扉が開く。朝倉医師が出て来る。


朝倉医師 :「啓吾君」

啓吾   : 顔を上げて、

      「朝倉先生」

       立ち上がる。


       翔と優香、風花も、朝倉医師を見る。


朝倉医師 : 悲痛な顔で、

      「血液が足りないんだ。出血がひどい」

啓吾   :「ならば、俺の血を輸血して下さい。俺はA型です」

翔    :「俺はB!」

朝倉医師 : 苦痛な声で、

      「駄目なんだ!」


       啓吾、はっとした様に、


啓吾   :「血‥‥、なんですね‥‥」


       啓吾と翔、顔を見合わす。どちらからともなく、かたわらの風花に目を向ける。

       画面、左にパン。

       風花、啓吾達の視線に答えて一歩前に出る。


優香   :「わたしの血を使って下さい」


       振り返る啓吾、翔、風花。優香が一歩前に出る。焦点移動。


       優香、朝倉医師に面対して、


優香   :「わたしの血で合えば、使って下さい。お願いします」

朝倉医師 : 優香と風花を交互に見る。

      「二人とも、こちらへ」

       歩き出す。

       優香と風花が付き従う。


       啓吾、再びベンチにへたり込む。

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