第8話 天上への光(2/13)

■シーン3■ 西新宿


       西新宿方面より新宿駅を望む。夜空がしきりにサーチライトに照らされている。


       京王プラザホテル手前、立体交差に停まったトッポ、傍らに啓吾と彩香。


啓吾   : トッポにもたれて、

      「ドンパチは終わったみたいだなあ。来る事なかったな?」


ラジオ  :「‥‥タイムズスクエアに3体の生物を確認、自衛隊は、最後の攻撃を加えるべく戦力を増強しています」


啓吾   :「(素っ頓狂な声)3体だぁ!?」


       彩香、路上に立って、


彩香   :「また分裂したんです。肥大した火竜は、よく分裂するんです。そうしないと、熱擾乱を起こしてしまいますから」

啓吾   :「ふーん。でも、奴にはその方が都合が良いんだろう?」

彩香   :「いえ、天上の力を持たない熱擾乱では、火竜は外天界に戻ることは出来ないんです。力を失って消滅してしまうだけなんです」

啓吾   :「ふーん」

彩香   :「火竜は焦っているんです。これから秋になって海の温度が下がれば熱擾乱は起こしにくくなります。恐らく火竜は、力がピークになっている今の内に熱擾乱を起こしたいんです。海にも戻らずにいるのは、多分そのせいなんです」

啓吾   :「お前、頭いいな?」

彩香   :「えっ!?」

啓吾   :「『お宮の巫女さん』も勤まるぜ」


       彩香、口元に指を当ててクスッと笑う。すぐに、まじめな顔に戻って、


彩香   :「肥大した火竜は動きも遅いし、空を飛ぶ事も出来ません。今の火竜にとっては、海の中の方が過ごし易いはずなんです」

啓吾   :「だったら、海に戻ってくれりゃいいのに。しつこい奴」

彩香   :「でも、陸にいるのなら、あたしにも出来る事がある」

       啓吾に背を向けて歩き出す。


       彩香、道の中央に立つと、左手を胸の高さに上げて、『九耀の腕輪』を空に向ける。

       右手を、左手に下から添える。

       腕輪から、光が数回、別々の方向へ向かって走る。ピンッ、ピンッと鋭い音。


       啓吾、トッポにもたれて、


啓吾   :「何をした?」


       彩香、最後にもう一回光を空に放ち、啓吾に振り返る。


彩香   :「『九耀』の光を天上に送ったんです。『ここに火竜がいるぞ』って」

啓吾   :「そんな事が出来るのか?」

彩香   :「うん‥‥。ただ、方角が判らないからあてずっぽう‥‥」

       目を落として腕輪を手でさする。

      「でも、天上界でも、火竜が地上に降りた事は分かっているはずですから、誰かが地上に注意を向けていると思うんです。それに賭けるしか」

啓吾   :「なるほど」

       彩香を見て、

      「『九耀』か‥‥。お前、それ、あんまり使わない方がいいぞ」


       彩香、驚いた様子で啓吾を見る。


啓吾   :「それの石は、彩香が落ちて来て大怪我をした時にも一つ失くなった。お前、何にも言わないけど、それ、本当は護身用のアイテムなんかじゃないんだろう?」


       彩香、啓吾から腕輪を隠すように右手で覆う。

       啓吾、トッポから離れて彩香に歩み寄る。

       彩香の頭を胸に抱く。


啓吾   :「無理はするな。『そばにいろ』なんて言ったけど、お前の事は、やっぱり、一度は無事に帰してやりたい。それがきっと、お前には必要な事なのだろうから」

彩香   : 啓吾を見つめる。

啓吾   : 彩香を見つめて、

      「忘れんなよな、俺の事。一人前になったら帰って来いよ」

彩香   : 啓吾の胸に顔を埋める。


       トッポ、車内。


ラジオ  :「あ! 謎の生物が動き出した模様です! 生物がタイムズスクエアから姿を現しました!」


彩香   : 顔を上げる。

      「啓吾さん、動こう! 多分、今の光を見られた!」

啓吾   :「よし!」

       彩香の肩を抱くようにしてトッポに戻る。


       二人、トッポに乗り込む。すぐにトッポが走り出す。


       新宿駅方向から飛来する3体の火竜。遠景。


       青梅街道に出るトッポ。


彩香   :「啓吾さん! 来たァ!」

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