第7話 対決の夜(10/12)

■シーン11■ 谷間の夜

*シーン11-1* 谷間の河原


       河原の石の上にトッポ、俯瞰。

       辺りは夕闇。気の早いスズムシの声。


       トッポの背後に啓吾、携帯電話をかける。


啓吾   :「ああ‥‥、ああ‥‥、分かった」


       啓吾、アップ。


啓吾   :「無事なら、何とでもなるさ。あれも、無駄に暴れるほどバカでもないだろう」


       トッポから少し離れた河原。

       石組みの脇に彩香。

       木枝を吹いて食事用の火を起こそうとしている。顔を上げて啓吾の様子を窺う。


       トッポの陰の啓吾、ハッチバックにもたれて電話。


啓吾   :「彩香か? ‥‥うん、脅えてたけど、今は落ち着いている。一緒にいるのが一番だろうと思うから、車に泊まる。 ‥‥バーカ! まだ、そんな事言ってんのかよ! お前こそ、調子に乗ってんじゃねえぞ」


       彩香、火がつき始めて、食事の支度に余念がない様子。


       啓吾、車の陰から彩香の様子を窺っていたのを、再び車にもたれて、


啓吾   :「ところでさ、翔。(言い澱む)茉莉、どうしてるか分かるかな?」



*シーン11-2* 国立(くにたち)、翔の自宅


       翔、電話。背後の部屋に両親と姉、妹、そして優香、話が盛り上がっている様子。


翔    :「茉莉かー? ちょっと情報ないなー。連絡とってみようか?」



*シーン11-3* 谷間の河原


       啓吾、トッポにもたれて、


啓吾   :「頼む。 ‥‥いや、それはいいよ。こっちに知らせるまでもないけど、もしさ(言い澱む)、もし、助けを必要としている様だったら、力になってやってくれるか?」



*シーン11-4* 翔の自宅


       翔、電話を耳に当ててしみじみと笑みを浮かべる。


翔    :「オーケー。引き受けたぜ。その代わり、お前は彩香ちゃんをしっかりとフォローしろよ。悲しませたら、俺と優香が承知しねえからな」



*シーン11-5* 谷間の河原


       啓吾、アップ。


啓吾   :「(しばらく苦笑して、)ああ」


       啓吾、トッポの陰から出て来る。


啓吾   :「おー、うまいこと火ィついたなー」


       彩香、無表情に啓吾を見つめる。



*シーン11-6* 河原(夕食)


       辺りはすっかり暗い。木の枝に吊ったキャンプ用ランプが辺りを照らす。

       火を囲んで食事をする二人。火を囲み、パイプ椅子に斜に並べて座って。

       虫の声。


啓吾   :「んー? 彩香、ご飯、ちょっと水が多かったぞ」


       プラスチック皿の肉を頬張る啓吾。


啓吾   :「ん? 肉は丁度良い焼け具合。俺は料理の天才だね」

       彩香を見る。


       無言で食事をする彩香。


       啓吾、パイプ椅子から腰を浮かし、自分の皿の肉を彩香の皿に移す。

       彩香、驚いて目を上げる。

       啓吾、彩香を見て、


啓吾   :「食え。食って、もうちょっと背ェ伸ばせ。でないと、」

       彩香に手を伸ばす。


       啓吾の手が彩香の頭をグシャグシャとなでる。


啓吾   :「子供扱いしちゃうぞ!」


       彩香、黙って啓吾を見つめ返す。視線をはずし、黙々と食事を続ける。


       虫の声。

       食事を終え、火を挟む二人。火は先程よりは小さい。


啓吾   :「そうだ! さっきの電話、翔」


       彩香、ちらっと啓吾を見る。手に火掻き棒。目を落として焚き火の世話。


啓吾   : 彩香の様子を窺いながら、

      「あいつ、両親に優香ちゃんを紹介したって。ドサクサ紛れではあるけど、あいつもやる時はやるんだよなあ」


       彩香、黙って火を見つめている。

       ふいに、手から火かき棒を取り落とす。


      「(叫ぶ様に)あたし‥‥、まるで、疫病神みたい!」

       両手で顔を覆う。


       啓吾、驚いて彩香を見る。

       穏やかな笑みを浮かべる。


啓吾   :「彩香のせいじゃない。前にそう言っただろう?」

彩香   :「でも、啓吾さんを縛ってる!」

啓吾   :「(意外な顔で)俺? 俺は縛られた覚えない」

彩香   : 手を放し涙を流しながら啓吾を見上げて、

      「だって、啓吾さんだって、茉莉さんのそばにいたいに決まってるのに!」


       啓吾、驚いてしばらく絶句。

       啓吾、やがて、穏やかな笑みを浮かべて、


啓吾   :「言っただろう? 彩香が好きだ」

彩香   : きっと啓吾を睨まえて、

      「うそです!」

啓吾   : 少しおどけた顔で、

      「うそ言ってどうするよ?」

彩香   : 啓吾を睨んだまま、

      「啓吾さんは、ずっと茉莉さんを、大学の時から茉莉さんだけを愛していらっしゃるんじゃないですか! あたしなんて‥‥」

       顔をそむける。

      「あたしの事なんて!」

       手で顔を覆う。激しく泣き出す。


       啓吾、彩香を眺める。


啓吾   :「(少しおどけて)まるで子供だなあ? 彩香が好きだよ」


       啓吾、彩香が落とした火かき棒を拾い上げる。

       しばらく、火の世話。

       足元の小枝を拾って火にくべる。

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