第7話 対決の夜(9/12)

■シーン10■ 国道299号


       秩父の市街地を抜けるトッポ。

       画面右手後方に羊山公園、さらに右に武甲山。

       周囲は、青々とした水田。


       横瀬を過ぎて山道にさしかかるトッポ。


       彩香、黙り込んでダッシュボードを見つめている。


       啓吾、ちらっと彩香を見る。

       視線を前に戻して、


啓吾   :「夕めし、ちょっと早いけど所沢辺りで食べようか?」


       彩香、黙っている。


啓吾   : 彩香の様子を見て、

      「疲れた?」

       目を前に戻す。

彩香   : 気づいて、

      「えっ!?」

       笑顔を作る。

      「ううん」

       すぐに視線をダッシュボードに戻す。

啓吾   : 彩香の様子を窺う。前を見ながら、

      「明日さ、二人で伊東に行かないか?」

彩香   : 驚いて啓吾を見る。

啓吾   : 彩香を見て、

      「見たがってたろう、うちのお袋のアトリエ? 俺の通った剣道の道場なんかも見せてやれるし」

彩香   : 不安げに、視線をダッシュボードに戻して、

      「でも、啓吾さん、お仕事」

       啓吾を見て、

      「今日だって、あたしのために休んで下さったんでしょう?」

啓吾   : 運転を続けながら、

      「俺も、今年は良く働いたからな。(彩香に笑ってみせ)丁度いい夏休みさ」


       携帯電話の呼び出し音が鳴る。


啓吾   : 彩香を見て、

      「悪い。俺の上着取ってくれる?」


       彩香、シートベルトを外して、体をよじって、後部座席に腕をのばす。


       路肩に止まるトッポ、俯瞰。ヒグラシの声。


       啓吾、電話に出る。


啓吾   : 右手に電話を持って窓枠に肘をつき、

      「翔か?」

翔    :「(声のみ。かなりの雑音交じり)ああ、俺! 啓吾、今どこだ?」

啓吾   : 窓の外にちょっと首を出して、

      「秩父を過ぎて正丸に差し掛かる辺りだ」

翔    :「火竜が動き出した。お前たち、今日はこっちに帰って来るな!」

啓吾   :「えっ!」

       左手でラジオをつける。


       カーラジオ


ラジオ  :「あたかも自衛隊の攻撃準備の整うのを見澄ましたかの様に、生物は六本木谷町ジャンクション跡より飛び立ちました。政府は非常事態宣言を発令、東京都は山の手線内住民に対し避難勧告を出しました。ああーっ! 生物が口から火炎を吐きました。燃えております。アークヒルズが燃えております!」


       彩香、息を呑む。

       啓吾、ちらっと彩香を見て、ラジオを切る。


啓吾   :「(電話に向かって)分かった」

翔    :「(声のみ。雑音交じり)念のため、優香は俺が国立(くにたち)に連れて帰る。連絡はだから国立にくれ」

啓吾   :「OK。気をつけてな」

       電話を切って、しばし携帯電話を見つめる。

      「(軽口の様に)戻るなったって、困っちまう」

       彩香を見て、

      「なあ?」


       彩香、目が開いている。

       両手を組んで口元に当てる。青ざめて震える。次第に肩までが震え出して、啓吾にすがりつく。

       すがりつかれた啓吾、ちょっと困った表情。右手の携帯電話を眺め、それを後部座席に放ると、両手で彩香の体をしっかりと抱き締める。


       彩香、アップ。啓吾の胸で震え続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る