第7話 対決の夜(3/12)

■シーン5■ 優香のマンション

*シーン5-1* 玄関口


       玄関を入る啓吾、出迎える優香


優香   : 「大丈夫、仕事? 随分早いんじゃない?」

啓吾   : 「ああ‥‥。彩香は?」

優香   : 「(気遣わしげに)ずうっと部屋にこもってる。かなりのショックだったみたい」

啓吾   :  優香の肩を軽く叩く。



*シーン5-2* 彩香の部屋


       ドアの前。


優香   : 「彩香ちゃん。啓吾君が来てくれたわ。開けるね」

       ドアを開く。啓吾に目で示す。


       啓吾、部屋に入る。後ろ手にドアを閉める。

       目を上げる。


       ベッドに彩香、上体を起こして手元に視線を落としたまま。


       啓吾、ふと視線を動かす。


       窓。開け放たれている。風がレースのカーテンを揺する。


       啓吾、歩く。


啓吾   : 「外から見える」

       窓まで来て、窓を閉めて厚手のカーテンを閉める。

       部屋の中が薄暗くなる。


       啓吾、彩香を見る。

       彩香は手元を見つめたまま。

       啓吾、しばらく絶句する。


啓吾   : 「来月‥‥、ウーラのコンサートあるよ。ほら、うちの日山ライブステーション。翔に言ってチケット取っておいてもらおう!」

       彩香の様子を窺う。

彩香   :  手元を見つめたまま。

啓吾   :  絶句する。

彩香   :  目線を伏せたまま。

      「雲を見ていたんです。‥‥雲が、流れて行くなって思って」

啓吾   :  彩香を見つめる。

彩香   : 「あたし‥‥、もう、雲も見ちゃいけないんですね!? 表を歩く事も、空を飛ぶ事も‥‥」

啓吾   : 「しばらくの間だ」

彩香   :  顔を伏せたまま。

啓吾   : 「警察と自衛隊がすぐに始末をつけてくれる。表にだってすぐに出られる。みんなでまた遊びに行こう」

彩香   :  顔を上げる。

      「(激して)表になんか出たくない! 翼がこんなになっちゃって、人前になんか出たくない!」

啓吾   :  ひるむ。

彩香   :  瞳が揺れる。

      「守ってくれるって言ったのに‥‥。そばにいてくれるって」

啓吾   :  彩香を見つめる。

彩香   :  顔を伏せて両手で覆う。

      「飛べなくなっちゃうなんて、思わなかった!」


       啓吾、無言でうなだれる。


       彩香、顔を手で覆ったまま。


       ドアが閉じる音。

       しばらくして、彩香、顔から手を放す。

       顔を起こす。部屋を見回す。


       閉じた扉。



*シーン5-3* リビング


       啓吾、彩香の部屋を出てドアを閉じる。

       換気扇の音、油の弾ける音。テレビの音。

       ジュースを盆に載せた優香とぶつかりそうになる。


優香   : 「(やや驚いて)ああ! 啓吾君、これ」

       ジュースのコップを差し出し、小首を傾げて、

      「どうしたの? 彩香ちゃん、寝てた?」

啓吾   :  視線を落とす。

      「ああ‥‥」

       優香の脇を抜けて玄関へ移る。

      「今日は帰るよ。なんか、任せっ放しにしちゃって悪いね」

優香   : 「いいわよ(笑)」



*シーン5-4* 玄関口


       啓吾、靴を履く。

       ふっと手を止める。顔を伏せたまま、


啓吾   : 「優香ちゃん。俺は、あいつのために何をすればいい?」

優香   : 「啓吾君は、良くやっているわよ」


       啓吾、顔を上げる。苦しげな表情。黙って出て行く。


       優香、閉じたドアをしばらく見つめる。肩をすくめてキッチンへ行きかける。

       部屋のドアが開いて、彩香が飛び出て来る。


優香   : 「彩香ちゃん?」

彩香   :  駆け寄ってきて、

      「優香さん、啓吾さんは!?」

優香   : 「え? 今、帰ったわよ」

彩香   :  玄関口に走る。靴を履こうとする。

優香   :  あわてて駆け寄り引き止める。

      「駄目よ! 彩香ちゃん、表になんか出たら絶対駄目!」

彩香   :  顔を上げて優香を見る。優香に取りすがって、

      「優香さん、どうしよう! あたし、啓吾さんにひどい事を言っちゃった!」

優香   :  怪訝な顔で、

      「えっ!?」

彩香   : 「どうしよう! あんなにお世話になったのに! あんなに良くして頂いたのに!」

       手で顔を覆って泣き出す。


       優香、困った様子で彩香を見る。肩を抱く。

       彩香、優香の胸に顔をうずめて泣きじゃくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る